青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第1章:黒髪の少女

第8話

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大通りの側にある建物の扉を開き、中に足を踏み入れた。様々な色と形の服が並んでいて、部屋中に服が飾られている。

「...服、いっぱい。」
「気になる物はあるか?」

ユオダスに服を選ぶように言われ、近くにあった橙色の服を指さす。

「...これ。」
「これは大きすぎる。もう少し小さい方がいい。」
「...じゃあこれ。」
「これは男物じゃないか?」

あれこれ指をさしてみるものの、どれも私が着る服では無いらしい。

「...分からない。」
「困ったな...。女児の服はどう選んだらいいんだ?」
「団長には姉が居なかったか?」
「居るにはいるが...。どんな服を着ていたかまで覚えていない。そう言うジンガはどうなんだ?」
「孤児院の服は全て院長が選んでいるから...女物の服はよく分からない。」
「こういう時に、ヴィーズやローゼが居たらな...。」
「いらっしゃいませ~。何かお探しですか~?」

私達の元に、見知らぬ女性がやってきた。ユオダスが私に歩み寄り、彼女に話しかける。

「この子の服が欲しいんだが、何着か選んでもらえないだろうか?」
「可愛らしいですね~。娘さんですか~?」
「ま、まぁ...そんなところだ。」
「そうですね~...この子の身長でしたら~...。」

彼女は辺りを見渡しながら、飾られた服に次々と手を触れていく。ユオダスはその場にしゃがみ込み、私の耳元に顔を近付けた。

「アスール。彼女が服を取って、これはどうだ?と聞いたら...とりあえず首を縦に振っておけ。」
「...分かった。」
「これなんていかがでしょう~?」

彼女は桃色の服を手に取り、私に問いかけた。
言われた通り、首を縦に振る。

「他にもあるか?」
「はい~!他にはですね~...」

女性が服を手に取るたびに、私は何度も首を振った。彼女が選んだ服が机の上に積み重なり、両手の紙袋は私の服でいっぱいになった。

「さすがに多過ぎたんじゃないか...?」
「これだけあれば困らないだろう。また選べと言われたら大変だからな...。」
「片方持つか?」
「いいや平気だ。それよりも、お前にはアスールを見て...」

ユオダスの言葉を遮り、ジンガが私の前に飛び出した。右手を後ろに回し、腰に下げた棒を握りしめる。

「ねぇねぇ~。お兄さん達、ちょっと寄って行かない~?」

私達の前に現れた2人の女性を見て、ジンガは棒から手を離した。

「すまないが、俺達は...」
「も~!そんな釣れない事言わないで~?」

女性はジンガの腕を掴み、耳元に顔を近付ける。

「いっぱいサービスしてあげるわよ~?」
「サービスとやらに興味は無い。行こう。」

彼は女性を振り払い、私を呼び寄せた。彼の元へ駆け寄ると、彼女は後ろに立っていたユオダスにも声をかける。

「そちらのお兄さんはどうかしら~?」
「生憎だが、あなたの相手をする暇は無い。失礼する。」

彼女の横を通り過ぎようとする彼の腕に、女性が腕を伸ばしてしがみついた。

「ちょっとくらい...」
「離せ!」

彼は声を荒げ、女性を払い除ける。彼の顔は、今までに見た事が無いくらい強ばっていた。
そのまま何事も無かったかのように女性に背を向け、大通りを歩き出す。

「な、何よ~...!怒鳴らなくても良いじゃない~!」

後ろから聞こえる女性の声に見向きもせず、歩き出す彼等の後をついて行った。



「買い出しはこれで十分だな。」

大通りの店を何軒か訪れ、ジンガの手に握られた袋が食べ物でいっぱいになった。

「...食べ物、沢山。」
「調理師に頼まれていた物だ。今日の夕飯の材料だろう。」
「...これ、ご飯?」
「グリは街で購入した食材を使って、料理をするのが仕事だ。」
「...ジガは?」
「俺は、動物の世話と伝令を届けるのが仕事だな。」
「...でんれー?」
「外からの情報を皆に伝えたり、俺達の出来事を外に伝えたりする。」
「...ユオアスは?」
「俺は団長だから...決まった仕事は無いが、強いて言うなら皆をまとめるのが俺の役割だ。」
「...まとめる?」
「俺達に指示を出す役だな。」
「...仕事、色々。」
「そうだ。細かい仕事は色々あるが...騎士の仕事は、大きくわけて3つだ。警備、依頼、護衛だ。」
「...けーび...いあい...ごえー...?」

道を歩きながら、彼は騎士の仕事について説明してくれた。
警備は、城や街を見て回り、不審者や魔族が居ないかを確認する。依頼は、様々な内容があるらしいが、頼まれた仕事をこなすのが目的になる。護衛は、対象となる人物を危険から守る。
これが彼等、ビエント騎士団の仕事だ。



「調理師、ただいま戻った。」

ユオダスに荷物を任せ、私はジンガと共に食堂の奥にある調理場へやって来た。彼は食べ物の入った袋をテーブルに置き、中から材料を取り出しながら並べていく。

「思ったより早かったな。もっと遅くなるかと思ってたぜ。」
「治癒士が即決してくれたおかげだ。」

彼は私を見て、ほんの少し目を細めた。

「治癒士?あぁ...アスールの事か。」
「...私?」
「ジンガは、お前の事を治癒士と呼びてぇらしい。」
「ダメ...だったか?」

彼は眉を下げ、首を傾げた。彼の問いに、私は首を横に振る。

「...ちゅしでいい。」
「なら、今後もそう呼ばせてもらう。」
「買い漏れは無さそうだ。ありがとなジンガ。」
「いつも食事を作って貰ってるんだ。これくらいはしないとな。」
「...ご飯、これから作る?」
「あぁ。」
「じゃあ、俺は部屋に戻る。」

