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【17、悲嘆】
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私は、きっと浮かれ過ぎてた。
だから、バチが当たったんだ。
昼休み。
私は、会社の近くのカフェにいた。
昨夜も、今朝も、あんなにセックスしたせいか、すごく体がだるい。
変なところで、年齢の差を感じてしまう…
彼は、私より七歳も若い、当たり前だよね、きっと、ああ言うの。
嬉しいと言うか、恥ずかしいというか、そんなふわんとした気分で居た時、LINEが鳴った。
私は一瞬、彼かと思ってスマホを見ると、珍しいことに信ちゃんだった。
『本社会議で地元戻ってる、会議終わったら迎えにきて』
「………」
久しぶりのLINEの内容がこれで、しかも、地元に戻るのになんの連絡もなく…
なんで信ちゃんはこうなんだろう…
私は思わずため息をついた。
今朝まで、彼と一緒にいた私が、夜には信ちゃんと一緒にいることになるんだ…
あんなに抱き合ったばっかりなのに…
嫌な罪悪感が、じりじりと私の心を締め上げていった。
*
これはきっと、どっちつかずでふらふらしていた私へのバツなんだと思う。
私はそれを、その瞬間に自覚した。
夜。
信ちゃんを迎えに本社に行って、「腹が減った!」と騒ぐ信ちゃんをファミレスに連れてきた。
「もぉ…帰ってくるなら帰ってくるって、事前に連絡してよ!」
目の前でビールを飲んでる信ちゃんに、私は思わずそう言った。
信ちゃんは、へらへら笑いながら言う。
「すまん、だって会議の話も急だったんだよ~」
「急っていつよ?」
「先週」
「急じゃないじゃない!連絡する時間、十分あったでしょ?!」
「怒るなよ~なんだか里佳子は、俺が転勤してからよく怒るよな~?」
「………」
そう言われて、私は思わず黙ってしまった。
比較対照になる存在ができたから、信ちゃんの態度や言動についイライラしてしまう。
それは結局、私の非なんだから、そう言われると、何も反論できなくなる。
信ちゃんのことは、もちろん、嫌いじゃないし、いつの間にか熟年夫婦みたいになってるし、私に干渉もしてこないし、居心地はむしろ良い。
でも、違うの…
『好き』だけど、彼への『好き』とは種類が違う…
だけど、こんなことを思ってる私は、人間として最低だ…
押し黙った私を、信ちゃんは大して気にした様子もない。
「転勤して離れて、俺、なんか里佳子がいてくれたことのありがたさを知った気がする」
「料理も洗濯も、全部自分でやるしかないもんね」
「まあな!でも、まあ、それだけじゃなくて、仕事から帰って誰もいないって、意外と寂しいしさ、ほら、もう里佳子もアラサーだし」
「なによそれ?」
ちょっとムッとした私に、信ちゃんは陽気に笑ってみせた。
そして、ポケットから小さな箱を取り出してこう言った。
「じゃーん!婚約指輪!!
いい歳になったし結婚するぞ!!」
「…………っ?!」
私は、差し出された指輪ケースに収まった指輪を見て、思わず固まった。
信ちゃんは、ずっと私に無関心で、私のことなんてお母さん代わりにしてるんだと思ってた。
「家も建てるぞ!子供が二人できてもゆっくり住めるはずの間取り!どやっ!」
そう言って、信ちゃんはニコニコしながら封筒から住宅メーカーの住宅見取り図を取り出して、テーブルに並べた。
こんなことまで、考えてくれてたんだ…
あたしへの意思確認はまるでないけど…
無関心だと思ってたから、驚いて、そして、嬉しかった。
でも。
私は、泣きそうになって、指輪ケースの指輪に手を触れた。
嬉しいから泣きたい…
違う、私は、今、嬉しい以上に、悲しくなってる…
結婚…
結婚するんだ…
でも、そうなったら…
もう、もう、樹くんには会えない…
信ちゃんのプロポーズ、嬉しいし、断る理由なんかない…
だけど、そうなったら…
私は、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
「なんだ里佳子!泣くほど嬉しかったのか?
