エテルノ・レガーメ2

りくあ

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第1章︰騎士の道

第7話

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「今日から行う課外実習だが…前日に話した通り、この森で行う。」

僕達生徒は、ダグラス教官に連れられてサトラテールの北にある森へとやって来た。
課外実習と言うのは、学校の外へ移動して行う実習の事だ。今回の実習では、派遣された場所で活動を行う、遠征時の基礎知識を学ぶらしい。

「まずは班ごとに別れ、テントの設営方法を学んでもらう。アリサ教官、後は頼んだぞ。」
「はい。」

彼の後ろに立っていたアリサが生徒達に歩み寄ると、手に持った紙を配り出した。

「設営方法は紙にまとめておいたわ。テントを立てる場所は自由だけれど、崖際や川の近くは避けるように。道具はメドゥ教官の側に用意してあるから、班ごとに1つずつ持って行って作業を始めて。1時間後に、またここへ戻って来てちょうだい。」
「皆さーん。怪我をしないように気を付けてね~。」

3人の教官に見送られ、生徒達は森の中へ散らばって行った。



「テント、どこ立てる?」
「平らな場所ならどこでもいいんじゃない?」
「木が少ない場所じゃないと…建てられないよね…?」

同じ班のパル、ニア、シューの3人と共に森の奥へと歩みを進めた。どこにテントを建てるべきか悩みながら歩いていると、僕は大きな岩の裏に開けた場所を見つけた。

「この辺りはどうかな?崖際や川の近くじゃなくて、平らで木が少ないし。」
「いいわね。このくらいのスペースがあれば、建てられそうじゃない?」
「ここ決まり!建てよ!」

場所を決めた僕達は、袋の中から道具を取りだして設営を始めた。



「えっと…次は、これを地面に打ち付けるみたいだね…。」
「あたしがやるわ。」

説明書を手にしたシューが、杭のような道具をニアへ差し出した。それを見ていた僕は、彼女の手元へ渡ろうとする杭を奪い取った。

「ちょっと…何するのよ。」
「こういうのは女の子じゃ大変でしょ?僕がやるよ。」
「テントの設営を練習する為にやってるのに、あんたがしたら意味ないじゃない。大体…いつからあたしを女だと思って…」
「常に思ってるよ?ニアもパルも女の子だって。」
「よく言うわよ…このテントで一緒に寝るって言うのに。」
「あー…そこまで考えてなかったなぁ…。どうしよっか?」

こう言った場合にどうするのが適切なのかわからなかった僕は、シューに向かって質問を投げかけた。

「じ、自分に聞かれても…。」
「私、いい考えある!テント、中にパテショ作る。」
「パテ…ショ?」

パルが大きく手を挙げ、謎の言葉を口にした。

「それを言うならパーテーションでしょ?」
「そう、それ!名前長くて覚えずらい。よく間違える。」
「パーテーションって仕切りの事だよね?どうやって作るの?」
「枝、組み合わせて…蔦、結ぶ!材料あれば、作れる。」
「説明されてもよくわからないわね…。」
「なら、杭打ちは僕がしておくから3人で材料を集めて来るのはどう?」
「指示する人はいた方がいいだろうから、あたしはここに残るわ。シュティレとパルフェで集めて来てくれる?」
「わかった!行こ、シュー。」
「う、うん…!」

森の奥へ歩き出した2人を見送ると、ニアは道具箱の中から小さなハンマーを取りだして僕に差し出した。

「後であたしにもやらせてよね。」
「はいはい…わかったよ。」

その後、彼女と協力しながら作業を進めていき、テントは無事に完成した。荷物を中に運び入れ、話をしながら材料を集めに行った2人の帰りを待つ事にした。



「遅いわね…どこまで探しに行ったのかしら。」
「ちょっと僕見てくるよ。迷ってたら大変だし…」

その場に立ち上がった瞬間、テントの出入口からパルが顔を覗かせた。

「あ、おかえりパル。」
「何やってたのよ…随分遅かったじゃない。」
「枝、沢山見つけた。…蔦、見つけられなかった。」

悲しそうな表情を浮かべる彼女の腕に、長さや太さが異なる木の枝が抱えられていた。後からやってきたシューも、同じような木の枝を腕いっぱいに抱えている。

「蔦がないなら作れないじゃない…。」
「残念だけど…諦めるしかなさそうだね。」
「私、シューとフラン一緒に寝るの気にしない。」
「別にあたしも気にしてる訳じゃ…」
「なら、この枝は火を起こす時に使おっか。テントの外に置いてくれる?」
「う、うん。」

