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第二節 白銀の守り手 青珠(せいじゅ)の守り手3
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晴れ渡る紺碧色の天空に、騒々しくざわめく風の精霊達が舞い踊っている。
精霊達が奏でる不穏なその歌に、荒野を流れる小川のほとりに立って、人でないその少女は、ハッと華奢な肩を揺らした。
エメラルドグリーンの髪が揺れ、虹色の瞳が輝く天空を仰ぐと、少女は、その傍らで騎馬に水を飲ませていた、長身の青年に思わず叫ぶように言ったのである。
『シルバ・・・・!闇の者がもう一人、憑(よりまし)を得た・・・・!!』
光沢ある純白のマントを羽織った広い背中で長い黒髪を揺らし、青年は、ゆっくりと、その隻眼で妖精と呼ばれる者である少女の方を見た。
深い地中に眠る紫水晶のような右目をどこか鋭く細め、隻眼の青年シルバ・ガイは、静かに妖精の少女サリオ・リリスの隣に長身を寄せたのである。
漆黒の前髪の下で、見事な竜の彫刻が刻まれた二重サークレットが、キラリと鋭利な輝きを放つ。
それは、他でもない、この隻眼の青年が、膨大な魔力を宿した魔剣を自在に操る、魔法剣士と呼ばれる最強の戦人(いくさびと)であることを示すいわば印・・・・
本来なら、どこか穏やかな印象を与える彼の精悍で整った顔が、にわかに、凛とした鋭利な表情へとゆるやかに変わっていった。
『あの男、このまま、使い魔どもを全て呼び起こすつもりか・・・・?』
彼が持つ艶のある低い声が、どこか鋭利な響きを持って呟くようにそう言った。
煌く紫水晶の右目で、ふと天空を仰いだシルバの端正な横顔を真っ直ぐに見つめて、サリオは言葉を続ける。
『・・・多分、そうだと思う・・・・風の声が、ずっと不穏を歌っているもの』
『ああ・・・・聞こえてる』
サリオ・リリスのような妖精と呼ばれる者や、魔法を司る者にしか聞こえない精霊の声は、煌く天空から更に激しく不穏を伝えている。
シルバは、その澄み渡る紫水晶の右目を僅かに細めると、長い黒髪と純白のマントを翻し、騎馬の手綱を取って、軽い身のこなしで鞍にまたがった。
その後ろを、慌てて追いかけると、サリオもまた、まるでふわりと宙を舞うように鞍の後輪に身を置いたのである。
それを確認にして、彼はすぐさま馬腹を蹴る。
黒毛の騎馬は高く嘶(いなな)いて再び荒涼たる大地を、北に向けて疾走し始めたのだった。
巧みに手綱を操っているシルバの右目に、遠く霞むように見えてきているのは、カルダタス山脈と呼ばれる高峰の山々の連なりであった。
その峠を越えれば、大リタ・メタリカ王国の王都より北西の国々に伸びる大街道銀楼の道(エルッセル)に出ることが出来る。
『森から・・・大分離れたな・・・・』
長い黒髪と純白のマントを棚引かせる疾風に、呟くような彼の声が混じった。
『うん・・・・でも、大丈夫、お母様の結界は絶対に魔物なんかに負けないから』
くったくなくそう言ったサリオの声に、シルバは、端正に整った顔を僅かばかり複雑な表情で歪め、凛々しい唇で苦笑する。
『白銀の森の守り手が・・・まさか、二人とも森を離れることになるとは・・・・
これも、もしかしたら、あの魔王の策略なのかもしれないな・・・』
『まさか、私達の森には【魔王の種】はなかったわ・・・・あるとすれば、むしろ、青珠(せいじゅ)の森の方よ・・・・それを心配して、アノスは森を発ったんじゃない?
