エテルノ・レガーメ2

りくあ

文字の大きさ
上 下
82 / 116
第7章:衝突

第81話

しおりを挟む
翌日。後から合流するガゼル以外のメンバーで、サトラテールの北の森へ向かった。北門をくぐり抜けた先で、見覚えのある人物と顔を合わせた。

「フラン!あんたなんでここに…」
「ニ、ニア…それにシューも…。」

そこには、騎士学校で共に学んだ2人の姿があった。その周りには、見覚えのある顔が何人か集まっている。まさか騎士見習いの彼等まで派遣されていたとは思わず、僕は心底驚いた。

「良かった…!行方不明になったって聞いて…心配してたんだよ…。」
「全く…。生きてたなら連絡しなさいよ!」
「ご、ごめんね。ちょっと…色々ありすぎて…。というか、騎士団以外にも吸血鬼の撃退に参加するとは思わなかったよ。」
「それはこっちのセリフよ。あんた、騎士団から抜けたはずだけど、どうしてここにいる訳?」
「あ、えっと…それは…」
「おいおいフラン。再会を喜んでる場合じゃねぇぞー?」

僕の肩に腕が回され、人の体温と重みが伝わる。視線を斜め後ろに移すと、そこにはギルドメンバーのラズの姿があった。

「ラズ…!」
「君達が、騎士学校で出来たフランの友達かー。初めまして。俺はラズギエル・オズマ。こいつと同じギルドのもんだ。」
「再会を喜ぶ暇は無いのに、自己紹介の時間はあるのね。」
「ちょ…ニア…!初対面の人にそんな言い方…。す、すみません…!」

いつもと変わらぬ様子の彼女を、隣に立つシューが慌ててなだめる。その光景を見て、どこか懐かしさを感じた。

「ははは。いいよいいよ。堅苦しいのは俺も嫌いでさー。君は…ニアちゃんって言うのか。いい名前だね?今度、時間が出来たらお茶でも…」
「ラズ。ニアには婚約者がいるよ。」
「え!?」

彼女にはデトワーズという婚約者がいる。親同士の約束だと聞いた事があるが、貴族である彼等にとって、親の約束と言うのは絶対だろう。
彼女を口説こうとした彼を、僕はやんわりと引き止めた。

「もういいかしら?行くわよシュー。」
「え?あ…う、うん…!し、失礼します…。」

ラズの事を警戒しているのか、彼等はそそくさとその場から立ち去っていった。

「ありゃりゃ。こりゃあ嫌われちゃったかな?」
「彼女は気が強いから、いつもの事だだよ。」
「そっかそっか。なら仕方ないな…っと、油を売ってる場合じゃなかったな。リーガルの所に行こうぜ。」

後からやってきたガゼルも合流し、リーガルを中心に作戦会議が始まった。

「今回の目的は、森を陣取った吸血鬼の部隊を退ける事だ。退けると言っても、遠慮はいらない。向こうも俺達を殺す気で掛かってくるだろうからな…俺達もそのくらいの気持ちで思いっきり暴れてくれ。」
「そりゃあいいけどさ…流石に全員で一緒に動くわけじゃないだろ?班分けはどうする?」
「人数的に、2つの部隊に分けるのがいいだろう。前後のバランスを考えると…。」

リーガルが率いる、ラヴィ、シェリアのチームとラズが率いる、リアーナ、ガゼル、僕の2チームで行動する事になった。

「前衛であるラヴィ、リアーナ、フランはあまり前に出過ぎないように気を付けてくれ。お前達は主に敵の陽動を目的とし、後衛の俺、シェリア、ラズ、ガゼルが仕留める。」
「了解!陽動は得意だよ。」
「一発で仕留められるとも限らない。そん時は、サポートも頼んだぜリアーナちゃん。」
「もちろん。陽動だけじゃ物足りないよ。一発くらい蹴っとかないと気が済まないわ。」
「あんまり張り切りすぎて、怪我しちゃだめよー?」
「わ、わかってるよ…!そんなヘマはしないってば…。」
「他に質問はあるか?」

彼の問いかけに、僕は小さく手を挙げた。

「あの…もしもなんだけど、吸血鬼の部隊の中に僕の知り合いがいた場合、僕はどうすればいいと思う…?」
「そうだな…お前は俺達と違って、吸血鬼との繋がりもある訳か…。」

僕の質問に、リーガルは頭を抱えてしまった。それも当然だ。ここに居るほぼ全員が吸血鬼に対して恨みを持っている。僕のように吸血鬼との接点は無く、吸血鬼を傷付けたくないという考え方がそもそも無いのだ。
黙り込んでしまった彼の代わりに、隣に立っていたリアーナが口を開いた。

「あたしだったら…相手次第かな。向こうが攻撃してくるならあたしも攻撃するし、してこないならしない!」
「俺なら、とにかく衝突を避けるかな。相手がどっちに出てきても、周りに戦ってる奴がいるんだから、味方に迷惑はかけたくねぇし。」

ガゼルは自分の考えを述べた後、ちらりとラズの方に視線を向けた。

「え?俺?俺はそうだな…。俺なら、目の前の戦いに集中すべきだと思うな。…ここは戦場だ。昔は味方だった相手とも、ここでは敵になる事だってある。相手に恨まれようが妬まれようが、自分が残る為に俺は全力で戦う。」
「あたしもラズと一緒かな。お互い全力でぶつかり合えばいいんだよ。ほら、仲がいいほど喧嘩するって言うじゃん?」
「それとはちょっと違うような…。」
「と、とにかく全力!あたしはそうするって事!」

これから命を取り合う戦いをすると言うのに、ラヴィは笑顔を浮かべてそう口にした。
僕はサトラテールを救いたいという気持ちと、吸血鬼と戦わなければならない背徳感に挟まれていた。僕の中にある、ルドルフという存在がそういう気持ちにさせるのか、僕を友と言ってくれたイムーブルの幹部達が帰りを待っているからなのかはわからない。
この問いを投げかけた事により、僕の迷いが一層増えてしまったような気がした。

「…フラン。迷っているなら、お前は剣を振らなくてもいいんだぞ?」
「え?でもそれは…。」
「どっちも助けたいけど、どっちも傷付けたくない…その気持ち、私にもわかるわ。」

そう言うと、シェリアは僕の頭に手を乗せた。その優しいぬくもりに、僕は目頭が熱くなった。唇を噛みしめ、涙が出そうになるのを必死に堪える。

「リーガル。やっぱりフランは、ギルドに残ってもらうのがいいんじゃないかしら?」
「ふむ…。俺はそれでも構わないが…。フラン。お前はどうしたい?」
「僕は…。」

シェリアの言う通り、人間と吸血鬼をどちらも助けたいし傷付けたくない。今から僕は人間の立場に立って、吸血鬼を殺める手伝いをしなければならない。その事で、僕の心は揺らいでいた。

「俺はもう覚悟を決めている。今度こそ、この戦いを終わらせると。」

ルドルフが、迷っている僕にそう告げた。その言葉に、僕は何をしにここへ来たのかを思い出した。
人間である僕を救ってくれた、吸血鬼のステラ様。彼が守ろうとしたのは吸血鬼だけではない。人間も吸血鬼も争いのない世の中にしたい。そんな彼の意志を尊重するなら、この戦いを終わらせる事こそが僕が今やるべき事であると。

「…僕も戦うよ。」
「本当にいいんだな?」
「うん。僕は僕のやり方で、この戦いを終わらせるんだ!」

こうして、二手に分かれた僕達は森の奥へと足を踏み入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...