よしよしじゃあ、12月ぐらいにこっちに越してこいよ!
また一緒に住んで結婚の準備しよう」
「………」
私は頷くこともしないで、ただ、黙って返事をしないでいたのに、信ちゃんはそれを別の意味に捉えたらしい。
だけど、ここで何か言うと、樹くんとの関係がバレてしまいそうで、何も言えなかった。
酷い罪悪感と、嬉しさと、それ以上の悲しさに私は涙をこらえるのが精一杯だった。
その時、急に信ちゃんは、私の肩越しに誰かを見つけて、ニコニコしながら席を立った。
そんな信ちゃんの歩く方向を見ると…
「……っ」
私は動揺した。
信ちゃんが向かう先に、見たことのある若い女の子がいる。
その向かいに座るのは、赤い髪の…
間違いない、樹くんと、ミキちゃんだ…
なんだが、すごく楽しそうに笑ってる二人を見て、不意に、私の胸は締め付けられた。
同じ歳の二人。
カップルと言うなら、むしろ、あの二人はよく似合ってる。
モヤモヤした嫌な感覚が、私の心を蝕んでいく。
これは…
これは、間違いなく、嫉妬…
だけど、私は、あの二人に嫉妬なんかしちゃいけないんだ…
私は、十分嫌な女なんだから…
その時、ふと、樹くんがこちらを振り返った。
まっすぐに私の視線と、彼の視線がぶつかる。
私は、それが少し嬉しかったけど、 このタイミングでどんな表情をすればいいかわからずに固まってしまった。
彼の視線が不意にミキちゃんの方に戻る。
モヤモヤするこの気持ち。
苦しい。
胸が痛いよ。
本当ならプロポーズを受けて、舞い上がるほど嬉しいはずなのに…私は今何でこんな気持ちになってるんだろう?
きっと、これはバチなんだ。
樹くんのことも、信ちゃんのことも、どっちつかずで選べなかった私への、これは罰なんだ。
だから、バチが当たったんだ。
昼休み。
私は、会社の近くのカフェにいた。
昨夜も、今朝も、あんなにセックスしたせいか、すごく体がだるい。
変なところで、年齢の差を感じてしまう…
彼は、私より七歳も若い、当たり前だよね、きっと、ああ言うの。
嬉しいと言うか、恥ずかしいというか、そんなふわんとした気分で居た時、LINEが鳴った。
私は一瞬、彼かと思ってスマホを見ると、珍しいことに信ちゃんだった。
『本社会議で地元戻ってる、会議終わったら迎えにきて』
「………」
久しぶりのLINEの内容がこれで、しかも、地元に戻るのになんの連絡もなく…
なんで信ちゃんはこうなんだろう…
私は思わずため息をついた。
今朝まで、彼と一緒にいた私が、夜には信ちゃんと一緒にいることになるんだ…
あんなに抱き合ったばっかりなのに…
嫌な罪悪感が、じりじりと私の心を締め上げていった。
*
これはきっと、どっちつかずでふらふらしていた私へのバツなんだと思う。
私はそれを、その瞬間に自覚した。
夜。
信ちゃんを迎えに本社に行って、「腹が減った!」と騒ぐ信ちゃんをファミレスに連れてきた。
「もぉ…帰ってくるなら帰ってくるって、事前に連絡してよ!」
目の前でビールを飲んでる信ちゃんに、私は思わずそう言った。
信ちゃんは、へらへら笑いながら言う。
「すまん、だって会議の話も急だったんだよ~」
「急っていつよ?」
「先週」
「急じゃないじゃない!連絡する時間、十分あったでしょ?!」
「怒るなよ~なんだか里佳子は、俺が転勤してからよく怒るよな~?」
「………」
そう言われて、私は思わず黙ってしまった。
比較対照になる存在ができたから、信ちゃんの態度や言動についイライラしてしまう。
それは結局、私の非なんだから、そう言われると、何も反論できなくなる。
信ちゃんのことは、もちろん、嫌いじゃないし、いつの間にか熟年夫婦みたいになってるし、私に干渉もしてこないし、居心地はむしろ良い。
でも、違うの…
『好き』だけど、彼への『好き』とは種類が違う…
だけど、こんなことを思ってる私は、人間として最低だ…
押し黙った私を、信ちゃんは大して気にした様子もない。
「転勤して離れて、俺、なんか里佳子がいてくれたことのありがたさを知った気がする」
「料理も洗濯も、全部自分でやるしかないもんね」
「まあな!でも、まあ、それだけじゃなくて、仕事から帰って誰もいないって、意外と寂しいしさ、ほら、もう里佳子もアラサーだし」
「なによそれ?」
ちょっとムッとした私に、信ちゃんは陽気に笑ってみせた。
そして、ポケットから小さな箱を取り出してこう言った。
「じゃーん!婚約指輪!!
