大鴉(ガシャ)の鳴く森

坂田 零

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第三節 魔法剣士

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 それは、古より、隣国大リタ・メタリカ王国で、異形と呼ばれる魔性の眼差し。
 そんな彼が広い額に飾っている、繊細な炎の彫刻が刻まれた金色の二重サークレットは、一人で二万の騎兵に匹敵する力量を持つと言われる最強の戦人、魔法剣士の証である。
 
 長身に纏われた濃藍のローブが、吹き付ける冷たい風にたおやかに揺れる。
 異形と呼ばれる鮮やかな瞳を僅かに細め、彼は、呆然と立ち尽くすばかりの美しき女魔法使いを顧みると、実にぶっきらぼうな口調で言うのだった。

「おまえ、クスティリン族の術者か?
攻撃呪文を持たない者が、こんな物騒な場所を、むやみに一人で歩くもんじゃない」

 構えていた金色の大剣を背鞘に納め、濃藍のローブを流れるように揺らしながら、彼は、静かに踵(きびす)を返す。
 彼女は、ふと我に返り、ハッと細い肩を揺らすと、慌てて彼を呼び止めるのだった。

「待て・・・!そなた、魔法剣士だな?」

 その声に、広い肩越し背後を振り返ると、彼は、実に愛想の無い表情と口調で、低く答えて言うのである。

「・・・・だったらなんだ?」

「いや・・・ただ、礼を言いたかっただけだ。
何度追い払っても、しつこく居付いていた魔物ゆえ、私も困り果てていたのだ。
今のクスティリン族には、魔物と対等に渡り合える男などおらぬからな」

 別段、気を悪くした様子もなく、ゆっくりと彼の傍に足を進めると、彼女は、綺麗な頬にかかる銀糸の髪を片手でかきあげながら、妖艶な唇で小さく微笑したのである。
 濃藍のローブをゆるやかに翻し、怪訝そうに形の良い眉を潜めた彼は、体ごとそんな彼女を振り返る。
 沈着な表情と静かな口調で、彼女は言葉を続けた。

「私の名は、マイレイ。そなたのその瞳・・・リタ・メタリカでは、異形と呼ばれる眼差しだ・・・見事な色だな」

 クスティリン族の魔法使いマイレイは、妖艶な唇でもう一度小さく微笑すると、揺れる前髪から覗く銀水晶の両眼で、真っ直ぐに、彼の鮮やかな緑玉の瞳を見つめ据えたのである。

 吹き付ける風に、白い花びらの如き雪が舞う、それは、冬近い日の事であった。
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