βがコンプレックスな俺はなんとしてもΩになりたい

蟹江カルマ

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14 ナルシスト、恥をかく※

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 俺は凍り付いた。
    指を外そうにも、しっかり中にはいってしまっていて、焦れば焦るほど抜けなくなってしまう。
 その間にも、スリッパを履いたサノユーの足音が近づいてくる。
 
「ちょ、待っ……」
 
 俺が制止する前に、ドアが開いてしまった。
 ドアの向こうのサノユーと、しっかり目が合った。
 
「え……」
 
 サノユーは俺を見るなり、ぽかんと間抜けな顔をした。
 下半身丸出しの同居人が、なんの前触れもなしに自分のベッドの上で脚を開いて尻を弄っているのだから、無理もないかもしれないが。
 二秒、三秒。沈黙が流れた。
 
「み、みるな……!」
 
 俺は開いている方の手でなんとか毛布をかき集め、下半身にかけた。
 それでも勃起した俺のかたちは、布越しにはっきりとわかってしまう。
 ああ、さよなら俺のプライド。
 美しくてかっこいいはずの俺が、なぜこんな恥ずかしい目に。
 我に返ったのか、サノユーはみるみる真っ赤になった。
 
「朝くん!? え、何して」
「だ、だって、全然お前が抱いてくれないから……う、後ろさえちゃんと緩んでたら、抱いてくれるんだろ? だから……」

 俺は涙目になりながら説明した。
 くそ、なんて日だ。

「何それぇ」

 サノユーは長く呻いて顔を覆った。それから叫んだ。
 
「そりゃ抱きたいよ! そんなに煽って!」
「なら」

 この勢いなら、今夜こそベータを卒業できそうだ。
 俺は光明を見た。プライドを失った甲斐はあったかもしれない。
 だがすぐに希望は打ち砕かれた。

「でも、はいんないから! 二本じゃ!」
「えっ」

 まだ足りないというのか。
 
「そんな! 俺、頑張ったんだぞ」

 これでは恥のかき損ではないか。俺は必死に抗議の声をあげた。

「わかるけど! すごくうれしいけど! 物理的に無理なんだよ……」
 
 俺の希望がさらさらの砂になってしまった。またお預けをくらわされるらしい。
 顔を上げたサノユーは真顔になっていた。

「とりあえず、煽った責任はとって。僕、ずっと挙動不審だったんだよ、お前のせいで」

 サノユーはジャケットを放ると、俺の上にのしかかってきた。
 アルファはアルコールで目が据わっている。
 俺をじっと見つめたまま、サノユーはごそごそとズボンの前を広げる。
 どん。
 何か非常に重くて威圧感のあるものが俺の腹を打った。

「ひえ」

 見下ろした俺は思わず悲鳴をあげた。
 
(でかい)
 
「ね?」

 サノユーは何かの同意を求めながら、自分の手のひらをローションで濡らすと、俺のものと自分のものをいっしょに握りこんだ。
 俺は混乱していた。
 こんな規格外のもの、そもそも人体にはいるのか。
 いくら後ろを馴らしたところで意味がないのではないか。

「悪いけど、今夜は、いっしょにいこ。僕のベッドでおいたしてた朝くんが悪いんだから」

 うろたえている間に、巨大なものがずりずりと俺のものを擦り始めた。
 俺も小さい方ではないのだが、完全に気圧されている。
 すべすべとした丸い先端、太い茎。
 自分のものと似た質感をしているのに、大きさが違う。
 拡大倍率が間違っているかのようだ。
 
「うぁ」
 
 サノユーの手の中で、二本のものが揉みあっている。
 他人のそういう場所に触れたことなんて、これまでなかった。男のものも女のものも、どちらも知らない。
 今までの人生で、いちばんセックスに近いことをしている。
 光景には現実感がないのに、熱とかたさ、それにぬめりは生々しく現実だ。
 
「朝くんの、震えてる。かわいい」
 
 小動物でもかわいがるような優しさで、サノユーは俺のものを自分のものといっしょにやわやわと握りこむ。
 
「いっぱいぬるぬるしてきたね」

 俺の先端から溢れた薄い汁を、サノユーの指が鈴口に塗りこめていく。
 俺の指はまだ後ろにはいったままだ。
 前から伝わってきた快楽が、後ろの方へ抜けていく。孔の縁が、指のまわりで勝手に痙攣している。
 熱い。じんじんする。目の前がちかちかする――――
 
「あ、ああっ」
 
 唖然としているうちに次第に気持ちよくなってしまって、俺はいつの間にか声をあげて精を吐き出していた。
 腰が浮き上がって、やがてどさりとマットレスに下りる。はずみでようやく指は抜けた。
 こわごわと目を開けると、溶けた乳菓のような飛沫がサノユーの手の甲に垂れている。
 
「もう出ちゃったんだ? いっしょって言ったのにね」

 ぼんやりしている俺にそう囁いて、サノユーは動きを速めた。
 雄の動きだ。
 俺の横に肘をついて、動物みたいに腰を使っている。
 いつか俺を抱くときも、サノユーはこんな顔で、こんな息遣いになるのだろうか。
 
「今日の朝くん、最高にかわいい。なんで?」
 
 がっちりと握られた手のひらの中、俺のものがとくん、とくんと小さく痙攣する。
 圧倒的なサノユーの質量が、達したばかりのそれに打ち付けられる。
 そのたびにひどく脳天が痺れた。

「ああっ、ん゛、あっ」

 ほとんど痛みに近い快楽が俺を襲った。
 俺は必死にあえいだ。
 萎えかけたそれはなすすべもなく、熱くてかたいものにもみくちゃにされている。
 
「まって、だめ、ぁ、ああ」
 
 出すものが残っていないのに、そこを刺激され続ける。
 それがこんなにつらいとは思わなかった。焼ききれてしまいそうだ。
 
「僕も、だすよ」 

 サノユーはぎゅっと眉を寄せた。
 アルファの匂いのする熱いものが一気に噴き出した。
 白い液体は俺の腹をどろどろに汚して、下へと重たげに流れていく。
 サノユーは動きを小さくして、やがて止まった。
 
「ふう」

 長い息を吐くと、サノユーはいつものサノユーの顔に戻っていった。
 
「ごめんね、汚しちゃって。あんなの見たら、ちょっと我慢できなかった」
「ほんと、すごい量だな……」

 ティッシュの箱に手を伸ばしながら、サノユーは困ったように眉を下げた。

「仕方ないんだよ。一応アルファだから」
「まあいいよ。もう一度シャワーは浴びるつもりだったしな」

 俺はやけくそになっていた。
 もういちばん恥ずかしいところは見せてしまったのだ。今さら恥じらったって仕方がない。
 サノユーはせっせと俺の腹を拭っている。

「自分で馴らしてる朝くんもかわいいけど。明日からはちゃんと僕にさせて」
「なんでだよ」
「僕がお前をオメガにするから。全部、僕がしたい」

 俺は噴き出した。
 
「俺の指にまでやきもち妬いてどうする」
「そういうんじゃないけど……まあ、違うとも言えない……」

 サノユーはもごもごと口ごもった。

「お前の方が器用だし、させてやってもいいが。今日みたいにお前が遅くなる日は、問答無用で自己処理するからな」
「なるべく善処します」

 サノユーは大真面目な顔で答えた。
 
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