エテルノ・レガーメ

りくあ

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第14章︰ルカソワレーヴェ

第123話

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「よく眠れたか?」
「うん!ぐっすり眠れたよ。ヴェラは?」
「まあまあだな。」

翌朝、宿屋を出発した僕達はダムへ行く他の方法を探す為、街へ向かって情報を集める事にした。

「ねぇルカ~あなたは幹部なの?お姉様と、とても親しそうに見えるけど…。」
「えっと…幹部じゃないよ。ヴェラは…その…」
「私の弟子よ。まだまだ未熟で、エーリに入学させる程の実力はないわ。」
「そうだったのね…ごめんなさいルカ。余計な事を聞いわね~。」
「う、ううん…!大丈夫…」

レミリアの言葉に少々落ち込んでいると、先頭を歩くヴェラが突然立ち止まり、後ろを歩いていた僕達の方に身体を向けた。

「レミリア。アレク。ここからは2手に別れよう。私はルカと広場の方へ行ってみる。」
「あ、はい!わかりました!」
「でしたらお姉様。地図を持って行ってください~。私は大体の地形が頭に入ってますから~。」
「助かる。昼の鐘が鳴ったら、1度宿屋に集合しよう。行くぞルカ。」
「う、うん!」

早足で歩き出した彼女の後ろをついて行き、2人で広場へやって来た。

「ね、ねぇ!どうしてそんなに急いでるの?」
「別に急いでいる訳じゃない。」
「じゃあ何で?」
「あいつらと一緒にいると、息が詰まるでしょう?気を使ってやったんだから、感謝しなさい。」
「どうして…わかったの?」
「何となくよ。」
「あ、ありがとうヴェラ…。」

彼女の優しさに感動し、感謝の言葉を口にした。
レミリアとアレクはルナの友人で、彼女の身体の中にいた僕も、友人として彼等と一緒に過ごした気でいた。しかし、彼等にとって僕は初対面の人であり、友人ではない。そういった感覚のズレで、僕達の関係はあやふやな物になっていた。

「油を売ってる時間はないわ。手当り次第、人に聞いて回りなさい。」
「え!?僕1人で!?」
「話を聞くくらい1人で出来るでしょう?何かあったら連絡しなさい。」

レミリアから預かった地図を僕に押し付けた彼女は、転移魔法を唱え、石畳の地面に沈んで行ってしまった。

「もしかして…ヴェラが別行動しようとした理由って、僕の為じゃないんじゃ…。」

彼女に感謝した事を悔やみつつ、地図を片手に街を散策し始めた。



「はぁ…。」

広場のベンチに腰を下ろし、空を見上げた。雲の隙間から差し込む太陽の光が視界に入り、その眩しさに目を細めた。
ヴェラが去った後、街の人に話を聞いて回ったものの、ダムへ行く為の方法を見つける事は出来なかった。

「僕1人じゃ…何も出来ないのかなぁ…。」

ふと、ルナの顔が頭に浮かんだ。彼女の周りには、常に誰かが側にいた。けれども彼女は、その人達に頼る事無くなんでも1人でこなしてみせた。
僕の周りには、側で支えてくれる人はいない。それに加え、誰かに頼らなければ何もする事が出来ない。自分の無力さを痛感し、手元に視線を落とした。

「あ…。」

スボンのポケットから、細長い木の板が顔を出している事に気付いた。これは昨日、宿屋で偶然出会った男性がくれた物だった。

「これ、一体何に使う物なんだろう?確か…困った事があったら、これを持って城に来いってあの人が言ってたけど…。」

今の僕は、誰かに頼らなければ前に進む事が出来ない。どうするかしばらく悩んだ後、藁にもすがる思いで地図を頼りにお城を目指す事にした。



なんとかお城の前に辿り着くと、大きな門の側に立っている兵士に声をかけた。

「あの…すみません。」
「なんだ?」
「えっと…コウ様と言う方から、これを持って城に来るように言われたんですけど…。」
「コウ様?誰だそれは…」
「おい待て!これは…!」

隣に立っていた別の兵士が、木の板を手に取りそれを顔に近づけて凝視した。

「私が案内しよう。ついてきなさい。」
「あ、はい!お願いします。」

兵士と共に門をくぐり、広い庭園を抜けて建物の中へと入っていった。赤い絨毯の敷かれた廊下を歩き進めると、奥の部屋へ通された。
豪華な調度品が棚に並び、部屋の中央には大きなテーブルと長いソファーが置かれている。

