エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第2章︰失われた過去

第16話

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「今日のご飯、すごく美味しかったね。」
「今更何言ってんのよ。あんたは何でも美味しそうに食べてるじゃない。」
「まぁ…そう言われるとそうだね。」
「なぁフラン。ちょっといいか?」

昼食を終え、ニアと2人で廊下を歩いている所へ2人組の男子生徒が声をかけてきた。

「僕に何か用?」
「実は…さ。噂で聞いたんだけど………お前って、吸血鬼なのか?」

窓際に立つ眼鏡をかけた男子生徒が、僕に向かってそう問いかけた。それを聞いたニアは、僕が問いに答えるよりも早く、声を荒らげた。

「はぁ!?んな訳無いでしょ!?どうしてそうなるのよ!」
「てめぇは黙ってろ!俺等はフランに聞いてんだよ!」

もう一方のガラの悪い男子生徒に指を差され、僕は渋々口を開いた。

「…そう思う理由は何?何か、そう思う根拠はあるの?」
「否定しねぇって事は図星かぁ?おいおい…マジかよ!」
「あんた達、馬鹿じゃないの!?ここは騎士学校なのよ!?吸血鬼がこんな所にいる訳…」
「待ってニア。…そんなに気になるなら、見せてあげるよ。僕が吸血鬼じゃない証拠をね。」
「出来るもんならして見ろよ!」

僕を嘲笑う、ガラの悪い男子生徒に歩み寄ると、腕を掴んで彼の身体を引き寄せた。そして、空いた左手で襟を掴んで顔を近付け、彼の首元に勢いよく噛み付いた。

「いってぇー!?何すんだてめぇ!」
「もしも僕が吸血鬼なら…君は今頃、出血多量で死んでるだろうね。歯形だけで済んだ事が、僕が人間である証拠だよ。…これで満足?」
「お、おい!歯型だけじゃなくて、血が出てるぞ…!保健室に行こう!」
「てめぇ…覚えてろよ!?」

2人は慌てた様子で、校舎がある方へと走り去って行った。

「いい気味だわ。あースッキリした。」
「…どうしてニアがスッキリしてるの?」
「本当なら殴ってやりたかったけど、あんたが思いっきりやってくれたからそれでいいのよ。それにしても…あんたがあんな大胆な事するなんて珍しいわね。」
「そう…だね。自分でも不思議なくらい、自然と身体が動いたんだよね。もしかして、怒るってこういう事?」
「そんな事聞かれても知らないわよ…。…ま、あいつらの事は放っておいて、教室に戻りましょ。」



午後の講義を終え、講師のアリサに呼び出された僕は教官室へ向かった。そこには、椅子に座って腕と足を組んでいる彼女とメドゥ教官の姿があった。

「フラン。あんた、また問題を起こしたの?」
「問題…ですか?」
「今日のお昼休みに、保健室に駆け込んで来た子達が居てねぇ~?あなたに首を噛まれたって言うのよ~。」
「本当にあんたがやったの?」
「…はい。僕がやりました。……すみません。」

首を噛まれ、保健室に駆け込んできた生徒に心当たりがあった僕は、自分の過ちを素直に認めて謝罪した。

「はぁ…。こうも立て続けに問題を起こされちゃ、たまったもんじゃないわ。」
「アリサちゃん~。あんまりフランくんを責めたら駄目よ~。理由があってそうしたんでしょう~?」
「一応、その理由とやらを聞くわ。言ってみなさい。」
「はい。実は…」

