エテルノ・レガーメ

りくあ

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第10章︰エーリ学院〜上級クラス〜

第88話

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「ところでルナ。さっきと見た目が違う様な気がするんだけど…気のせいかい?」
「幼く見えるように、少し背を低くしたの。クレフティスは子供を連れ去るって言ってたでしょ?だから、子供っぽく見せようと思って…。…変かな?」
「いいと思うわ~。まさか子供が攻撃してくるとは思わないだろうから、意表を突いた攻撃が出来ると思うし~。」
「ルナは器用な事が出来るね。見た目を変える魔法なんて、見た事が無いよ。」
「私も初めて見た。」
「え、そうなの?ユノくらい魔法を使えるなら、出来るんだと思ってた…。」
「今度私にも教えて。」
「あ、うん!教えるのは初めてだから、上手く伝わるかわかんないけ…」

突然馬車が急ブレーキをかけ、席に座っていた私達はバランスを崩した。

「な、何…!?」
「ついにお出ましかな…。みんな、気を引き締めてね。」

馬車の扉が勢いよく開き、複数の男が押し寄せてきた。私達を外に降ろすと、男達は馬車に乗り込んで中を物色し始めた。
馬車を運転していたミグは、1人の男にナイフを突きつけられ、黙ってこちらを見ていた。

「あなた達、一体何者なの!?離しなさい!」
「おっと…!貴族のお嬢様は大人しくしてな。…怪我、したくないだろ?」
「……っせーな。」
「ん?」
「汚ねえ手で触ってんじゃねーよ!クズが!」
「な、なんだと!?」

武器を手にして豹変したレミリーが、身体を捻って後ろに立っていた男を蹴り飛ばした。それと同時にユーリが短剣を握りしめ、馬車の後方に走り出した。盗賊達の間を掻い潜り、一切無駄のない動きで次々と男達を倒していく。

「“…ヴェンティスカ”」

ユノも魔法で彼等に応戦し、馬車から逃げ出す盗賊達を蹴散らした。私はミグと共に、馬車の前方に待ち構えていた男達を次々と倒していった。



数分間の乱闘を終え、10人程の男達が馬車の周りに横たわった。役所に報告をしてそれ相応の処置をしてもらう為、気を失っている男達を2、3人程まとめてロープで木に縛り付けた。

「こんなに沢山いたなんて…。」
「けど、もう居ないみたいだな。」
「はぁ…怖かったぁ…。」
「…っ!?ルナ!後ろ!」
「え?」

後ろを振り返ると、気を失ったフリをしていた男が私に向かってナイフを振りあげた。男が腕を振り下ろそうとした瞬間、目の前でナイフと剣が混じりあった。突如現れた剣の持ち主は、上から下まで全身真っ白な装いで、目元は仮面で隠されている。
ナイフを弾き飛ばすと、なんの躊躇もなく男を斬りつけた。そして、その場に倒れた男の腹部に剣を何度も突き刺し、完全に息の根を止めた。
私は目の前で起きている光景をただ呆然と眺め、その場に立ち尽くしていた。白い剣士は鞘に剣を収めると、私に背を向けて歩き出した。

「…あ、あの!」

正気に戻った私は、咄嗟にその人の腕を掴んだ。

「触るな。…早くここから去れ。」

声の低さから男性と思われる彼は、腕を振り払って短く言葉を吐き捨てると、その場から去って行った。

「待っ…!」
「ルナ!やめとけ。」
「なんで?私の事助けてくれたんだよ?」
「あいつは敵じゃないかもしれないけど味方でもない。深追いはしない方がいい。」
「けど…。」
「彼…アサシンだと思う。」

近くにいたユノが、私達の元に歩み寄ってきた。

「アサシン?」
「依頼を受けて、人を殺すのが仕事。」
「殺す事が…仕事…?」
「そう。」
「アサシンかぁ…。あんまりいい職業じゃないよね。」
「そうねぇ~。殺す事しか頭にないから、ストレスが溜まりそうだわ~。」
「ルナ。彼等には関わらない事をオススメするよ。良い人でもなければ悪い人でもないからね。」
「う、うん…。」
「とにかく依頼は完了ね~。早く報告して役所に引き渡しましょう?」