「これから話をつけてくる。ここでしばらく待ちなさい。」
「わかりました…。」

広い部屋に1人残された僕は、恐る恐るソファーに腰を下ろした。あまりの広さと静かさに恐怖を感じ、両手をぎゅっと握り締めた。こうしていると、何となく気分が落ち着き、緊張を解す事が出来る。
しばらく部屋で待っていると、扉をノックする音が聞こえ、2人の男性が中へ入ってきた。

「あ、あなたは…!」
「ようこそいらっしゃいました。あ、おかけになったままで結構ですよ。座ってください。」
「あ、はい…。」

先に部屋に入ってきた物腰柔らかな口調の彼は、木の板を渡してきた亜麻色の髪の男性だった。続けて部屋にやって来た黒い服の男性にも見覚えがあり、僕はそっと胸をなで下ろした。

「お会いしたのは昨日でしたね。」
「はい!その節はありがとうございました…!」
「お気になさらないで下さい。こうしてあなたをお呼びしたのも、お話をしたかったからなんですよ?」
「話…ですか?」
「そうだ…まだ名乗っていませんでしたね。私は、ラーズ二ェ王国第2王子、コウルルラウシュと申します。」
「お、王子!?すみません!僕…あなたがどういう方なのか存じ上げなくて…!」
「王族だからと言って、緊張する事はありませんよ。いつも通り、普通に話して下さって構いません。あなたのお名前を、お聞きしてもよろしいですか?」
「はい…ルカソワレーヴェと申します…。」
「ありがとうございます。それで、本題に戻りますが…あなたが身に付けているその飾りの事で、お聞きしたい事があるんです。」
「なんでしょうか…?」
「私は以前、この国で行われた祭事でそれを身に付けていた方とお会いしました。その方は、女性の方だったと思うのですが…あなたが持っている物は、どのようにして手に入れた物ですか?」
「それは…。」

僕は、胸元につけたアスルフロルの髪飾りがルナから受け取った物だと言う事を彼に話した。

「なるほど。あなたは彼女のお兄さんなのですね。」
「はい。」
「彼女にもう1度お会いしたいと思っているのですが、彼女は今どちらに?」
「…もう会えないんです。遠くに行ってしまったので…。」
「そうでしたか…。すみません。聞いてはいけない事を聞いてしまいましたね。」
「い、いえ…!」
「彼女には会えませんでしたが、その髪飾りが私とあなたを巡り合わせてくれました。これも何かのご縁でしょう。私に出来る事があったら、なんでもお力になります。」
「その事なんですが…!実は僕も、あなたにお聞きしたい事があるんです。 」

瑞水晶の欠片を探している事と、その水晶がダムにあるかもしれないという事、ここに至るまでの経緯を彼に説明した。



「事情はわかりました。それでしたら…事故の調査をするという名目で、通行許可証を発行するのがよいでしょう。」
「なるほどその手が…」
「至急、通行証の発行をお願い。」
「かしこまりました。」

彼の後ろに立っていた男性が軽く頭を下げ、扉を開けて部屋から出ていった。

「ありがとうございます。何から何までして頂いて…。」
「いえ…本来ならば通行証などなくても、私の命令で済めば良かったのですが…。この件は私の兄が指揮をしているので、大事にする訳にもいかないのです。結果的に、あなた方にも調査をお願いするような形になってしまい…申し訳ありません。」
「そんな事ないです!通行の許可を頂いただけで、とても有難い事ですから…!」
「そう言っていただけると幸いです。」
「事故の件も、出来る限り調べてみようと思います。僕達では、大してお力になれないかもしれませんが…。」
「そのお気持ちだけで嬉しいです。どうかよろしくお願いします。通行証が発行出来次第、昨日お会いした宿屋の方に届けさせますので、しばらくお待ちください。」
「ありがとうございます!」

話を終えて部屋を出ると、彼に見送られてお城を後にした。



「遅い!どこへ行っていた!」
「ご、ごめんなさい…!」

宿屋のロビーで待っていたヴェラが、僕の頭を鷲掴みにして大きく横に降り始めた。

「ル、ルシュ様!ルカの頭がもげたらまずいので、それくらいで堪忍してやって下さい!」
「約束の時間を過ぎても戻って来ないんだもの~心配したわ~。」
「ごめんね2人共…。ちょっとお城に行ってて…」
「はぁ?なんで城なんか行ってたのよ。」
「実は…」

昨日、宿屋の廊下でコウ様と会って城に招かれた事を話し、ダムの通行証を発行して貰える事を説明した。

「お城に入れた事も凄いけれど、ダムへ行く方法も見つけちゃうなんて凄いわ~ルカ。」
「大手柄やな!」
「けど…その通行証は事故の調査をする為に発行するものだから、それぞれの目的の他に調査までする事になっちゃったんだけどね…。」
「どのみち、それが終わらないと瑞水晶を探せないし、さっさと調査を終わらせればいいわ。」
「4人もいれば、さくっと終わるやろ!」
「通行証が来たら、すぐにダムへ出発する。それまで部屋で休みなさい。」
「わかった。」



