神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第四章】

坂田 零

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第一節 開戦の調べ13

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 炎上するサーディナの街の東。
 海辺の街を囲む小高い丘の上から、鋭い視線で眼下に広がる戦火を見つめすえながら、白銀の守護騎士と呼ばれる銀の森の守り手、シルバ・ガイは、落ち着き払った、実に洗練された仕草で、腰に履いた優美な白銀の剣を抜き払った。

 深き地中に眠る紫水晶の如き右眼が、まるで、紫炎の刃が如く爛と鋭利に煌いた。
 内海アスハ―ナから吹き付ける強い海風に煽られて、広い肩に羽織られた純白のマントが虚空に翻る。

 ゆらゆらとマントが棚引くたびに、長く艶やかな漆黒の髪もまたその背中で跳ねるように揺れていた。
 先程まで、沖合に碇泊していた異国の船団は、すでにその姿を消している。
 そこで一体何が起こったか、シルバには、手に取るように判っていた。

 紫水晶の如き澄んだ右目が、不意に、鋭く細められる。
 彼は、『銀竜の角(ジェン・ドラグナ)』と名付けられた白銀の剣を軽く握り直した。

 太陽の切っ先に照らし出された優美な刀身が、緩やかな軌跡を描きながら、虚空に翻される。

 どぉぉんと言う轟音を上げて、彼の立つ地面から凄まじいばかりの雷(いかずち)が吹き上がった。
 刹那、彼の手にある美しい白銀の刀身が眩く煌き、そこから溢れ出た銀色のオーラが、大きく虚空に伸び上がったのである。

『天は悲哀の詩(うた)に充ち・・・・』

 艶ある低く冷静な声が、呪文と呼ばれる古の言葉を紡ぎ始める。
 白銀の剣が発する美しく目映い光の球体が、シルバの長い黒髪を虚空に乱舞させながら、そのしなやかで柔軟な肢体に絡み付くように舞い上がった。

 みるみる辺りに広がっていく白銀の光の海。
 その只中に、純白のマントが流れるように棚引いた。

『地は悲しみの雨に充つ 悲しみは天を導き 天は滅せぬ光を降らす 
我は誘(いざな)う悲哀の光 この地に来たれ 嘆きの流星(アンセサスト)』

 どおぉぉんという轟音が響き渡り、振りかざした白銀の剣から、幾節も幾筋も、眩いばかりの光の帯が放たれていく。

 それは大きく虚空へ伸び上がり、晴れ渡る天空の最中に、幾筋もの眩い白銀の軌跡を描くと、まるで空を突き抜けるように、天高く立ち昇ったのである。

 次の瞬間、嘆きの精霊の号泣と甲高い叫び声を伴い、紅炎を上げるサーディナの街へと、夜空から流星が落ちるが如く豪速で降り注いだのだった。

 凄まじいほどの轟音と悲痛の号泣を伴い、空を切り裂き、容赦なく地上に落下する眩い閃光の流星群。
 その時、サーディナを闊歩していた敵兵が次々と驚愕の叫びを上げた。

『なんだ!?』

『何が起こった!?』

『うわぁぁぁ――――――っ!!』

 名も無き異国の兵士たちが、喉も張り裂けんばかりに絶叫する。
 この戦乱で、そこに出現し始めていた嘆きの精霊が、呪文に吸い込まれるように天空に舞い上がり、周囲は、眼が眩むばかりの白銀の光に満たされていった。

 嘆きの精霊達の甲高い号泣と共に降り注ぐ流星のような光の球体が、兵士達の甲冑を砕き、兜ごとその脳天を貫いて、閃光の帯を引きながら虚空に跳ね上がった。

 怒号と悲鳴がサーディナの街に溢れ返り、逃げ惑う敵兵の五体を容赦なく貫き通す銀色の流星。
戦乱に炎上する街は、強力な呪文の海にみるみる飲み込まれていく。

 その光の中から伸ばされた無数の透明な手が、兵士たちの四肢や体をつかんで次々と千々に引き千切り、そのまま、煌く光の中へと引きずり込んでいった。

 首を根元から裂かれ、腹を抉り取られ、無粋な侵略者たちの驚愕と恐怖の断末魔が、尚も天空から降りしきる嘆きの流星の合間にこだまし響いた。

 略奪と殺戮の限りを尽くしていた異国の兵士たちは、僅かばかりの間に、みるみるその数を減らしていく。
 海鳴りと共に周囲に轟く轟音と、嘆きの精霊の甲高い号泣。

 やがて、敵兵たちの叫びすら聞こえなくなった頃、あれほどまでに降り注いでいた嘆きの流星は、穏やかにその数を減少させ、一際激しく眩く発光すると、急速に地面に吸い込まれていったのである。

虚空を満たしていた光の海と、嘆きの精霊の悲痛なすり泣きが街から消えて行く。

 それは、まさに一瞬の出来事だった。
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