2人をテントの中に招き入れると、集合時間までの間、雑談を楽しんだ。



再び集合した生徒達はメドゥ教官の指示の元、自分達が食べる夕食を作る事になった。

「あ、ちょっとニア…!それ入れるのまだ早いよ!」
「早いってどういう事よ。入れる順番なんて気にする必要ある?」

グツグツと煮立つ鍋の前に、鮮やかな緑色の葉を手にしたニアが立っている。

「野菜、固いものから煮る。柔らかい葉、後から入れる。料理の常識!」
「知らないわよそんなの。鍋に入れば一緒でしょ?」
「良くないよ!せっかく作るなら美味しいもの食べたいもん。」
「それどういう意味よ!?」
「ニ、ニアさん落ち着いて…!」

料理の手順を無視して作業を進めようとする彼女を必死になだめつつ、なんとか夕食を作り終えた。



「それにしても意外だったなぁ。ニアってなんでも出来そうに見えて、料理は苦手なんだね。」

夕食を終えた生徒達は各自で設営したテントに戻り、明日に備えて休息をとる事になった。辺りはすっかり暗くなり、頭上に下げられたランタンの明かりがテントの中を明るく照らしている。

「いつあたしが苦手だって言ったのよ。むしろ作るの好きなのに。」
「ニア、包丁の扱い方悪い。フランに代わってもらってよかった。手、怪我したら大変。」
「フランさんの包丁さばき…凄かったね。」
「そうかな?パルの方が手際がいいし、上手だったと思うよ。」
「あ、ねぇ。明日の実習は、薬草探しと狩りをするのよね?」
「あ……。うん…そうだね…。」

シューは表情を曇らせ、俯きがちに呟いた。

「シュー…どうかした?」
「え?…あ、ううん。なんでもないよ…。」
「隠す、良くない。言いたくないなら、聞かない…。けど、シューの事知りたい。嫌、違うなら聞きたい。」
「聞きたいのか聞きたくないのか、分かりにくい言い方ね…。」
「要するに、話して欲しいけど無理に言う必要はないって事だよね?」
「そう!」

パルは目を輝かせ、首を大きく縦に振った。

「大した事じゃ…ないんだけど…。植物や動物を傷付けるのが可哀想だな…って思っちゃうんだよね…。だから、あんまり気乗りしないなって…。」
「そっか…。シューは優しいね。そんな風に考えられるなんて。」
「けど、あたし達人間は、植物も動物も食べなきゃ生きていけないのよ?さっきだって、普通に料理してたじゃない。」
「あれは…自分が切る前に誰かが茎や根を切ってるでしょ?直接的に命を奪った訳じゃないから…」
「あんた…そんなんで、よく騎士になろうと思ったわね…。騎士になったら、簡単に命を奪えるような武器を扱うって言うのに。」
「それは…そうだけど…。」

彼女の言葉に落ち込むシューを慰めるように、隣に座っていたパルが彼の肩にそっと手を触れた。

「シュー。私の故郷、年に1回、植物、動物…食べるものに感謝する儀式、行う。」
「へぇ~…。そんな儀式があるんだね。」
「人、食べないと生きられない。植物、動物、皆同じ。命もらう事、感謝する。この気持ちが大事!」
「そっか…そうだね…!ありがとうパルフェ。ちょっと気持ちが楽になったよ…。」

彼の不安そうな表情が、穏やかな表情へと変わった。

「大丈夫だよシュー。最初は抵抗あるかもしれないけど、少しずつ慣れられるよ。」
「うん…頑張ってみる。」
「解決したならそろそろ寝ましょ?明日、寝坊しないでよね?フラン。」
「えー?どうして僕を名指しするの?」
「あんたが1番寝坊しそうだからよ。」
「私、起こす得意。寝坊しそうなら、起こすの任せて!」
「それは心強いなぁ~。パルがいれば安心して寝られるね。」

荷物の脇に置かれた寝袋を掴むと、ニアの側で中身を取りだした。

「な…ちょっと…!あんたは1番端で寝なさいよ!」
「え、なんで?ニアの隣じゃだめ?」 
「男女交互に並んで寝てどうするのよ…!あたしとあんたが端で、パルフェとシュティレが真ん中に寝るのが1番いいと思うわ。」
「え!?じ、自分は端の方が…」
「何言ってんのよ。あんた達は付き合ってるんだから、隣同士でもいいじゃない。」
「テント、大きさ余裕ある。距離、少し開ければ気にならない。」
「そ、そうだね…。うん…わかったよ。」

ニアに寝る場所を指定されてしまい、渋々テントの端に寝袋を広げると、ランタンの明かりを消して眠りについた。
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