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19 不憫くんの彼氏※

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 「すごいなぁ恭弥くんは」

 アランの優しい誉め言葉が、知らない快感をどんどん引きずり出していく。
 自分がすごいんじゃない。アランがこういうことに長けているせいだ。どこかではそうわかっているのに、飢え切った恭弥の心は甘い言葉でどうしようもなく満たされてしまう。
 全部アランの手のひらの上だ。

「ぁあ、あう、んぁあ」

 ゆるゆるとゆりかごのように揺さぶって恭弥の中全体を熱くしておいて、油断したところで奥を小突いてくる。
 太刀打ちなんてできるわけもない。いいように遊ばれて、恭弥は喘ぐことしかできない。
 
「おちんちんいれられるの、癖になっちゃいそうでしょ、ね?」

 アランは笑う。

「せっかくの才能だもん、ちゃんと丁寧に育ててあげなくちゃ」

 肉のついていない尻を撫であげられ、恭弥はぞくぞくと鳥肌を立てる。

「乳首とか中だけでいけたらさぁ、きっとすっごく気持ちいいよ。これからぼくがじっくり仕込んであげる。大丈夫、お兄さんに任せてれば何も心配ないよ」

 何かおそろしいことを言われている気がするが、今の恭弥に理解する力はなかった。

「もっとかわいがってあげたいけど、そろそろ我慢の限界かなぁ。ちゃんと足ついて、つかまってて、ね」

 ずん。アランは大きく恭弥を突き上げた。
 
「んああっ!!」

 がくん、と身体が上下する。恭弥はアランにしがみついて鳴いた。
 
「上手」

(ほめられた)

 恭弥の目じりに涙が浮かぶ。
 連続的に恭弥の尻を跳ね上げて、アランはしっかりと中を穿っていく。ふだんはひょろひょろとした印象なのに、こんなときだけ力が強い。
 何度も、何度も、恭弥はアランの力と自分の体重とで深く犯される。
 
「好きだよ、恭弥くん」

 軽い響きの甘い声が、恭弥の脳を麻痺させる。

(うそばっかり……でも)

「君もでしょ?」

(うそでもいい、それ、もっと、いっぱい、ききたい)

「す、き、すき……すき……」

 恭弥はすすり泣いた。

「よく言えました」

 恭弥の大好きな誉め言葉だ。恭弥は泣きながらうっとりと目を閉じた。
 真っ赤になって震える恭弥のものに、あたたかな長い指が絡む。恭弥の好きな、手。
 
「いっていいよ」

 恭弥は全身を震わせた。
 とくん。少し握られただけで、恭弥はあっけなく白濁を漏らした。やけに勢いなく溢れだした液体は、アランと自分の間にとろとろと滴っていく。
 甘くて痺れてふわふわとした、終わらないオーガズムの中に恭弥は漂った。
 
「ほんとにいっちゃった。かわいすぎ、もう無理」

 アランは恭弥を強く抱きしめた。尻をつかむようにして、激しく音を立て、自分のものを恭弥の孔でしごきはじめる。
 軽々と使われる恭弥の身体は、まるで本物のおもちゃみたいだ。

「ひぁあ」

 達している最中の身体を蹂躙されて、恭弥は悲鳴をあげた。
 
「恭弥くんの中、すっごいびくびくしてる、たまんない」

 アランは吐息を漏らしながら笑う。

「いくよ」

 かすれた声でささやいて、アランはひとつ、大きく突き入れた。

「んなぁああ」

 鳴き声をあげる恭弥の中で、アランのものがどくどくと脈打つ。アランは荒い息をして、恭弥をただ抱きしめている。 

(いってるんだ、おれの、なかで)

 人生のどんな瞬間よりも存在を肯定されている気がした。きゅん、と恭弥の孔が締まった。
 
「がんばったね」

 長いため息をついたあと、アランは恭弥の背中をさすった。
 優しく恭弥の背中をマットレスに横たえ、ずるりと身体を離していく。恭弥はぼんやりと快感の余韻に浸っている。
 
(きもち、よかった……)
 
 前を事務的にしごいて溜まった欲を吐き出すことしか、これまで恭弥は知らなかった。誰かに褒められ、求められ、愛されることが、こんなに強烈な快感をともなうものだったとは思わなかった。
 これを知ったらもう、きっと女は抱けない。恭弥がほしかったのは、ほんとうはこれだったのだ。
 