私達は再び馬車に乗り込むと、報告へ向かった。無事に依頼を完了した事をネオ様にも報告すると、彼は1人1人と手を握りあって感謝の言葉を口にした。
それから数日経ったある日、盗賊団クレフティスの本拠地が発見され、盗賊団は再び壊滅したという話を耳にした。



「それは大変でしたね。」
「ちょっとツヴェル~。そんな他人事みたいに…。」

依頼を終えた翌日、図書室で出会ったツヴェルとララの2人と椅子に座って昨日の依頼の話をしていた。

「実際にその場にいなかったんですから、仕方ないじゃないですか。」
「そうだけどさぁ~…。」
「アサシン…だっけ?私は見た事ないなぁ…。」
「僕もないですね。できることなら今後もそんな人には会いたくないですが。」
「そうだね…。ところでツヴェル。この間読んでみてーって言った本、読んでくれた?」
「ええ。読みましたよ。」
「どうだった?」
「まぁ…息抜きにはなりました。」
「どんな本を勧めたの?」
「童話なんだけど、ステラと森の動物達って話!」
「あ、それ、私も読んだことあるよ。ある日突然、森の中で目覚めた少女ステラが、そこに住んでる動物達と仲良くなっていくお話だったよね?」
「そうそう!魔法で森に家を建てたり、動物達の遊び場なんかも作ったりするんだよね。」
「けど、あれでしょ?動物達を食べちゃう化け物が森の中に潜んでる事がわかって、ステラが原因を突き止めに行くんだよね?」
「うん。毎晩1匹ずつ減っていく動物達の為に森の中を彷徨うんだけど、結局見つけられなかったんだよね。」
「最終的に、ステラ自身が動物達を食べてたっていうお話だよね…。」
「うん…。」
「何故こんな話を勧めたんですか。後味悪い結末でしたよ。」
「私が、初めて読んだ本なの。この本がきっかけで、本を読むことにハマったんだよね。」
「少女の名前がステラなのも、どうかと思います。」
「え?どうして?」
「僕達吸血鬼が信仰している女神、ステラ様と同じ名前だからです。彼女を侮辱しているようで、いい気はしなかったですね。」
「女神…ステラ様…。」
「なら、次はこの本を読んでみてよ。」
「また童話ですか?ララは本当にこういった本が好きですね…。」
「えへへ…。ルナちゃんはこの本読んだことある?」
「…。」
「ルナちゃん?」
「え?何?」
「この本…読んだことある?」
「あ、うん。あるよ!それも面白いよね。」
「面白いかどうかイマイチ信用できませんが、まあ息抜きに読むだけですから…借りておきます。」
「読んだら感想教えてね…!」



部屋に戻って借りてきた本を読んでいると、扉を叩く音が聞こえてきた。

「あれ?ツヴェル?どうしたの?」
「話したい事があるのですが、今大丈夫ですか?」
「うん…いいけど…。」

扉の前に立っていた彼を招き入れると、クッションの上に腰を下ろした。

「話って何?さっき図書室で話したばっかりだよね?」
「その時はララが居ましたから。あなたにだけ聞いて欲しい話があったんです。」
「私にだけ?」
「依頼の事です。今朝受けてきたんですが、あなたにも手伝いをお願いしたいんですよ。」 

彼は依頼内容が書かれた紙をテーブルの上に置いた。置かれた紙を覗き込むと、そこには聞きなれない単語が記されていた。

「コルト…?リオート祭…?」
「コルトというのはここから北に位置する街で、そこで行われるリオート祭の手伝いをするというのが依頼の内容です。」
「へぇ~。お祭りの手伝いなんて楽しそうだね!」
「先に言っておきますが、リオート祭の準備は中々重労働ですよ?それと、コルトはかなりの寒冷地です。凍えないように暖かい服を用意して下さい。」
「随分詳しいんだね。」
「当たり前じゃないですか。僕はコルトの出身なんです。」
「え、そうなの?」
「出発は明日にするつもりですが…。手伝って貰えませんか?」
「特に予定はないから大丈夫だよ!何を用意したらいい?」
「何日か泊まることを想定して、着替えを多めに用意して貰えますか?あとは、相当寒い事を覚悟しておいて下さい。」
「う、うん…わかった…。」
「では、僕はこれで。明日の朝、門の前で集合しましょう。」

要件を済ませた彼は、足早に部屋から出ていってしまった。

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