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第二節 白銀の守り手 青珠(せいじゅ)の守り手16
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性悪に歪んでいたレイノーラの美麗な顔が、不意に、激しい苦悶の表情を浮かべ、その冷たい青玉の瞳をカッと大きく見開くと、頭を抱えて地面へと崩れ落ちたのである。
「!?」
突然沸き起こった彼女の異変に、スターレットは、思わず、呪文を紡がんとした唇を止めた。
形の良い眉を眉間に寄せて、彼の深紅の瞳が、頭を抱えたままそのしなやかな身を捩(よじ)るレイノーラの姿を、真っ直ぐに見つめやる。
『おのれ・・・・この女!!』
搾り出すような声でうめいたレイノーラの青玉の瞳が、急速に、あの凛とした茶色の瞳へと変貌していく。
両手で頭を抱え込み、長い髪を振り乱しながらレイノーラは乾いた地面に両膝をついた。
美麗なその顔を覆うかのように、長い黒髪が揺らめき綺麗な頬に降りかかる。
乱れた髪の合間でゆっくりと顔を上げ、苦悶にうめく妖艶な紅の唇から出た言葉は、彼が予想だにしていなかったものだった・・・・
「臆病者!何を躊躇う!?早く私を討て!!
この私を、アストラたるこの私を!!おぬしは魔物に落としたいのか!!?」
荒い息の最中から飛び出したその怒声は、明らかにエストラルダ語であった。
スターレットの深紅の瞳が、揺れる蒼銀の前髪の下で驚愕に見開かれた。
「ラレンシェイ・・・・!」
「早くしろ!!こやつはすぐに私を跳ね退ける!!」
麗しい頬にかかる漆黒の髪の合間から覗く、凛と強い茶色の瞳が、睨みつけるようにスターレットの深紅の瞳を見る。
「そなた・・・・・まだ心があるのだな?」
流暢なエストラルダ語で呟くようにそう言った彼の雅な顔が、不意に、微かな安堵感で小さく微笑んだ。
彼の肢体を囲んでいた蒼き輝きを纏う疾風が、何故か緩やかに消えていく。
レイノーラから意識を奪い取った異国の女剣士ラレンシェイは、綺麗な眉を眉間に寄せながら、地面に膝まずいた姿で、尚も彼に向かって怒声を上げたのだった。
「うつけかおぬし!?魔法を解いてどうする!?私は討てと言っているのだ!!」
本来の凛と厳(いかめ)しい鋭い表情を取り戻したラレンシェイに、スターレットは、ゆっくりと鮮血にまみれたその右手を差し伸ばした。
彼女は、鋭利に眉間を寄せたまま、いつもの冷静な表情に戻った彼の雅な顔を見る。
「何をしているのだ!?だからおぬしは臆病者だと言うんだ!!」
「そなたの言う通りだ・・・・ラレンシェイ。私に、そなたを討つ勇気などない・・・」
静かにその身を落としながら、そう言って伸ばされた彼の指先が、彼女の額に刻まれた紫色の炎の烙印に近づいていく。
深紅に輝く彼の両眼が爛と鋭く発光した。
彼の肢体から吹き上がるように立ち昇った蒼きオーラが、ゆらゆらと揺らめいてその腕に絡み付く。
ラレンシェイの鋭い茶色の両眼が、驚いたように見開かれた。
「何をするつもりだ・・・・!?」
「そなたに巣食った女妖を引き剥がす・・・・苦痛を伴うぞ?だが、絶対に意識を離すな・・・そなたなら耐えられるはずだ」
疾風に棚引く蒼銀の髪の下で、形の良い眉を僅かに眉間に寄せ、鋭い表情で差し伸ばされたその指先が、あと少しで彼女の額に刻まれた炎の烙印に触れる・・・正にその次の瞬間だった。
炎の烙印が眩いばかりの紫の光を解き放ち、虚空に揺らめき立った黒炎が、ラレンシェイの体を一瞬にして飲み込んでいったのである。
「・・・・!?」
スターレットは、躊躇いもせずその指先を黒き炎の中に差し入れる。
しかし、僅かに遅い。
焼け付くような痛みが差し伸ばされたその手先に走り、彼女を飲み込んだ黒い炎は、激しい火の粉を舞い散らせながら、歪んだ空間の最中へと溶けいくように消失したのである。
「おのれ・・・・・・!」
スターレットの雅な顔が、再び口惜しそうに歪んだ。
激昂する自分を制するように、彼は、その美しい深紅の瞳を静かに閉じると、彼女の気配が消え行った、ファルマス・シアと呼ばれる荒野の地で、ふつふつと湧き上がる怒りにその肩を振わせた。
輝くような蒼銀の髪が、落日の茜に染まり、ただ、立ち尽くす荒野の風に乱舞する。
再び開かれたその瞳が、ゆるやかに本来の銀水色に戻っていく・・・彼は、まだ熱い痛みの残る右腕を左手で押さえると、その雅な顔を爛と鋭く引き締めたのだった。
傷を押さえる指先から、紅の帯をひいた鮮血がこぼれ落ちる。
それは、不吉なほど鮮やかな茜に染まる西の空に、最後の光を放つ落日が、音も無く沈みいく日のことであった・・・・・・
「!?」
突然沸き起こった彼女の異変に、スターレットは、思わず、呪文を紡がんとした唇を止めた。
形の良い眉を眉間に寄せて、彼の深紅の瞳が、頭を抱えたままそのしなやかな身を捩(よじ)るレイノーラの姿を、真っ直ぐに見つめやる。
『おのれ・・・・この女!!』
搾り出すような声でうめいたレイノーラの青玉の瞳が、急速に、あの凛とした茶色の瞳へと変貌していく。
両手で頭を抱え込み、長い髪を振り乱しながらレイノーラは乾いた地面に両膝をついた。
美麗なその顔を覆うかのように、長い黒髪が揺らめき綺麗な頬に降りかかる。
乱れた髪の合間でゆっくりと顔を上げ、苦悶にうめく妖艶な紅の唇から出た言葉は、彼が予想だにしていなかったものだった・・・・
「臆病者!何を躊躇う!?早く私を討て!!
