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第二節 異形の瞳
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妖艶な唇の下で、彼女は小さく舌打ちした。
~ クスティリン族の魔法使いが、なんたる失態か・・・!
自分で自分を叱責しながら、虚空に片手を伸ばすと、白くしなやかな掌に、煌めく銀色の輝きが溢れ出し、その閃光只中から、一本の水晶の杖が現る。
彼女は、決して凡人ではない。
この公国が打ち立てられる遥か以前より、この氷雪の地に住む民族、クスティリン族の魔法使いであるのだ。
だが、太古より、クスティリン族の魔法使いは攻撃の呪文を持たない。
剣を取り戦うは男、女は杖をとる魔法使い、そんな習わしが、深く一族に根付いているからである。
綺麗な顔を苦々しく歪め、彼女は、虚空を旋回する大鴉を睨みつけたのだった。
同時に、不気味な旋風が周囲に巻き起こり、黒き怪鳥大鴉は、凄まじい殺気を迸らせ、凍てつく虚空を一直線に落下して来たのである。
「・・・っ!?」
彼女の手にある水晶の杖が、閃光の如く発光した。
ザンっと鋭い音が響き渡り、凍りついた地面から、まるで氷の壁のような透明な結界が出現する。
その次の瞬間。
豪速で迫る大鴉と、彼女の張った結界との間に、大地を揺るがす轟音が轟き、それに驚愕した彼女の眼前に、煌々と燃え立つ紅蓮の爆炎が吹き上がったのである。
凍てつく虚空に灼熱の熱波が湧き上がり、深紅の火の粉を散らした巨大な火蜥蜴(ひとかげ)が、黒き怪鳥の巨大な体を、一瞬にしてその肢体に飲み込んでいく。
地獄の業火にも似た、凄まじい火炎に包まれた大鴉は、断末魔の悲鳴すら上げられぬまま、灼熱の炎に焼き尽くされ、白い灰となって虚空に消えていった。
それは、正に、瞬きも出来ぬほどの短い時間に巻き起こった出来事であった。
ざわりと、風の精霊が慄いた。
言い知れぬ威圧感と威厳を持つ何者かが、森を渡る風を怯えさせている。
一体、そこに何が起こったのか、全く把握できぬまま、彼女は、火蜥蜴が放たれた方向に、その銀色の両眼を向けたのである。
すると。
彼女の視線の先に立っていたのは、すらりとした長身に濃い藍のローブを纏った、見知らぬ青年であったのだ。
その手に構えられているのは、禍々しくも神々しい、実に奇抜な気配を持つ金色(こんじき)の大剣である。
その鋭利な切っ先こちらに向けたまま、異国人と思しきうら若き青年は、凛々しい唇だけで不敵に微笑した。
若獅子の鬣(たてがみ)にも似た、見事な栗色の髪。
均整の取れた精悍な鼻筋と、凛々しく端整なその顔立ち。
そして、揺れる前髪から覗く鋭い二つの両眼は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉(りょくぎょく)の瞳であった。
~ クスティリン族の魔法使いが、なんたる失態か・・・!
自分で自分を叱責しながら、虚空に片手を伸ばすと、白くしなやかな掌に、煌めく銀色の輝きが溢れ出し、その閃光只中から、一本の水晶の杖が現る。
彼女は、決して凡人ではない。
この公国が打ち立てられる遥か以前より、この氷雪の地に住む民族、クスティリン族の魔法使いであるのだ。
だが、太古より、クスティリン族の魔法使いは攻撃の呪文を持たない。
剣を取り戦うは男、女は杖をとる魔法使い、そんな習わしが、深く一族に根付いているからである。
綺麗な顔を苦々しく歪め、彼女は、虚空を旋回する大鴉を睨みつけたのだった。
同時に、不気味な旋風が周囲に巻き起こり、黒き怪鳥大鴉は、凄まじい殺気を迸らせ、凍てつく虚空を一直線に落下して来たのである。
「・・・っ!?」
彼女の手にある水晶の杖が、閃光の如く発光した。
ザンっと鋭い音が響き渡り、凍りついた地面から、まるで氷の壁のような透明な結界が出現する。
その次の瞬間。
豪速で迫る大鴉と、彼女の張った結界との間に、大地を揺るがす轟音が轟き、それに驚愕した彼女の眼前に、煌々と燃え立つ紅蓮の爆炎が吹き上がったのである。
凍てつく虚空に灼熱の熱波が湧き上がり、深紅の火の粉を散らした巨大な火蜥蜴(ひとかげ)が、黒き怪鳥の巨大な体を、一瞬にしてその肢体に飲み込んでいく。
地獄の業火にも似た、凄まじい火炎に包まれた大鴉は、断末魔の悲鳴すら上げられぬまま、灼熱の炎に焼き尽くされ、白い灰となって虚空に消えていった。
それは、正に、瞬きも出来ぬほどの短い時間に巻き起こった出来事であった。
ざわりと、風の精霊が慄いた。
言い知れぬ威圧感と威厳を持つ何者かが、森を渡る風を怯えさせている。
一体、そこに何が起こったのか、全く把握できぬまま、彼女は、火蜥蜴が放たれた方向に、その銀色の両眼を向けたのである。
すると。
彼女の視線の先に立っていたのは、すらりとした長身に濃い藍のローブを纏った、見知らぬ青年であったのだ。
その手に構えられているのは、禍々しくも神々しい、実に奇抜な気配を持つ金色(こんじき)の大剣である。
その鋭利な切っ先こちらに向けたまま、異国人と思しきうら若き青年は、凛々しい唇だけで不敵に微笑した。
若獅子の鬣(たてがみ)にも似た、見事な栗色の髪。
均整の取れた精悍な鼻筋と、凛々しく端整なその顔立ち。
そして、揺れる前髪から覗く鋭い二つの両眼は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉(りょくぎょく)の瞳であった。
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