いい歳になったし結婚するぞ!!」
「…………っ?!」
私は、差し出された指輪ケースに収まった指輪を見て、思わず固まった。
信ちゃんは、ずっと私に無関心で、私のことなんてお母さん代わりにしてるんだと思ってた。
「家も建てるぞ!子供が二人できてもゆっくり住めるはずの間取り!どやっ!」
そう言って、信ちゃんはニコニコしながら封筒から住宅メーカーの住宅見取り図を取り出して、テーブルに並べた。
こんなことまで、考えてくれてたんだ…
あたしへの意思確認はまるでないけど…
無関心だと思ってたから、驚いて、そして、嬉しかった。
でも。
私は、泣きそうになって、指輪ケースの指輪に手を触れた。
嬉しいから泣きたい…
違う、私は、今、嬉しい以上に、悲しくなってる…
結婚…
結婚するんだ…
でも、そうなったら…
もう、もう、樹くんには会えない…
信ちゃんのプロポーズ、嬉しいし、断る理由なんかない…
だけど、そうなったら…
私は、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
「なんだ里佳子!泣くほど嬉しかったのか?
よしよしじゃあ、12月ぐらいにこっちに越してこいよ!
また一緒に住んで結婚の準備しよう」
「………」
私は頷くこともしないで、ただ、黙って返事をしないでいたのに、信ちゃんはそれを別の意味に捉えたらしい。
だけど、ここで何か言うと、樹くんとの関係がバレてしまいそうで、何も言えなかった。
酷い罪悪感と、嬉しさと、それ以上の悲しさに私は涙をこらえるのが精一杯だった。
その時、急に信ちゃんは、私の肩越しに誰かを見つけて、ニコニコしながら席を立った。
そんな信ちゃんの歩く方向を見ると…
「……っ」
私は動揺した。
信ちゃんが向かう先に、見たことのある若い女の子がいる。
その向かいに座るのは、赤い髪の…
間違いない、樹くんと、ミキちゃんだ…
なんだが、すごく楽しそうに笑ってる二人を見て、不意に、私の胸は締め付けられた。
同じ歳の二人。
カップルと言うなら、むしろ、あの二人はよく似合ってる。
モヤモヤした嫌な感覚が、私の心を蝕んでいく。
これは…
これは、間違いなく、嫉妬…
だけど、私は、あの二人に嫉妬なんかしちゃいけないんだ…
私は、十分嫌な女なんだから…
その時、ふと、樹くんがこちらを振り返った。
まっすぐに私の視線と、彼の視線がぶつかる。
私は、それが少し嬉しかったけど、 このタイミングでどんな表情をすればいいかわからずに固まってしまった。
彼の視線が不意にミキちゃんの方に戻る。
モヤモヤするこの気持ち。
苦しい。
胸が痛いよ。
本当ならプロポーズを受けて、舞い上がるほど嬉しいはずなのに…私は今何でこんな気持ちになってるんだろう?
きっと、これはバチなんだ。
樹くんのことも、信ちゃんのことも、どっちつかずで選べなかった私への、これは罰なんだ。
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