しっかり者がダメ男に惹かれる法則(1)

坂田 零

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ACT3 優柔不断は早々簡単に治らない1

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 LINEにはいつも唐突に、意味不明な言葉の羅列が投げ込まれてくる。
『彼女さんと仲直りしたらいいよ!』とかいう書き出したなのに、最後の文章は…
『てっちゃんと付き合うのは、きっと彼女さんにとっては不幸だと思うけどね~…早くはっきりさせてあげたら?』

 俺は、バイト先のバーで、きなこから届いたあまりにも矛盾しているLINEを見て、がっくりと肩を落とした。

 おい…きなこ…おまえ、どんだけ意味不明な内容のLINEを送ってきやがったんだ…

 思わず頭を抱えた時、カウンターからマスターが俺を呼んだ。

「テツ~、新規さんだぞ~、よろしく」

「あい!」

 俺は、スマホをスラックスのポケットにしまって、カウンターの端に一人で座った、若い女性客の前に立ってた。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

 黒いボンネットですっぽり頭を覆い、ブランド物のサングラスをかけたその女性客は、ちらっと俺の顔を見上げて、小さく笑った。

「うん、めちゃくちゃ一人だよ」

 バーの照明は暗いのに、帽子もサングラスも外さないこの客に、なんとなく違和感を覚えたが…
 まぁ、ファッションも人によって好みがあるってもんだ…ここは笑顔で返してスルーしよう。
 ナッツを女の前におきながら、俺はいつもの通り注文を聞く。

「何をお作りしましょうか?」

「う~ん…ちょっとキツめのでいいかな~?これがいい…ムーンリバー!」

 ほんとにキツいのを選んだなこの女…とは思ったけど、まぁ、本人が飲むと言うなら、作るしかないよな…

 俺は、レシピ通りの酒やらなんやらをシェイカーに入れて、いつものようにシェイクする。

 女は、カウンターに両肘をついて、なんが嬉しそうに、そんな俺を眺めていた。

「髪…アッシュなんだね~?めっちゃ銀色~いい色だね~?なんかちょっとかっこいい」

「そう?ありがと」

 どうせ社交辞令だ、この手のことは笑顔でそう返すことに決めてる。

 俺は、営業スマイルでその女を見つめた。
 サングラスの下に見える細い輪郭、顎のラインが綺麗な女だ…
 サングラスを外したら、きっといい女だな…
 思わずそんな事を考えながら、俺はシェイカーをあけて、カクテルグラスにムーンリバーの薄い黄色の液体を注いだ。

 それを女の前に差し出すと、女はちいさく「あ…」と声を上げて、何故か俺の手を掴んだのだった。

 な…なんだよ、おい?

 俺は思わず、苦笑いをする。女は、サングラス越しに俺の顔と、俺の手を見て、何故か、にっこりと笑った。

「これ、ギターたこだ・・・バーテンさん、ギター弾くんだ?」

「ええ・・・ま、まぁ」

 俺がそう答えると、女は手を離して、カクテルグラスに手を伸ばす。
 リップの引かれた綺麗な唇に、グラスの端をつけながら、彼女は、小悪魔みたいにくすくすと笑った。

「もぉ~お客さんにはもっと愛想よくしないとね!」

「あ・・・・」

「あ~あ・・・!」

 間抜け面をした俺を見て、女はまたくすくすと笑う。

 そのとき、俺はふと気付いた・・・

 女から3席ほど離れたとこに座っていたカップルが、何故かこっちを見て・・・というより、その女を見てひそひそ話をしている。

 テーブル席にいる客も、さっきから、ちらちらと女を見てる。

 俺は訳がわからず、そんな客の視線をかわすようにして、もう一度女を見た。

 ボンネットからこぼれる、シルクみたいな栗色の長い髪。
 少し華奢な体つき。乳はそれほどないが、かなりスタイルは良い。
 サングラスをはずせばかなり美人に違いないと思いつつ、この女が何故、他の客に注目されるのか、まったくもって俺にはわからなかった・・・・

 だが、その理由を、俺はこの数分後に、予想もしない奴から聞かされることになるんだ・・・
 他の客の視線なんか気にもしない様子で、女は、カクテルに口をつけつつ、バックからスマホを取り出して、おもむろにどこかに電話をかけ始めた。

「もっしも~し!あ、仕事終わった?おk!
あのね~今ね~、きぃちゃんの言ってたお店きてみたよ~うんうん、いたいた!」

 そう言って、女はちらっと俺の方を見る。俺はきょとんとしまま、そんな彼女の仕草をまじまじと見つめるばかりだ。

 一体・・・なんなんだ?この女?
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