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40 しょうがないひと※

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 恭弥は逃げるように胸をよじった。だがぷっくりと腫れた粒は、アランの指先から逃れられない。

「知ってる? ずっとばんそうこうを貼ってるとね、乳首が女の子みたいにどんどん敏感になるんだって。塗り薬を塗るのも、そう」

 恭弥は呆然とアランの言葉を聞いている。

「言わなくてごめんね、ぼくは悪いお兄さんだから、純情な君を騙したんだ」
 
 くに。こり。謝る言葉と裏腹に、アランの指は執拗にそこを弄りつづける。
 
「ひあ、ぁ、へあっ、あ」
 
 男の胸ではありえないほどの快楽を、恭弥の乳首は感じ取る。

(こいつ、わざと……)

 恭弥は泣きじゃくる。

(どうすんだよ、これ)

 敏感になりすぎて、ばんそうこうを剥がすに剥がせなくなってしまったというのに。 

「後戻りできなくなるように。もっとぼくとのセックスに溺れてくれるように。不安でたまらなくなって、ぼくだけを見てくれるように」

 ずちゅずちゅと繰り返し中を小突かれる。そのたびに胸の痺れは腹の奥の痺れと溶け合い、増幅していく。
 
(もう、なってんだよ)

 快楽が過ぎて、ぼろぼろと涙が出る。

「そうしないと、ぼくが不安だった」 
「はぁあぁ、ああぁ……」

 喉をからして喘いでいる恭弥の上で、アランは切なく微笑んだ。

「ほんとはわかってる。どんなに恭弥くんを開発したって、意味ないんだって」

 胸を弄られながら、なかを捏ねられる。恭弥は出すものもないまま、長引く絶頂感に手足を痙攣させる。

「女の子が抱けなくなっても、ぼくよりセックスが上手な男なんていくらでもいるだろうしね」

 アランは自嘲している。

「ぼくのときより気持ちよさそうな顔して、君は抱かれるんだ。そいつの言いなりになって。そいつに褒められて、君はかわいい声でいくんだろ」

 ずくり。恭弥のなかでアランのものが硬さを増した。

「な……っ」
「やだよ……そんなの、やだ。君はぼくだけ知ってればいい」

 アランの腰使いが荒くなっていく。

「ぁあ、ああ、ああぁっ、とま、ぁあ」
「捨てられたくないのはぼくの方さ。こんなふざけたやつ、君はいつだって見限れる、さっきみたいに」

 アランは泣きそうな顔をしている。

「ねえ、全部あげるから。ぼくの持ってるもの全部。なるべく優しくするし、お金だってあげる。だから、どこにもいかないで。見限らないで。ぼくをほしがって。愛して」

 アランは恭弥をひどく突いた。嗚咽のような声を漏らして、恭弥をかき抱く。
 衝撃が恭弥の脳天へ走る。恭弥は細く高く鳴いて、ぐたりと手足を弛緩させる。
 
(……ばか)

 腰を震わせて達するアランの背中を、恭弥はぼんやりと撫でる。

(あいしてるっつってんだろ)

 張り詰めていたアランのものが体内でどくどくと脈打って、やがてやわらかくなっていく。それでも、息苦しくなるぐらいに抱きしめられたままだ。

(しょうがねぇひと)

 アランの愛を教えられたというより、アランの隠していたかっこ悪さをぶちまけられただけな気がする。いとおしいけれど。
 ばんそうこうの件は、今さら謝られてもどうしようもないぐらい手遅れだ。起きたら叱ろう。そう思いながら、恭弥は重く瞬きした。
 
「んん……」

 そうしていつものように、恭弥は眠りに落ちていくはずだった。
 アランが脚の間で、もぞもぞと何かしているのに気づくまでは。
 
「あらん、さん?」

 恭弥が寝ぼけて呼んだ次の瞬間だった。
 ころん。恭弥の身体がひっくり返る。四つん這いの姿勢になると、かたいものがうしろに沿った。
 それがアランの雄であることに、恭弥は一瞬気が付かなかった。

「え……」

 ずぶり。言葉もなく深く貫かれ、恭弥は目を見開く。
 
「ぁああ!?」

 貫かれたとおりの角度で背をそらして、恭弥は鳴いた。

「ごめんね、ごめん……」

 恭弥をうしろからきつく抱きしめて、アランはそう繰り返した。
 あんた、悲しそうに謝ればなんとかなると思ってないか。明日も仕事なんだぞ。
 恭弥の心のツッコミは、自分自身の喘ぎ声にかき消されていった。
 
 
「ってことで反省してください」
「ごめん、我慢できなかった……」

 翌朝、嗄れてほとんど声の出なくなった喉で、恭弥はアランを叱った。アランは裸で添い寝しており、まわりは不機嫌そうな雄猫たちに囲まれている。何かの宗教的儀式のようだ。

「この声だけで何が起きたかだいたいバレるだろうが」

 仲直りエッチで声を嗄らした恥ずかしい人として、店に出勤しないといけない。

「休む?」
「休んでもバレるんです」

 仲直りエッチで仕事に支障が出るほど身体を酷使した恥ずかしい人になるだけだ。たぶんもっと悪い。

「あとこの胸どうしてくれるんだ」

 アランがにやける。

「ほんとにごめんね。そこは、ぼくが責任をもってかわいがりますので」
「っ……」

 恭弥は赤面した。これで嫌じゃないのだから始末に負えない。
 恭弥の反応を見て、アランは明らかに調子に乗った。
 
「そうそう、あの約束、覚えてる? 自分で弄っちゃダメって、あれ」

 恭弥は一瞬言葉をなくした。

「……亜蘭さんの馬鹿」

 だが、恭弥は知っている。自分という人間はアランとの約束を、けっして破れない。 
 もちろんアランもそれを見透かして、こうしてにやにやしている。そう思うと悔しくてたまらない。
 
「シャワー浴びてきます」

 恭弥はぶっきらぼうにつぶやいてベッドを降りた。
  
(さよなら、俺のエロ漫画たち)

 それなりに世話になってきたが、もう二度と使うことはないのだろう。恭弥は少し感傷的になる。
 だがそれでも、言いつけを守ってアランに褒めてもらえることに比べれば、大した喪失ではない。そう思えるのが、また悔しい。




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