もし、策略だとすれば・・・・自分に反目しそうな、白銀の森の守護者を抹殺するのが目的・・・だと思う』
サリオの言っていることは、確かに的を射ている。
シルバは、小さく微笑して、再び馬腹を蹴った。
更に速度を上げて黒毛の騎馬は、カルダタス山脈に向かってひたすら荒野を駈け抜けていく。
天空の太陽の断片が、金色に輝きながら風の精霊達の最中に舞散った。
白銀の森とは、このシァル・ユリジアン大陸に点々と存在する妖精の森の一つで、点在する妖精の森の中でも唯一女王が統治している森の名であった。
実は、この黒髪の魔法剣士シルバは、その森の守護者であり、そんな彼と行動を共にする少女サリオは、森の統治者である女王ディアネテルの一人娘であるのだった。
白銀の森には、シルバの他にもう一人守護者が存在する。
それが、アノストラールと言う名の白銀の竜であるのだ。
だが、このアノストラール、ある日を境に忽然と森に戻らなくなってしまったのだ。
アノストラールは、その姿を自在に変化させ、膨大な魔法を操る竜族である。
そんな彼が姿を消してしまうなど、普通に考えればやはり尋常なことではない。
『アノスはきっと、どこかで闇の者と遭遇したんだと思う・・・・』
シルバの広い肩ごしに、虹色の瞳で彼の横顔を覗き込みながら、サリオは、どこか確信したようにそう言った。
シルバは、そんな彼女にちらりと紫水晶の右瞳を向けながら、低く艶のある声で答えて言うのである。
『それしか考えられないな・・・・まぁ、あやつが、闇の者に負けるようなことは無いと思うが・・・・・』
『アノスの気配が消えたのは、カルダタスの最中だったから・・・行けばきっと何かわかると思うの・・・それに』
『それに?』
『青珠の森にも・・・・異変が起きてる・・・そんな気がする』
『【魔王の種】が持ち出されたから、か・・・・?』
どこか鋭く輝く紫水晶の右目で、緩やかに近づいてくるカルダタスの高峰を見つめすえながらそう言ったシルバに、サリオは小さく頷いた。
天空を駈ける疾風が、今、大きく唸りを上げた。
晴れ渡る紺碧色の天空に、騒々しくざわめく風の精霊達が舞い踊っている。
精霊達が奏でる不穏なその歌に、荒野を流れる小川のほとりに立って、人でないその少女は、ハッと華奢な肩を揺らした。
エメラルドグリーンの髪が揺れ、虹色の瞳が輝く天空を仰ぐと、少女は、その傍らで騎馬に水を飲ませていた、長身の青年に思わず叫ぶように言ったのである。
『シルバ・・・・!闇の者がもう一人、憑(よりまし)を得た・・・・!!』
光沢ある純白のマントを羽織った広い背中で長い黒髪を揺らし、青年は、ゆっくりと、その隻眼で妖精と呼ばれる者である少女の方を見た。
深い地中に眠る紫水晶のような右目をどこか鋭く細め、隻眼の青年シルバ・ガイは、静かに妖精の少女サリオ・リリスの隣に長身を寄せたのである。
漆黒の前髪の下で、見事な竜の彫刻が刻まれた二重サークレットが、キラリと鋭利な輝きを放つ。
それは、他でもない、この隻眼の青年が、膨大な魔力を宿した魔剣を自在に操る、魔法剣士と呼ばれる最強の戦人(いくさびと)であることを示すいわば印・・・・
本来なら、どこか穏やかな印象を与える彼の精悍で整った顔が、にわかに、凛とした鋭利な表情へとゆるやかに変わっていった。
『あの男、このまま、使い魔どもを全て呼び起こすつもりか・・・・?』
彼が持つ艶のある低い声が、どこか鋭利な響きを持って呟くようにそう言った。
煌く紫水晶の右目で、ふと天空を仰いだシルバの端正な横顔を真っ直ぐに見つめて、サリオは言葉を続ける。
『・・・多分、そうだと思う・・・・風の声が、ずっと不穏を歌っているもの』
『ああ・・・・聞こえてる』