吸血鬼だと言われた事に腹を立て、身体が勝手に動いてしまった旨を伝えた。すると彼女は、組んでいた腕を解いて机の上に肘を立て、深くため息をついた。

「…理由はわかったわ。ひとまずあんたは、部屋から出ないで大人しくしてなさい。ダグラス教官とも話し合って、あんたの処分を考えるわ。」
「わかりました…。」



荷物をまとめて寮の自室に戻り、しばらくして扉をノックする音が聞こえてきた。

「あ…アリサ。」
「食事を持ってきたわ。それと、話があるから邪魔するわね。」

突如部屋に押し寄せた彼女は、手に持っていたパンを僕に押付け、ベッドの上に腰を下ろした。

「あんたの処分だけど…しばらくの間、学校を休んでもらう事になったわ。」
「それって…休学って事?」
「休学とは少し違うわ。数日後、学校は長期休暇にはいるでしょ?問題を起こしたあんた達に、少し早く長期休暇へ入ってもらうだけよ。」
「そっか…。ならよかった。」

そっと胸を撫で下ろすと、眉間に皺を寄せた彼女が僕の方を睨みつけた。

「…あのねぇ。自分が問題を起こした張本人だって自覚はあるの?」
「そ、それは…。」
「人が怒るのは当たり前の感情だけど、時には堪える事も必要なの。わかる?」
「………うん。」

彼女の話に返す言葉もなく、僕は静かに頷いた。

「何もかもを失って…ギルドに転がり込んで来たあんたに、感情が戻ったのはいい事だと思う。けど、騎士を目指すなら感情的になって行動するのは…」

ーぐぅぅ~…

静かな部屋の中で僕のお腹が大きな音を立て、空腹である事を訴えた。

「ご、ごめん…。…これ、食べてもいい?」
「はぁ…。今日の所は、これくらいにするわ。マスターに話はしておいたから、明日の午前中にギルドへ帰りなさい。」
「…わかった。」
「じゃあ戻るわね。」
「うん。おやすみ…アリサ。」



翌日。朝食を済ませた後、必要最低限の荷物をまとめてギルドへ向かった。

「おかえりフラン。待ってたよ。」
「クラーレ!…ただいま。」

入口で出迎えてくれたのは、ギルドマスターのクラーレ・セシルだ。彼は大きく手を広げ、僕を包み込むように抱きしめた。

「まずは荷物を部屋に置いて、僕の部屋においでよ。色々話したい事があるんだ。」
「うん。わかった。」

2階にある自室へ荷物を運び込み、言われた通りに彼の部屋を訪ねた。用意された紅茶を口に運ぶと、懐かしい味と香りが全身に広がり、心も身体も自然と落ち着くような気がした。

「昨日アリサから、フランが帰ってくるって連絡をもらったんだけど…騎士学校の長期休暇ってこんなに早かったっけ?」
「実は…ちょっと問題をおこしちゃってね…。」
「え!?問題ってどういう事!?」

僕は彼に、学校での出来事を簡潔に説明した。

「そっか…。そんな事があったんだね。」
「どうして吸血鬼だって思ったのか知らないけど、ついカッとなっちゃって…。」
「まぁ…理由はどうあれ、フランが帰ってきてくれたのは嬉しいよ。去年は忙しくて帰って来れなかったもんね?」
「あぁ~!そういえばそうだったね。去年はほんと…大変だったよ…。」

過去の記憶を遡り、当時の事を思い返した。
あまりの成績の悪さに、課題と補習積み重なり…ギルドへ帰る暇すら無くなってしまったのだ。
教室と寮の自室を行き来しながら、ひたすら勉強した日々が…今となっては、学校生活の思い出の1つだ。

「あ、ねぇフラン。話は変わるけど…この休み中に、ディオース島へ行く気はない?」
「え?どうして?」
「毎年この時期になると、墓参りに行くんだけど…今年は行けそうになくてね。リーガルとシェリアにも別の仕事を任せてて、僕もギルドの事で手一杯だからフランにお願いしたいんだ。」
「そういう事なら任せてよ!僕はすぐに出発しても構わないくらいだよ?」
「本当?ありがとうフラン。それなら今晩、ガゼルに相談してみるよ。」

その後も楽しく会話が進み、時間はゆったりと過ぎていった。
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