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23 アイラブユー・モアザン・アイラブミー※

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「どうしようもないんだ。俺はベータなのに、お前がすきだ」

 俺はずっと泣いていた。
 気づかないうちに、裸にされている。
 
「うん、うん。僕のせいだね。今だってこうやって、セックスで思い通りにしようとしてる。簡単に僕から離れられないように、もっと僕がいないとダメにしようとしてる」

 ゆっくりと自分のスウェットを剥ぎながら、サノユーは微笑む。
 
「僕もね、ほんとは劣等感が強いんだ。アルファのくせに小さいころからどんくさくてさ、いつも比べられてた。だから五年前、僕は背伸びして、高嶺の花を手に入れようとしたんだ。あのオメガはトロフィーみたいなものだったんだよ」

 オメガの話をされて、俺は嫉妬してしまう。
 サノユーも昔はオメガを抱いていた。今は気まぐれで俺を抱いているだけ。

「でも、お前は違う。難攻不落だったのはいっしょだけど……もっと根源的なところで、僕を変にしてくる。自己愛の鎧をひっぺがしたい、コンプレックスでぐちゃぐちゃな裸のお前がみたい、言いなりにしたい、依存させたい、僕のおっきいので全部作り変えたい」
 
 かたく大きなものが揺れて現れた。
 今だけはどんなオメガでもなく、ベータの俺をほしがっている。その証が、いっぱいに張り詰めて俺の上にかざされている。
 
「ぐす……ぅうっ……」
 
 俺は身体を起こして、そうっとそれに手を伸ばした。サノユーは優しく見守っている。
 サノユーの手が髪を梳いた。
 俺は何をするべきなのか、サノユーが何を待っているのか、ようやくわかった。
 
「ん……」
 
 ベッドにはいつくばって、すこし濡れた先端に、唇を寄せていく。
 丸みに唇を沿わせてキスすると、サノユーの甘いにおいが脳を痺れさせた。
 
「いいこ。どうすればいいか、わかる?」

 一か月付き合って、初めてだった。
 俺は両手でそれを持つと、おずおずと口を開いて、中に押し込んだ。
 信じられないほど大きかった。淡い塩味と、濃密なアルファのフェロモン香が、いっさいの隙間もなく口を満たす。
 サノユーのにおいだ。
 泣くほど好きなひとのにおいだ。

「おいしいね?」

 俺は震えながら頷いた。
 サノユーの優しいまなざしが俺を酩酊させていく。ほんとうにおいしいのだと、脳が錯覚してしまう。
 じわりと唾液が口にたまった。開いたままの口では唾液を止めることなどできなくて、端からこぼれていく。
 
「吸ってみて?……そう、上手」
 
 歯を当てないように、俺はそれをしゃぶった。
 サノユーは甘い息を漏らしながら、涙で濡れた俺の頬を撫でている。俺はうっとりと目を閉じた。
 視界が暗くなると、もっとサノユーの味を感じた。
 
「気持ちいいよ」
 
 俺はいらないベータじゃない。夢中になって、その証拠を味わった。
 
「ん、ふう、ぅ……」
 
 上の顎を弾力のある肌で擦られるたび、俺は鼻声を漏らした。腹の中がさびしくて、きゅんと疼いてたまらない。
 
「お尻、寂しいね? いれてもらいたいね?」
 
 あとからあとから、アルファのにおいのする蜜が先から溢れだしてくる。舌で舐めて、吸って。
 口からずるりとそれが抜けると、俺は不安になってサノユーを見上げた。
 もう俺はいらないんだろうか。
 
「もっとほしかったの? ふふ。顔に出てるよ?」

 身体じゅうが寂しかった。まだ目の前に差し出されたままのそれが、ほしくてたまらない。

「お口に出しちゃいたいのは山々だけど、たぶん僕の量だと溺れちゃうから、やめとこ?」

 這いつくばったままの俺の尻に、サノユーの指が触れた。
 
「ひあっ」
「だから、こっちにあげる。一滴残さず注いであげる。朝くんがオメガになれるように」

 サノユーの両手が肩を押した。
 仰向けに押し倒されると、かたくなった俺のものがふるっと天井を向いた。
 
「僕の舐めて、おっきくしてたんだ? かわいい」

 サノユーは意地悪く輪郭をなぞるだけで、しっかり触ってくれない。
 最近はいつもそうだ。
 だしたければ自分でどうぞ、とサノユーの目が言っている。
 いつものように、俺は自分で前を触り始める。ほとんど無意識に、あいた手で胸をつまんで弄ると、もどかしい気持ちよさが茎を走る。
 だが、それだけだ。茎をせりあがってくる、あのきりきりとした切迫感は、いつまで経ってもやってこない。
 
「ん……ふぁ……」

 いつもここで、サノユーの目は弓なりになる。
 
「うまくいけないねぇ?」
 
 日に日に役に立たなくなっていく俺のものを、サノユーは眺めるのが好きだった。

「こんなにおっきくなってるのに。もう朝くんは中にいれてもらわないとダメなんじゃないかなぁ」

 あせる俺の横で、ゆっくりとローションを自分の指に垂らしている。
 
「手伝ってあげるね」

 サノユーの指が俺の中に簡単にはいってしまう。もうこれも、うしろを濡らすための儀式でしかない。
 
「んあ」

 俺が声を裏返すと、サノユーはくすりと笑う。
 
「ほんとにこっちがすきだねぇ?」

 指をそっと抜いて、俺の腿を割る。

「でも、指よりこれの方がもっと好きだろ。おっきいもんね」

 俺の唾液で濡れそぼった肉が、うしろの孔を擦り撫でる。
 俺は身体を震わせた。
 
「すき、……さの、ゆ、ほし」
「うん。あげるよ」

 抱きしめるように、サノユーは俺に押し入った。
 ずぶりと肉をかきわけて、サノユーのものがはいってくる。俺は幸福感に身体を震わせた。
 俺はサノユーが好きだ。優しくて病んでいて、俺を切実にほしがってくれたサノユーが好きだ。
 世界中の誰より。
 ――――この俺自身より。
 
「ああっ……」

 目じりから涙がつうっと流れた。熱くて痺れて、涙が出るほど気持ちいい。
 
「気持ちいいね」
 
 サノユーは舌を伸ばして、頬のしずくを舐めとった。サノユーのものが奥にあたって、何も考えられなくなる。
 
「きもちい、すき。すき……」

 頭からつま先まで、甘い快楽がじゅわぁっと広がった。脳までとろけてしまいそうだ。
 サノユーは俺をじっと見つめたまま、動かない。
 どうしたんだろう。俺はふわふわとした頭で、サノユーをぼんやりと見上げる。

「……嘘、だろ」

 そうつぶやいて、サノユーは俺を見つめる。
 
「ねえ。……ねえ、朝くん」

 信じられない、という表情だ。
 
「お前、今……オメガの……におい、する……」
 
 サノユーの瞳孔が開いていく。危険を感じるほど、サノユーの呼吸が荒くなっていく。
 
 
 
 
 
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