エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第5章:闇の中の光

第56話

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「こんにちわ~!誰か居ませんか~!」

薄暗い洞窟に、彼の声が響き渡った。

「アレク…声、大きい。」
「ごめんごめん。思ったより反響するから、ついやってしもたわ。」
「雪女さん…いなそうだね。」
「…誰じゃ?」

洞窟の奥から、見知らぬ女性の声が聞こえてきた。

「ま、まさか…雪女…!?」
「誰じゃ誰じゃ!わらわの事を雪女などと呼ぶのは!」

姿を現したのは、小柄で色白な女性だった。見るからにこの気候に適さない、花柄のワンピースを身にまとっている。

「す、すみません!僕、フランって言います。あなたのお名前は?」
「わらわか?わらわは…。わらわの…名前…。」
「もしかして…思い出せないんですか?」
「そ、そんな事はないぞ!ちょっとだけ…ど忘れしただけじゃ。」
「それってやっぱり思い出せな…」
「別に名前はなんでもええんよ!それより俺等、あんたに聞きたい事があって来たんや。」
「聞きたい事じゃと?なんじゃ?申してみよ。」
「この山に登っている途中で、体温が下がり続ける病気になってしまったんです。完全に治るためには、十数年かかると言われました。僕達にはやるべき事があるので、ここにずっと留まる訳にはいかないんです。」
「なぜそのような話をわらわに申すのだ?そんな病気の話など、耳にした事はない。」
「そんな…!あなたが呪いをかけ…」
「呪いじゃと?お主達は、わらわが呪いをかけているとでも言いたいのか?何を根拠にそんな事を申すと言うのだ。」

彼女はまるで身に覚えのない口調で、僕達を責め立てた。後ろで様子を伺っていたユノさんが、彼女の方へ歩み寄りながら口を開いた。

「根拠はない。けど、それならどうしてそんな寒そうな格好で居られるの?いくら洞窟でも、夜には凍るような寒さなのに。」
「この衣は、わらわの特注品なのじゃ。体温を常に一定に保ってくれる優れものでの。これを着ていれば、暑くも寒くもないのじゃ。」
「そんな便利な服がある訳…」
「へー。それはすごい。ありがとう教えてくれて。」
「例には及ばん。何かあれば、また来るが良いぞ。次は茶でも用意してやろう。」
「うん。また来る。」

話を終えたユノさんは、彼女に背を向けて洞窟の入口へ歩き出した。

「ユノさん!まだ話は終わっ…」

彼女はこちらを振り返り、首を横に振った。これ以上の話し合いは、どうやら無意味らしい。そう感じた僕は、彼女の後に続いて洞窟の外に出た。

「なぁユノ…なんで問い詰めなかったん?どう見ても怪しいやんあの雪女。俺でもわかるで?」
「そうだよ!もっと彼女から、色々聞くべきじゃない?」
「いいこと思いついたの。聞いてくれる?」

それからユノさんは、雪女がどのようにして呪いをかけているのかを話し始めた。
雪女は自身の魔力で、あのワンピースを作り出した。彼女が言っていた通り、あの服には特殊な力が込められている。
暑い時は自身の熱を身体の外に放出し、寒い時は他者の熱を身体の中に取り込む。その他者というのが、体温が下がり続ける病気になってしまった患者達という訳だ。
恐らく彼女は、意図して僕達から体温を奪っている訳ではなく、何らかの要因で、服が他者の熱を奪っているのだ。
全て彼女の憶測だが、先程の雪女の口ぶりを見る限り、筋は通っている。

「それが呪いの正体。多分原因はあの服。」
「なるほどなぁ…。問題は服の方やったか…。」
「でも、男性ばかりが被害にあってるのはなんで?その理屈なら、女性でもいいはずだよね?」
「それについてはこれから調べる。ミグ。お願い。」
「雪女以外の匂いを追うんだな。任せとけ。」



ミグさんの後をついて行くと、雪女が居た洞窟に似ている洞穴の前に辿り着いた。

「…ここだな。」
「雪女以外の匂いって…誰なん?」
「彼女の旦那さん。」
「え!?旦那さんって…雪山で遭難して亡くなったんじゃ…。」
「ミグみたいに匂いはわからないけど、私達以外の魔力を感じた。」
「そっか!彼女の所に旦那さんを連れていったら、町に戻ってくれるかも!」
「そしたら熱を奪う必要も無くなって、呪われることも無い…って事やな!」
「彼女が男性から熱を奪ってたのは、旦那さんが恋しかったからかも。…多分だけど。」
「おっし!ほんなら早速、話してみよか!」