「ここが…ダム?」

宿屋に届けられた通行証を手に、街の北にあるダムへやって来た。大量の水が石で作られた塀で塞き止められ、目の前に大きな湖が広がっている。

「とても大きいでしょう~?ここから流れていく水が、街中を通って海へ行くのよ~。」
「へぇ~…。」
「まずは事故の調査だな。確か…子供がこの湖で溺れたんだったか?」
「ええ~。未だにその子供が見つかってないらしいです~。」
「溺れたなら…この湖を探せばいいんじゃないの?」
「言うてもかなりの広さやで?深さも結構あるやろうし…底まで沈んでたら、引き上げるのも一苦労やろうな…。」
「そっか…。うーん…」

何かいい方法がないか頭を働かせていると、ルナが似た様な状況になっていた時の事を思い出した。
湖の底に沈んでいるリトスという石を引き上げる為、彼女は“ファブリケ”で網を作り“ ミシク”で操る作戦を考え出していた。

「ねぇヴェラ。“ファブリケ”で網を作って、“ ミシク”で操るのはどうかな?」
「不可能では無いだろうが…人を持ち上げられる強度の網を作り、計り知れない深さの中で見えない網を動かす技量が、私達にあるかどうかが問題だな。」
「う…。」

血の魔法“ファブリケ”で、物を作るだけなら簡単だ。しかし、底の見えない水の中を動かすには、相当の魔力と集中力が求められる。

「方法はええんやけど…俺等じゃちょっと難しそうやなぁ…。」
「そうねぇ~。網を作るくらいなら出来るかもしれないけれど…。」
「なら、2人で協力して頑丈な網を作ってくれる?」
「動かすのは誰がやるんだ?」
「…ヴェラしかいないと思う。」

この中で、1番魔法の扱いに長けているのは彼女だ。長く生きた分、吸血鬼としての能力も高く、経験も多い。

「さすがにこの広さでは無理だ。いくら私でも魔力がもたない。」
「魔力は僕のを使って!」
「はぁ?」

彼女は眉間に皺を寄せ、不思議そうな顔をした。

「魔力を相手に分け与える治癒属性の魔法があるんだ。やった事はないけど…それで魔力を補えると思う。」
「治癒属性ってなんや?魔法に、そんな属性があるんか?」
「確か…光の上級属性よね~?光属性の魔法は、人間にしか扱えないのでしょう~?」

僕の提案に、魔法に馴染みの少ない2人が疑問を投げかけた。ルナと親しかった2人には真実を明かさずにここまで来たが、これ以上嘘をつく事が出来なくなり、思い切って本当の事を話す事にした。

「2人には言ってなかったけど…僕、元は人間だったんだ。」
「え!?そうなん!?」
「それならルナは?あの子も人間なの…?」
「またお前は余計な事を…。」
「ごめん…後でちゃんと説明するよ。」

頭を抱えているヴェラの方に身体を向け、彼女に向かって手を合わせた。

「お願いヴェラ!何とかそれで、やってみてもらえない!?」
「…失敗したら血を吸うわよ?」
「それでもいい!だから…お願い!」
「わかった。ダメ元でやってみよう。」
「ありがとうヴェラ!」



まず初めに、レミリアとアレクに魔法で網を作ってもらい、それを2つ重ねる事で頑丈な網を作り上げた。

「じゃあヴェラ…お願い。」
「あぁ。」

湖に網を投げ入れると、彼女は魔法でそれを操り、水の中を動かし始めた。

「魔力を分け与えると言うのは、具体的にどうするんだ?私は見た事も聞いた事も無い。」
「えっと…手に触れるのが1番いいって本に書いてあったんだけど…。手を握ってもいい…?」
「何を躊躇する必要がある。早くしなさい。」
「う、うん…。」

恐る恐る手を差し出し、彼女の左手を軽く握り締めた。魔力を分ける為に仕方なく手を繋いだのだが、なぜだかそれがルナに悪いような気がして申し訳ない気持ちになった。

「…“ミラの加護を受けし者。光の精霊と契を交わし、我に力を与えよ。我が祈りは加護となり、その恩恵は汝に還らん。更なる力を、我に授けたまえ。シュネルギア…!”」

治癒属性の魔法を唱えると、繋がれた方の手が光だし、手全体がビリビリと痺れ始めた。

「っ…。」
「な、なんや光っとるけど…大丈夫なんか…?」
「なんだかチクチクするわね…。」
「ルカは大丈夫~?一応、魔力を送っているのでしょう~?」
「う、うん…。ビリビリするけど…それ程痛くはないよ。」
「あんまり無理せずに、倒れる前に手を離しなさい。」
「僕は大丈夫…!ヴェラはそっちに集中して…。」
「わかった。」