そう言い残し、ジンガは部屋を出て行った。

「お前も部屋に戻ってろ。飯が出来たら呼ぶくらいはしてやるよ。」
「...手伝う。」
「は?手伝う?」
「...何かやる。」
「料理に興味持ってくれんのは嬉しいけどよ...。お前には難しいと思うぞ?」
「...ダメ?」

私は眉を下げ、首を傾げてみせた。

「お前...ジンガみたいに頼めば良いと思ってんだろ。」
「...ダメ?」
「ダメっつっても、どうせ言い続けるんだろ?仕方ねぇな...邪魔だと思ったら、すぐ追い出すからな?」
「...わかった。邪魔しない。」
「手伝うのか手伝わねぇのかどっちかにしろよ...。」
「...手伝う。」

手伝いを申し出た私に、彼は白い布を手渡した。

「これはエプロン。服が汚れねぇように、料理をする時に付けるもんだ。」
「...分かった。」

エプロンを身につける彼を見ながら、真似をして首からエプロンを下げた。

「包丁は危ないからぜってぇ触るなよ?」
「...ほーちょー?」

彼は、先の尖った光る棒を握りしめる。

「食材を斬る為に使う。これは俺がやるから、お前はするな。いいな?」
「...分かった。」
「よし。じゃあ、まずは手を洗え。」

彼が捻った蛇口から、勢いよく水が流れ落ちた。水に手をかざし、擦り合わせる。

「ちゃんと石鹸も使えよ?」

近くに置かれた白い固形物を手に取り、擦り合わせて泡立たせる。それには風呂場に置かれたものと、同じ模様が書かれていた。

「...洗った。」
「じゃあ次はこれだ。玉ねぎの皮を向いてみろ。」

渡されたのは、茶色の丸い食材だった。先がほんの少し尖っていて、パリパリとした皮に包まれている。

「少しずつ捲りとって、白くなれば良い。」

茶色の皮を2枚ほど捲ると、玉ねぎは白色に変化した。

「そしたら俺がこれを斬る。」

彼は包丁を手に取り、玉ねぎに刃を立てた。あっという間に玉ねぎは粉々になり、小さなつぶつぶになってしまった。

「次はこれを混ぜてみろ。」

今度は、様々な食材が入った丸い器を渡された。赤と白が混ざったつぶつぶと白い粉、黄色の丸い塊と先程粉々にした玉ねぎが入っている。

「...混ぜる?」
「手で...こうやって、揉みながら混ぜる。」

彼の指示に従い、器の中に手を突っ込んだ。手の中で、固いものと柔らかいものがぐちゃぐちゃと音を立てて混ざり合う。

「じゃあ、最後は形を作るか。このくらいを手に取って...両手で丸めながら潰して、小判型に成形する。」

言葉で説明しながら、彼は平たく丸い形を作ってみせた。真似をして、同じような形を作ってみる。

「お前、意外と器用だな。料理のセンスがあるんじゃねぇか?」
「...センス?」
「才能つったら分かるか?初めてやった事でも、上手く出来る奴の事を言う。」
「...もっとしたい。料理。」
「時間があったらな。今日お前が手伝えるのはここまでだ。」
「...料理、名前何?」
「これはハンバーグだ。この丸めたやつをフライパンで焼いて、ソースをかけたら完成だ。」
「...ハンバーグ。」
「焼くのも油がはねて危ねぇから、少し離れて見てろ。そこの椅子に座っとけ。」
「...分かった。」

彼が料理をする光景をしばらく眺め、ハンバーグという料理が完成した。私が初めて手を加えた料理という事もあって、いつもとは違う感情が込み上げてくるような気がした。



「えー!?これ、アスールも一緒に作ったの!?」
「すごいな...。俺より料理が上手いんじゃないか?」

目の前に置かれた料理を見て、食堂へやって来たローゼとジンガは声を上げた。

「アルトゥンよりは確実に上手いぞ。」
「あはは!言えてるー。」
「お前はいつも食べるの早ぇから、もう少しゆっくり噛んで食べろ。」
「...早いのダメ?」
「確かー...よく噛んだ方が胃の負担が少ないんだっけ?」
「...負担?」
「よく噛んだ方が身体にも優しいし、消化しやすいって事ー。上手く消化しないとお腹痛くなるから、よく噛んだ方が良いって訳。」
「...分かった。」

自身の手で丸めたハンバーグを、フォークで切り分けながら少しずつ口へ運ぶ。

「アスール。今日は誰とお風呂入る?僕かジンガさんか。」
「...グイ。」
「はぁ?俺?」
「大丈夫大丈夫。身体も自分で洗えるし、髪の乾かし方も昨日教えておいたから...滑って転んだり、溺れたりしないように見とけばいいよ。」
「俺と風呂に入りてぇなら、片付けも手伝って貰わねぇとな?」
「...手伝う。」
「冗談のつもりだったんだが...本気みてぇだな...。」
「治癒士が成長する姿は、見ていて面白いな。」
「うわ...ジンガさんがヴィーズさんと同じような事言ってる...。そう言う事、言わない人だと思ってたのに...!」
「てめぇの偏見はいつも偏り過ぎなんだよ。」
「治癒士。食事が終わったら、手を合わせてご馳走様と言うんだぞ。」

彼の仕草を真似て、身体の前で手を合わせる。

「...ごちそーさま。」
「それじゃ、せっかくだから手伝ってもらうか。この器は落としたら壊れるから、少しずつ慎重に運べよ?」
「...分かった。」
「なんだか見ていてハラハラするな...。」
「それなら見なきゃいいのに。」

両手で器を包み込み、奥の調理場へ運ぶ私を見守るジンガに、ローゼは小さくため息をついた。
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