サリオ・リリスのような妖精と呼ばれる者や、魔法を司る者にしか聞こえない精霊の声は、煌く天空から更に激しく不穏を伝えている。
シルバは、その澄み渡る紫水晶の右目を僅かに細めると、長い黒髪と純白のマントを翻し、騎馬の手綱を取って、軽い身のこなしで鞍にまたがった。
その後ろを、慌てて追いかけると、サリオもまた、まるでふわりと宙を舞うように鞍の後輪に身を置いたのである。
それを確認にして、彼はすぐさま馬腹を蹴る。
黒毛の騎馬は高く嘶(いなな)いて再び荒涼たる大地を、北に向けて疾走し始めたのだった。
巧みに手綱を操っているシルバの右目に、遠く霞むように見えてきているのは、カルダタス山脈と呼ばれる高峰の山々の連なりであった。
その峠を越えれば、大リタ・メタリカ王国の王都より北西の国々に伸びる大街道銀楼の道(エルッセル)に出ることが出来る。
『森から・・・大分離れたな・・・・』
長い黒髪と純白のマントを棚引かせる疾風に、呟くような彼の声が混じった。
『うん・・・・でも、大丈夫、お母様の結界は絶対に魔物なんかに負けないから』
くったくなくそう言ったサリオの声に、シルバは、端正に整った顔を僅かばかり複雑な表情で歪め、凛々しい唇で苦笑する。
『白銀の森の守り手が・・・まさか、二人とも森を離れることになるとは・・・・
これも、もしかしたら、あの魔王の策略なのかもしれないな・・・』
『まさか、私達の森には【魔王の種】はなかったわ・・・・あるとすれば、むしろ、青珠(せいじゅ)の森の方よ・・・・それを心配して、アノスは森を発ったんじゃない?
もし、策略だとすれば・・・・自分に反目しそうな、白銀の森の守護者を抹殺するのが目的・・・だと思う』
サリオの言っていることは、確かに的を射ている。
シルバは、小さく微笑して、再び馬腹を蹴った。
更に速度を上げて黒毛の騎馬は、カルダタス山脈に向かってひたすら荒野を駈け抜けていく。
天空の太陽の断片が、金色に輝きながら風の精霊達の最中に舞散った。
白銀の森とは、このシァル・ユリジアン大陸に点々と存在する妖精の森の一つで、点在する妖精の森の中でも唯一女王が統治している森の名であった。
実は、この黒髪の魔法剣士シルバは、その森の守護者であり、そんな彼と行動を共にする少女サリオは、森の統治者である女王ディアネテルの一人娘であるのだった。
白銀の森には、シルバの他にもう一人守護者が存在する。
それが、アノストラールと言う名の白銀の竜であるのだ。
だが、このアノストラール、ある日を境に忽然と森に戻らなくなってしまったのだ。
アノストラールは、その姿を自在に変化させ、膨大な魔法を操る竜族である。
そんな彼が姿を消してしまうなど、普通に考えればやはり尋常なことではない。
『アノスはきっと、どこかで闇の者と遭遇したんだと思う・・・・』
シルバの広い肩ごしに、虹色の瞳で彼の横顔を覗き込みながら、サリオは、どこか確信したようにそう言った。
シルバは、そんな彼女にちらりと紫水晶の右瞳を向けながら、低く艶のある声で答えて言うのである。
『それしか考えられないな・・・・まぁ、あやつが、闇の者に負けるようなことは無いと思うが・・・・・』
『アノスの気配が消えたのは、カルダタスの最中だったから・・・行けばきっと何かわかると思うの・・・それに』
『それに?』
『青珠の森にも・・・・異変が起きてる・・・そんな気がする』
『【魔王の種】が持ち出されたから、か・・・・?』
どこか鋭く輝く紫水晶の右目で、緩やかに近づいてくるカルダタスの高峰を見つめすえながらそう言ったシルバに、サリオは小さく頷いた。
天空を駈ける疾風が、今、大きく唸りを上げた。
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