この私を、アストラたるこの私を!!おぬしは魔物に落としたいのか!!?」
荒い息の最中から飛び出したその怒声は、明らかにエストラルダ語であった。
スターレットの深紅の瞳が、揺れる蒼銀の前髪の下で驚愕に見開かれた。
「ラレンシェイ・・・・!」
「早くしろ!!こやつはすぐに私を跳ね退ける!!」
麗しい頬にかかる漆黒の髪の合間から覗く、凛と強い茶色の瞳が、睨みつけるようにスターレットの深紅の瞳を見る。
「そなた・・・・・まだ心があるのだな?」
流暢なエストラルダ語で呟くようにそう言った彼の雅な顔が、不意に、微かな安堵感で小さく微笑んだ。
彼の肢体を囲んでいた蒼き輝きを纏う疾風が、何故か緩やかに消えていく。
レイノーラから意識を奪い取った異国の女剣士ラレンシェイは、綺麗な眉を眉間に寄せながら、地面に膝まずいた姿で、尚も彼に向かって怒声を上げたのだった。
「うつけかおぬし!?魔法を解いてどうする!?私は討てと言っているのだ!!」
本来の凛と厳(いかめ)しい鋭い表情を取り戻したラレンシェイに、スターレットは、ゆっくりと鮮血にまみれたその右手を差し伸ばした。
彼女は、鋭利に眉間を寄せたまま、いつもの冷静な表情に戻った彼の雅な顔を見る。
「何をしているのだ!?だからおぬしは臆病者だと言うんだ!!」
「そなたの言う通りだ・・・・ラレンシェイ。私に、そなたを討つ勇気などない・・・」
静かにその身を落としながら、そう言って伸ばされた彼の指先が、彼女の額に刻まれた紫色の炎の烙印に近づいていく。
深紅に輝く彼の両眼が爛と鋭く発光した。
彼の肢体から吹き上がるように立ち昇った蒼きオーラが、ゆらゆらと揺らめいてその腕に絡み付く。
ラレンシェイの鋭い茶色の両眼が、驚いたように見開かれた。
「何をするつもりだ・・・・!?」
「そなたに巣食った女妖を引き剥がす・・・・苦痛を伴うぞ?だが、絶対に意識を離すな・・・そなたなら耐えられるはずだ」
疾風に棚引く蒼銀の髪の下で、形の良い眉を僅かに眉間に寄せ、鋭い表情で差し伸ばされたその指先が、あと少しで彼女の額に刻まれた炎の烙印に触れる・・・正にその次の瞬間だった。
炎の烙印が眩いばかりの紫の光を解き放ち、虚空に揺らめき立った黒炎が、ラレンシェイの体を一瞬にして飲み込んでいったのである。
「・・・・!?」
スターレットは、躊躇いもせずその指先を黒き炎の中に差し入れる。
しかし、僅かに遅い。
焼け付くような痛みが差し伸ばされたその手先に走り、彼女を飲み込んだ黒い炎は、激しい火の粉を舞い散らせながら、歪んだ空間の最中へと溶けいくように消失したのである。
「おのれ・・・・・・!」
スターレットの雅な顔が、再び口惜しそうに歪んだ。
激昂する自分を制するように、彼は、その美しい深紅の瞳を静かに閉じると、彼女の気配が消え行った、ファルマス・シアと呼ばれる荒野の地で、ふつふつと湧き上がる怒りにその肩を振わせた。
輝くような蒼銀の髪が、落日の茜に染まり、ただ、立ち尽くす荒野の風に乱舞する。
再び開かれたその瞳が、ゆるやかに本来の銀水色に戻っていく・・・彼は、まだ熱い痛みの残る右腕を左手で押さえると、その雅な顔を爛と鋭く引き締めたのだった。
傷を押さえる指先から、紅の帯をひいた鮮血がこぼれ落ちる。
それは、不吉なほど鮮やかな茜に染まる西の空に、最後の光を放つ落日が、音も無く沈みいく日のことであった・・・・・・
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