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【25、終焉】

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  月明かりだけが差し込む部屋の中で、私は、彼と向きあった。
 自分の体が小刻みに震えるのがわかる、それと同時に、彼の手も震えているのがわかった。
 彼にしてみたら、余りにも突然で理不尽かもしれない、だけど、私にはこうするしかなかった。

  ひどく悲しそうな、切なそうな、だけど怒ったような声が、不意に強い口調になる。

「そんなこと、勝手に決めないでくれっ!
なんでそうなるんだっ?」

「 私…こんなことになるなんて、思ってなかったの!
こんなに苦しくなるなんて、思ってなかったの!」

「こんな関係になるんじゃなかったって、そう言いたい?
 後悔してるって、そう言いたい?」

「後悔なんてしてないよ!
後悔なんてしてない…っ!」

 そこまで言ったら、もう、堪えきれなくなって、私の瞳からは、涙が溢れ出したてしまった。

 こんなところで、泣いたらダメなのにっ
 なんであたしっ

 そうなるともう、自分自身で感情なんて制御できなくなる。
 とめどなく大粒の涙が零れて、もう止められなくなった。

 涙で歪んだ視界の中で、彼の顔が、どんどん悲しそうに沈んで、私は、心が押し潰されそうだった。

そんな彼が、すっと手を伸ばして私の腕を掴むと、もう一度ぎゅっと抱きしめる。
  
 ダメ…
 やめて…
 覚悟を決めたのに…
 心が揺らぐから…
 お願い、抱き締めたりしないでっ!

「 俺はまだ、里佳子さんのことが好きだ…」

「 嫌いになってよ…
 私のことなんか嫌いになって…!
 自分勝手な女だって、嫌いになってよ!」
 
「いやだ」

「離して…樹くん!」

「いやだ…っ 」

 いたたまれなくなって、私は、両手で思い切り彼の胸を押し飛ばす。

涙が止まらない。
彼を慕う心から、涙が溢れて止まらない。

だけど…
私は…
この人のためにも…
身を引かないとダメなのっ

私は、思い切り彼の左頬を平手打ちした。
ぱぁんと派手な音が響いて、彼は、驚いたように目を見開く。

 じんとした痛みが私の右手に走っている。

 私はすでに、泣くしかできなくなってた。
 これで、私たちの関係は終わり。
 終わりだから…
 どんなに好きでも…
 どんなに離れたくなくても…
 終わりにしないと…
 あたしの心が壊れてしまう…

「もう二度と会わない…
 もう二度と会わないから…っ
 私のことなんか嫌いになって…っ
 あんなババア、遊んでやっただけだって、そう思って笑って…っ!」

「里佳子さん……何、言って…っ」

 私は、俺に背中を向けて玄関に走り出した。
 泣きながら、一目散にエレベーターに向かって、階下に降りる。
 
 追いかけてこないで
(追いかけてきて)
あたしのことなんか嫌いになって
(嫌いにならないで、あたしは貴方が好きなの)

 相反する気持ちがせめいで、苦しい。

 外に出て、慌てて車に乗った時、彼の姿が窓越しに見えた。
 振り返ったらダメ。 
 もう、別れるって決めたんだからっ!
 振り返ったらダメ。

 私は、車を急発進させた。

 バックミラーすら見ないで、私は、彼から逃げた。

 愛しくて、恋しいから、こうするしか彼から離れるすべがなかった。
 電話もLINEもブロックした。
 もう、これで連絡は取れない。
 これでいいの、もうこれでいいの。

 それなのに…

 涙で前が見えなくなって、私は、路肩に車を停めて、ハンドルに突っ伏して、子どもみたいに声をあげて泣いた。

 涙も声も枯れるほど泣いて泣いて、ふらふらになってビジネスホテルの部屋に戻った。

 彼のぬくもりにはもう触れられない。
 どんなに好きでも、どんなに恋しくても、私は、別な人と結婚するの…
 家族にも友達にも祝福されて…
 私は結婚するの…

 だけど、私が望んだのはほんとにこの結末だったの?
 私は、ほんとに結婚したいの?

 好き、好きだよ。
 まだ好き…
 だけど、もう二度と会えない…
 会ったらダメなんだよ…

 私はその夜、一晩中泣きながら過ごした。
 
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