しばらくの間、彼女は湖の中にある見えない網を動かし続けた。

「む。何か引っかかったな。」
「もしかしたら子供かも…!引き上げてみて!」

何か手応えを感じた彼女は、伸ばした右腕を上にあげ網を引き上げた。

「ルシュ様!子供が網に引っかかってるで!」
「地面に下ろす。離れていろ。」

地面に広げた網の中には、数匹の魚と植物のツルがあり、その中央に少年が横たわっていた。

「きっとこの子がそうね~。」
「…流石にもう死んでいるな。」
「そんな…。」
「向こうに調査団のテントがあるはずだから…そこに連れて行きましょう?」
「なら俺が連れてくわ。みんなは疲れたやろうから、先に宿に戻っといて!」
「ありがとうアレク。」

彼は少年を抱き上げると、駆け足で向こう岸にあるテントへと向かって行った。

「あら?この魚、何か咥えてるわね~。」
「それは…瑞水晶だ。」
「え!これがそうなの!?」
「間違いない。私達が探していたのは、この水晶の欠片だ。」
「よかったわ~。2人の探している物が見つかって~。」

目的の瑞水晶を見つけ、湖で溺れて行方不明だった子供も見つける事が出来た。子供が既に亡くなっていた事が悔やまれるが、見つけられずに湖の底に沈んだままよりはマシなのかもしれないと、そう思う事にした。



「私達は目的を果たせたが、お前達が調べている事はわからなかったな。」

宿屋へ戻ってきた僕達は、後からやって来たアレクと合流し、部屋に集まって雑談を始めた。

「ごめんね2人共…力になれなくて。」
「気にせんでええよ~。お陰で事故の調査が終わって、明日からダムの規制が解除されるって言っとったしなぁ。それからゆっくり調べたらええわ。」 
「ところで、さっきルカが話していた事だけど~…詳しく聞いてもいいかしら?」
「うん。約束だからね…話すよ。」
「なら私は先に部屋に戻るわ。朝になったら出発するから、お前も早く休みなさい。」
「う、うん…わかった。」

彼女は扉を開け、部屋を出ていった。その背中を見送った後、その場に残った2人に僕とルナが隠していた真実を話し始めた。

「ルナは…本当に死んだんか?」
「ヴェラはそう言ってたけど…僕は信じてないよ。」
「お姉様が嘘をついたと言いたいの~?それに…あなたの話が本当なのか、そっちの方が信じられないわ~。」
「せやな…突拍子もない話ばっかりやからなぁ。そもそも、人間を吸血鬼に変えるなんて、なんでそんな事をする必要があったんやろ?」
「他の人はどうしてかわからないけど…。僕は元々ステラだったから、ステラを復活させる為に作り替えられたんだと思うよ。」
「うーん…なんやよくわからんけど、ルカはルナの為にレジデンスに行こうとしてるんやね。」
「うん。人間と吸血鬼が笑って暮らせる世界にしたいって、ルナは言ってた。今の僕じゃステラどころか、下級吸血鬼以下だけど…このまま何もしないのは嫌なんだ!出来る事があるならそれを見つけて、いずれルナの理想を叶えたいと思ってる。」
「素敵な考えだわ~。あなたが人間だったからこそ、そういう考えが生まれるのね~。」
「俺も、2人の力になれるんやったらなんでもするで!いつでも頼りにしたってな?」

彼は僕の手を握り、2人の力になると言った。その言葉に、僕は1人ではない事に気付かされた。
ルナはまだ、僕の記憶の中に残っている。そしてこれからも、ずっと心の中に残り続ける。彼女の姿は見えずとも、彼女に触れる事が出来なくても、彼女の存在が側に寄り添い、見守ってくれている。

「ありがとう…2人共。」
「いやいや…ルナの事心配やったから、話が聞けてよかったわ~。学要で色んなとこ行くから、俺もルナの事探してみるわ!」
「私はますます心配だわ~。ルナが無事だといいのだけれど~…。」
「きっとそのうち戻ってくるよ。僕はそう信じてる。」
「そうね…ルナは強い子だもの~。信じて待つしかないわね~。」
「なぁなぁ!身体の中にいるって、どういう気分なん?」
「結構普通だよ?見渡す限りの草原の中に、家が立って…」

その後も話が尽きる事はなく、夜が更けるまで僕達の雑談は続いた。彼等と話しをする事で、ルナがエーリで過ごした時間が戻ってきたようで、嬉しい気持ちになった。
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