しっかり者がダメ男に惹かれる法則(1)

坂田 零

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ACT2 ちぐはぐな人生はどうやっても交差なんかしない9

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「きなこ…?」

「はいはい、きなこさんです~」

「おまえ……見てたんか?」

「見てたよ~」

 なんのためらいもなく、けろっとそんな事を言って、きなこは、スタバの熱いコーヒーを俺に差し出した。

「彼女さんのも買ってきたんだけど…
てっちゃんが泣かせたりするから~渡せなかったじゃんね~」

「……泣かせた泣かせたって言うなよっ」

「だって、泣かせたじゃん!あれはないよ~!てっちゃん!」

「は?」

「別れたいのか別れたくないのか~?って聞かれてさ~わからないって答えはないよ~
てっちゃん、馬鹿なの?」

「おまっ…!聞いてたのか?!」

「うん!」

 きなこは、何故かニッコリと笑って素直にうなずいた。

 俺は、思わず、その場で頭を抱えてしまった…

 そんな俺を、何故かじっと見つめるきなこ。
 俺は、片手で差し出されたコーヒーカップを受け取ると、思わず、深くため息をつく。

「ため息つきたいのは、てっちゃんじゃなくて、彼女さんなんじゃないの?」

「うるせ~な!俺だってため息だよ!」

「てっちゃんさぁ~…」

「なんだよ!」

 乱暴にそう答えた俺の隣に、何の遠慮もなく座ったきなこは、コーヒーに口を付けながら、いつもの口調で言葉を続ける。

「てっちゃん…ああ言う時にさ~真剣に、相手が何か言ってる時にさ~
わからないって言うのいくないよ」

「だって!ほんとにわからねーもん!」

「それってさ…つまり…どうでもいいってことじゃないの?」

「いやっ…それはっ…その…」

 思わず、俺は答えにつまる。

 きなこは、「やっぱり」て顔つきをして、じーっと俺の顔を見つめていた。

「一番、欲しくない答えだよね~もう、彼女さんどっちかにして欲しいんだよ…
てっちゃんは、ほんとにやる気ない」

「おまえに言われたくねーよ!」

「あたしはやる気満々だもん!お仕事頑張ってるもん!てっちゃんの応援も頑張ってるし!」

「なんだよそれ?」

「言葉のままだよ。てっちゃんがやる気ないのはわかってるけど…ほんとにあれはいくない」

「……」

「ちゃんと決めてあげなよ…てっちゃんなんかより、よっぽど、彼女さんのが辛いと思う」

「おまえ…やたら真奈美の肩を持つじゃんか?」

「だって!あたしも女のコだし!てっちゃんなんかと付き合ってる彼女さん、ちょっと可哀想」

「おま!失礼だな!」

 そう言った俺を、きなこはまじまじと見る。
 そして、何故か、やけに嬉しそうな表情をして、何を思ったか、殴られた方の俺の頬に、片手を置いた。
 焼きが回ったのか、不覚にも、俺はドキっとする。

 きなこは、少しだけ目を細めて、小声で言う。

「わからなくもないよ~…彼女さんの気持ち…てっちゃんなんか、ほんとダメ人間なのに…なんか…」

「……っ」

「なんか気になっちゃうし。付き合ったりしたら、絶対不幸になるの判るのに…なんか…なんか…」

「けなし過ぎだよ!」

「けなしてないよ!ほんとの事言っただけだよ~っ!」

「どう聞いてもけなしてんじゃんか!」

「腫れてるよ~?ほっぺ?これ、彼女さんも手、痛かったと思う」

「俺だって痛…」

 そういいかけた時、きなこの柔らかな唇が、軽く、俺の頬に触れた。

「!!?」

「てっちゃんの…ばーか!!」

 イタズラっぽく笑ったきなこが、ぴょんっと跳ねるようにベンチから立ち上がる。

 俺は、きょとんとして、そんなきなこをまじまじと見た。

「じゃあね!」

 きなこは、呆然とする俺に手を降ると、さっきの真奈美のように、走って改札の方に向かって行った。

 その場に、一人取り残された俺は、思わず、夜空を仰ぐ。

 ひどい夜だった…ほんとに…

 俺を置いてけぼりにした夜は、そんな思いと共に、更けていくだけだった…
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