しっかり者がダメ男に惹かれる法則(1)

坂田 零

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ACT2 ちぐはぐな人生はどうやっても交差なんかしない8

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 「じゃあ、明日から頑張ってメジャー目指します」って言えばいいのか?
 それとも「メジャー無理なんで仕事探します」って言えばいいのか?

 確かに、真奈美の言葉は当たってるかもしれない。
 だけど、じゃあ俺は、やっぱりどっちかを選ぶしかないのか?
 そもそも、それはどっちも、真奈美と別れないことが前提の話で、別れたら、今のままの生活が続くってだけの話だ…

 じゃあ、俺は、一体どっちが望みなんだろう?

  無言のまま、足りない頭でしばらく考える俺。
 俺は何にも考えなかった。

 将来のこととか…いつもその日のことしか考えてなくて、それの何が悪いんだって、ぶっちゃけ、この期に及んでそう考えてる。

 だけどそれじゃ、真奈美を失うことになる。
 それでもいいと思いつつ、それは嫌だと思ってみたりもしてる…
 じゃあ、今の生活を変えられるのか?今すぐ変えられる自信なんかない。

 我ながら、なんでこんなに優柔不断なんだろうと思うけど…
 やっとの思いで口から出た言葉は…

「すま…ちっと、考えがまとまるまで待ってくれ…」

 そう言った瞬間、真奈美は怒ったように目を吊り上げた。

「いつまで待てばいいの!?」

「それは……その……」

「いい加減にしてよ!どうしていつもそう中途半端なの?!
哲はいつでもそう!なんでもかんでも中途半端!
あたしと別れたいの?別れたくないの?一体どっちなの!?」

「……わか…らない」

 俺がそう答えた瞬間だった。
 いきなり立ち上がった真奈美が、大きな瞳にいっぱいの涙を浮かべて、片手を振り上げる。

 あれ?と思った瞬間、ばちーんって派手な音がして、俺の横面をえらい衝撃と鋭い痛みが貫いたのだった。 

「痛…っ」

 何が起こったか、一瞬わからなかった。
 真奈美に殴られたことを認識するまで、5秒。

 呆然としたまま、ふと目を上げると、真奈美が細い肩を揺らして、号泣していた。

「…馬鹿っ!!!あんたなんか最低!!」

「………。」

 何も言えないまま、俺は真奈美の泣き顔を見つめる。

 真奈美は、そんな俺にくるっと背中を向けると、ヒールの音を響かせながら、改札の方へ走っていく。

 遠ざかっていく、その頼りない背中を追いかけることもできないで、俺は、ただ、呆然とベンチに座ったままだった。

「あ~…痛って…っ」

 真奈美に殴らた頬が、じんじんと熱をもって、痛みを増していく。
 同時に、何だか、心まで痛くなっていく。

 なんだよこの…えらく後味の悪い…この気持ちは…?
 一体、俺にどうしろって言うんだよ…
 地位も名誉も財産すらない、ただ、唄うことだけがとりえの俺に…
 一体、どうしろって言うんだよ…

 なんとも言えない複雑な感情と、何に対してかわからない怒りが、だんだんと、俺の心の中に沸き上がってくる。

「ちっくしょう…っ」

 近くの灰皿を蹴飛ばしたくなった俺。
 何かが悔しい。
 真奈美に殴られた事が悔しいのか?
 いや…どこかで、殴られても仕方がないって思ってる。
 じゃあ、何が悔しいんだ?

 自問自答しても、なんだか、何にも答えなんか浮かばない。

 俺が、奥歯を噛んで、眉間にしわを寄せた時だった。

「あ~あ…てっちゃん…最低~…彼女さん、泣かせた~」

 あっけらかんとした声が、脇の方からそう言ったんだ。
 俺は、ハッとして声が聞こえた方に目を向ける。

 スタバのカップを片手にして、そこに立っていたのは…

 そう…きなこだった。
 
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