エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第4章:記憶の欠片

第45話

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「あら~。そんな事があったのね~。」

別行動をしていたツヴェルさんとレミリーさんの2人と合流し、彼女の知り合いが営む温泉宿にやって来た。
コウ様から聞いた事を話すと、彼女はにこやかな表情で笑ってみせた。

「あら~じゃないよ!レミリーがコウ様と友達だったなんて、すごくびっくりしたんだから!」
「それに関しては僕も初耳です。両親の話も、した事がありませんでしたね。」
「そうね~…。隠したつもりは無かったのだけれど、言う機会が無かったわね~。」
「でもそのお陰で、ヴェラを探すの手伝ってもらえることになってよかった!」

コウ様の計らいにより、兵士達にヴェラさんを探してもらえる事になった。明日の1日だけという誓約付きではあるが、僕達よりも効率よく探す事が出来るに違いない。

「ルシュ様が、早く見つかってくれればいいですけどね。」
「ヴェラが見つからなくても、明日もフランの記憶を取り戻す為に使えるんだから、それだけでも十分だよ!」
「ルナさん…。」
「ねぇツヴェル~?私達が帰るの、明後日にするのはどうかしら~?」
「ダメです。やらなければいけない依頼が、山のように溜まっているんですから。僕達がやらない分、他の皆さんに迷惑がかかるんですよ?」
「1日くらいいいじゃな~い。ねぇルナ?」
「もし人手が足りないなら、私達も手伝うよ!フランの記憶も、2人と一緒に過ごした方が思い出せるかもだし…。」
「そう言われても、僕1人では決められません。」
「じゃあ、皆に聞いてみるわ~。イムーブルの依頼を、2人にも手伝って貰う事になるかもしれないけれど…フランはそれでもいいかしら~?」
「あ、はい。構いません。」
「それなら、お手紙書いてくるわね~。」

そう言うと、彼女は部屋の外へと飛び出して行った。

「僕達もそろそろ休みましょう。レミリーが戻って来たら、あなたも早く休んでくださいよ?」
「わかってるよ~。子供じゃないんだから…。」
「それもそうですね。では、おやすみなさい。」

部屋を出ていく彼の後に慌ててついていき、隣の部屋の扉を開けた。

「フランさんは、どっちのベッドがいいですか?」
「え?えっと…どっちでも…。」
「じゃあ、僕はこっちにします。」

そう言うと、彼は窓際のベッドに腰掛けた。

「フランさん。」
「は、はい…!なんでしょうか?」
「僕がそんなに怖いですか?」
「へ…?」

彼の緑色の瞳が、真っ直ぐ僕を捉えた。それは全てを見透かすような、真剣な眼差しだ。

「ヅヴェルさんの事、怖がっているように見えましたか?」
「いいえ。正確には、僕ではなく…皆が怖いのではないですか?」
「どうして…そう思うんですか?」
「あなたに再会する前、色んなあなたを見てきました。正直どれも嘘くさくて、どれが本当のあなたなのか…未だによくわかりません。」

芯が定まらない彼の言葉は、僕に探りを入れているかのようだった。

「ですが、今のあなたはあなたらしくない。人間になったからと言って、人格まで変わる訳ではないでしょう?」
「僕らしさって…なんですか?」
「それは僕より、あなたの方がわかるのではないですか?」
「僕にも僕が…わかりません。」
「…なら、隠し事はやめませんか?僕達に言えない事、言ってない事があるのでしょう?」
「ど、どうしてそれを?」
「人間になったあなたは、良くも悪くも嘘を隠すのが下手になりましたね。適当に鎌をかけてみただけなのですが…図星のようですね。」
「確証がある訳じゃなかったんですか…!?」
「えぇ。そうです。」

彼は眼鏡を正しながら、凛とした表情でそう答えた。

「ふっ…ははっ!」
「なぜ笑うんですか!笑い事ではありませんよ!」
「だって…!ふふ…っ。嘘を見抜くのが得意なのかと…そう思ったのに、違ったので。なんだか…面白くて…っ。」
「笑うのはいい事ですが、隠し事をうやむやにしないでください。さ、寝る前にしっかり話をしてもらいますよ。話さない限り、寝せてあげませんからね?」
「あ…はい。わかりました。」

僕は以前に見た夢の内容を、覚えている範囲で彼に伝えた。
沢山の人を手にかけ、命を軽々と奪い去る。自身を綺麗に取り繕い、周囲に偽りの自分を映し出す。どんなに非道な行為でも、目的の為には手段を選ばない。
あの夢を見てから、僕は自分に自信が持てなくなってしまった。

「それは本当にあなたの記憶なのですか?」
「正直…本当かどうかは、過去の僕にしか分かりません。恐らく皆にも、話していないでしょうし…。」
「もしや…ルドルフなら、見ていたのではないでしょうか。」
「貴様の口から、まさか俺様の名前が出るとはな。」
「っ…!お話するのは初めてでしたか?」
「さぁな。貴様と話したことなど、いちいち覚えてなどいない。」
「本題に戻りましょう。フランさんが見たという夢は、事実なのですか?」
「そうだ。レーガイルラギトを暗殺したいと言うから、俺がアサシンになる事を勧めた。」
「あなたはずっとフランさんと一緒だったはずです。何故過去のことを教えないのですか?」
「俺様が言ったところで、あいつが信じるとは思えん。自分の目で見なければ納得しないだろうあいつは。」
「それは…一理ありますね。」
「やっぱり…あれが僕の過去なんですね…。」

彼の言葉に、僕はその場で頭を抱えた。
こんなにも知りたかった自分の過去が、思い出さない方が良かった物だとは思ってもみなかった。

「過去は過去です。大事なのはこれからですよ。」
「でも…過去に起きた事は、取り返しのつかない事です。僕は…なんて事を…。」
「いつまでそうしているのですか?過去はもう変えられませんが、これからあなたがどうするかは変えられます。それに、夢で見た事が全ては無いはずです。きっと思い出した方がいい記憶もあるに違いありません。」
「ありがとうございます…ツヴェルさん。励ましてくださって。」
「あなたらしくないのが、気に食わないだけです。別に…優しくした訳ではありません。」
「ふふ。」
「は、話が長くなりましたね。明日は早いですから、もう寝ましょう。」
「はい。おやすみなさい。」

こうして僕達は別々のベッドに横たわり、目を閉じた。
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