「これで晴れてぼくは恭弥くんの彼氏です。やったぁ」

 にやにやしながら、アランは恭弥の額にキスをした。
 恭弥は目を閉じた。昨夜の睡眠不足がたたって、すぐに深い眠りに引きずり込まれる。


 
 目を覚ますともう朝だった。ベッドの上、恭弥の隣でアランはスマホを見ている。レースのカーテン越しに、白い朝の陽射しがやわらかく部屋にしみ込んでいる。

「おはよ、恭弥くん」

 アランは画面から顔を上げ、にっと白い歯を見せた。

「おはよう、ございます……」

 身体を起こした恭弥は、自分が裸だということに気づいて赤面した。寝ている間にきれいにしてもらったようで、身体は汚れていなかった。
 
「またしたくなっちゃうからさ、服着て、そのエッチな身体、ぼくから隠しといてくれる?
 ああ、あと、もうすぐルームサービスが来るよ」

 軽口のついでに、思い出したようにアランは付け足した。

「そんな時間ですか」

 恭弥はあわてて服を探し始めた。
 
「ぼくとしてはルームサービスの人に恋人自慢するのも悪くないんだけどね」
「あと何分ですか」
「大丈夫大丈夫、あと十分ぐらい」
「けっこう短い」

 脱ぎ捨てた服はアランが拾って風呂場にかけておいてくれていた。服を着て洗顔のたぐいを済ませ、部屋に戻ると、アランが珍しく深刻な顔をしている。何かあったのだろうか。

「恭弥くんとのんびりいちゃいちゃした朝を過ごしたいのは山々なんだけど。朝ごはん食べたら、すぐ出発するよ。ペットカメラ見たら、猫ちゃんたちがいたずらしてるっぽい」
「え」
 
 心配になって、恭弥は差し出された画面を覗き込んだ。ダイニングを映した映像だった。テーブルの隅、カメラから見切れそうなところに、恭弥は異変を見つけた。
 
「あ、ティッシュ」

 ティッシュ箱の口から、紙が大量にほじくりだされている。箱から出た紙のかたまりは盛り上がって、小学生がつくった雪山の模型みたいだった。あたりにはちぎれた紙くずが散乱している。
 残念ながら、犯人は現場を去ったあとのようだった。
 
「掘り掘りされちゃった。行く前に箱、ひっくり返しておけばよかった。忘れてたよ」
「猫たち、荒れてますね……」
「うん。ご機嫌とらなきゃ……」

 ふたりが三匹の猫たちの機嫌に思いをはせていると、ドアをノックする音が聞こえた。
 
「はーい」

 恭弥は深く考えることなく、ドアを開けに行った。
 
「ルームサービスでございます」
 
 帽子をかぶった男の従業員が廊下にうやうやしく立っていた。

「失礼いたします」

 部屋に通された彼は、キングサイズのベッドと男二人の客を前にして、何かを察したらしい。注意してみていなければわからない程度に、ほんの一瞬固まった。
 だがこういうシチュエーションも初めてではないのか、鉄壁のアルカイックスマイルが崩れることはなかった。
 
(プロ根性すげえけど察するのやめて)
 
 恭弥は内心で叫んだ。従業員の推察が(おそらく)正解なことを含め、猛烈に恥ずかしかった。
 従業員は手押し車から、色とりどりの皿を窓際のテーブルに並べた。
 
「ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
 
 小さくおじぎをすると、彼は口元に微笑をたたえたまま、さっそうと去っていった。
 精神的ダメージを受けた恭弥だったが、テーブルの料理を目にすると、ぐうっと腹が減ってきた。バターをにじませたスクランブルエッグに、スモークサーモンやハーブの乗ったサラダ。冷たいじゃがいものスープはガラスの器に入っていて、見るからにひんやりとしている。
 セックスは自慰以上に腹が減るものだと、恭弥はこのとき初めて実感した。
 
「食べよっか。猫ちゃんたちは気になるけど、朝ごはんは楽しまないと」

 ゆったりとパンケーキを切り分けるアランの前で、恭弥はもくもくと料理を平らげていった。前夜のコース料理はよくわからないまま食べ終わってしまったが、朝食は見ただけで正体がわかるメニューだったせいもあって、ちゃんと味わって食べられた。
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