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1 美しい俺

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 鏡を見ながら、こう考えた。
 
 ――――なんて俺は綺麗なんだろう!
 
 この斜め四十五度からのアングルがとくに素晴らしい。
 切れ長の目。
 すっと通った鼻。
 日に焼けた肌。
 ああ、この顔を一言で言うならば……!

「きつねだろ」

 洗面所に入ってきて余計なことを言ってくるのは、サノユーこと佐野佑(さの ゆう)だ。
 背の高い男は俺の隣に並んだ。
 俺には少し、いやだいぶ劣るが、寝起きでもサマになるような整った顔をしている。

「お前にはわかんないのか、この顔の造形美が」

 ふわあとあくびをして、男は歯を磨き始めた。

「まあ、かわいいけどね」

 サノユーはぶくぶくと口をゆすいだ。

「朝くんは自己認識バグってんのに仕事はちゃんとできるの、ほんと笑うんだよね。ピンポイントに自分の認識だけずれてる」

 朝くんとは俺の名だ。
 水上朝(みなかみ あさ)。美しい男は名前まで美しい。

「俺はすべてが完璧なのだよ、サノユーくん」

 サノユーの白い顎に剃刀がすべる。さりさりと髭が刈り取られていくかすかな音がした。

「なんで僕、こいつが好きなんだろう」

 サノユーはぼやいている。

「ナルシストだし、ベータだし。訳わからん」

 神が俺に与えた唯一の欠点。それが、ベータであることだった。
 もし俺がアルファだったら、俺は最上の雄として、世界じゅうのオメガをとろかせただろう。
 もしオメガだったら、俺は魔性の雌として、世界じゅうのアルファを惑わせただろう。
 アルファやオメガは互いを激しく求めあう。愛とセックスのために生きて死ぬ。
 それに比べ、ベータはドラマチックさとは無縁の、ありふれた存在だ。
 アルファやオメガと違って、特別な生殖機能ももたない。ベータと結婚し、ベータの子をもうけ、死んでいく。数も多い。
 どこまでも普通、平凡。それがベータという生き物だ。
 もちろん、どんなものにも例外はある。
 それがこの俺だ。

「俺の美はどんなアルファだって惑わせる。諦めろ」
「はいはい。諦めてるよ」

 サノユーはため息まじりに言った。

「で、付き合ってくれるの?」

 サノユーはもう五年も、ベータの俺に告白を続けている。
 サノユーは生意気にもアルファだ。



 このアルファとルームメイトになったのは、大学時代だった。
 俺の美しさに見合う生活には金がかかった。バイト代はほとんどブランド服に使ってしまった。
 親にお金をもらうのも、そろそろ厳しそうだった。
 そんなとき、『失恋したサノユーを励ます会』というのが、大学近くの居酒屋で開催されることになった。
 別にサノユーとは特別に仲がよかったわけでもない。みんなで集まったときなら、いっしょに遊びに行く程度の友だちだった。
 だが、俺はなけなしのお金をかき集め、その飲み会に参加することにした。
 というのも、とある計画があったからだ。



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