アレクさんに手を引かれ、僕達は洞穴の中へ足を踏み入れた。

「む?誰だお前達は。」
「こんにちは。あなたにお話があって来ました。どうか、お時間をもらえませんか?」
「別に構わんよ。もてなすことは出来ないがな。」
「ありがとうございます!」

暖かい焚き火の周りを囲うように、僕達は腰を下ろした。

「それで?話というのは?」
「あなたの奥さんについてです。」
「な、なんだと…?」

彼は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

「彼女は、雪山に立ち入った男性達から、熱を奪っています。その影響で、体温が下がり続ける病気になってしまった人達がいるんです。」
「彼女はそんな事をするような人じゃない…!」
「わかってます。僕達も、彼女が故意にやっているとは思えないんです。恐らく…彼女の服に原因があります。」
「俺達じゃ、まともに話をしてもらえへんから…あんたから話してくれへんか?」
「私に服を着替えてくれと説得しろと言うのか?…悪いが、その提案は断らせてもらう。」
「どうしてですか!?彼女は、あなたの奥さんなんでしょう!?」
「彼女の事は、私が1番よく分かっているからだ。だからこそ、その提案は容認出来ない。」
「話が…見えない。」

困惑している僕達に、彼は町での暮らしぶりを語り始めた。

「…彼女は自分の要求ばかりで、私の要求を聞いてくれた事など1度もなかった…。私はそれに嫌気がさし、ある日家を出た。」
「もしかして…それが今、雪山に暮らしている理由ですか?」
「そうだ。…私はキャンプが好きでね。自然の中で暮らす事に憧れていたんだ。その事を彼女に打ち明けたら、猛反対されたよ。それも、家を出た理由の一つだ。」
「じゃあ、彼女があなたの要求に従うのであれば、町へ戻る事も有り得るのですね?」
「万が一にでも、君達が彼女を説得する事が出来たら考えてみても良い。」
「でも…私達の話なんて、聞いてくれるか…。」
「俺様にいい考えがある。」
「お、おう…。ほんなら、説得してくるわ!待っとってな!」

洞窟を出てすぐの所で、俺は奴等の方を振り返った。

「まず、そこの娘。」
「私?」
「貴様は、さっきの男を町へ連れ帰れ。あの女を説得したら、広場へ行くよう促す。」
「わかった。」
「私達はどうするの?」
「小娘、お前はついてくるだけでいい。貴様には働いてもらうがな。」
「え?俺?」
「目を閉じろ。」
「な、なんや急に…!」
「さっさとしろ。日が暮れる。」
「お、おう…。」

目を閉じた奴の顔に、そっと手を添える。この魔法を使うのは、一体何回目だろうか。元々数えてなどいないが、ここ最近は特に使用頻度が高い気がした。

「こんなもんだろう。」
「え?なんかしたん?」
「さっきの彼にそっくり!魔法で彼に変身して、雪女さんを説得するんだね?」
「え!?俺には無理やって!こういう事はルドルフがした方が…」
「俺様は体温調節で手一杯だ。」

小娘の手を取り、奴の前で見せつけた。

「そうだよ。旦那さんが、見ず知らずの私達と手を繋いでたら変だもん。」
「それはそうやけど…。え、声は?声は変えられへんの?」
「それはアレクの、腕の見せどころだよ!」
「貴様のその変な喋り方も直せ。不自然だ。」
「こ、これは俺のアイデンティティやのに!」
「お願いアレク。私達が説得するより、旦那さんが顔を見せた方が彼女も納得してくれると思うの。私もちゃんと話を合わせるから!ね?一緒に頑張ろう?」
 「せやなぁ…。このままで困るのは、フランやもんなぁ…。しゃーない!ここは俺が一肌脱いだるわ!」
「よーし!それじゃあ、ミグ。案内お願いね。」
「雪女の所だな?わかった。」
「あれ…?この役、ミグも出来たんじゃ…?」

小娘に手を引かれ、俺達は雪女の元へ戻る事にした。
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