しっかり者がダメ男に惹かれる法則(2)

坂田 零

文字の大きさ
上 下
38 / 43

ACT5 昔、なんじゃこりゃぁぁぁ?って叫んでたドラマあったよね4

しおりを挟む
          *
 サイゾースタジオを出た時は、すでに20時を回っていた。
 なんかもう、夢と現実の見境がなくなってきたというか、他人事のような自分事で、とりあえず放心状態。
 ロビーのソファに座って、タクシーを待ちながらほへっとしている俺に、マーボさんが可笑しそうに笑って声をかけてきた。

「あーら?その間抜け顔どうしたのかしら?気を抜くにはまだ早いわよw」

 俺はハッとして思わずマーボさんを振り返る。

「いやぁ・・・なんていうか、もちろんサイゾー氏のおkもらうのに頑張ってたんすけど・・・・
いざおkでたら、なんか色んな意味で夢見てるみたいになってw」

「まぁ、その気持ちはわからなくもないけど
あたしだって、デビューした頃は毎日が夢の中だったしねw
だ・け・ど。
シャキッとしないさいよ!
年末歌謡祭なんてそれこそ会場には何万人って人がいるし、テレビの向こうにも何十万人て人間がいるのよw
失敗なんかしたら、それこそSNSは大炎上ねww」

「わぁぁぁww
ちょっと脅すのやめてくださいよマーボさんwww
俺なんかただの素人上がりなんだからw」

「あーら?もうここまできたら、ただの素人とは言えなくなってるわよ?w
『SoulSound』を見て、地味にあいつ誰だ?って事務所に問い合わせもきてるって話だし
覚悟しとくのねw」

「まじかぁぁぁぁぁ・・・・」

 俺はいたたまれなくなって、頭を抱えて思わず床に座りこんだ。

 それを見ていたあおいが、可笑しそうに笑い出す。

「そうだよ、もうてっちゃんはMarinファミリーなんだから、堂々とミュージシャン顔していいんだよw」

「できるかよそう簡単にww」

 俺がそういうと、あおいは何か思い出したようにハッと肩を震わせて、まじまじと俺の顔を見たんだ。

「そういえばてっちゃん!見つけたよ!40万円のネックレス!」

「はい?」

 思わず聞き返して、俺はふと思い出した。

 以前、あおいの公式SNSに『40万のネックレスを送ったのにファンクラブ限定liveの抽選を外したな!許さん!!』的なメールやらコメントやらを書いてきた変な奴がいたんだよな。

 あおいはバックから自分のスマホを取り出して、写真のフォルダを開いて俺に見せた。
 そこに写っていたのは、カルティエのケースに入ったネックレス。

「これこれ!
でもこれね~・・・現品の値段もっと高いから、多分、リサイクルショップで買ったんだと思う」

「・・・・・ww」

 それを聞いて俺は苦笑した。
 いや、リサイクル品でも40万は高いのわかるよ、俺なんか中古だってそんなネックレス誰にも買ってやれないw
 だけどさ・・・・
 だけどさ・・・・w

「ちっせーな・・・・w」

 俺は思わずそう呟いた。

「でしょ!?」

「そいつ、まだ書き込みしてくんの?」

「してくるしてくる!
SNSは大沢さんとかスタッフが更新してるから、あたしほとんど無感知なんだけど・・・
なんか気持ち悪いよね~」

 あおいがスマホをバックにしまいながらそういうと、マーボさんがまた可笑しそうに笑いながら言うのだった。

「いつの時代もいるよのよね~そういう変なファンが・・・・!
あたしなんか、『結婚してくれるって言ったのに!裏切ったわね!ひどい!!』って書いた手紙と一緒に、カミソリの刃が入ってたことあったわよ?
べた過ぎて笑っちゃったわw」

「うわぁwwwきっついすねそれww」

「ファンていうのはありがたい存在だけど、逆に怖い存在でもあるからねぇ
まりんちゃんも注意しないさいよ、変なのは世の中に山ほどいるから」

 マーボさんの言葉に、あおいも苦笑しながらうなずいた。

「で、ですね・・・気を付けます」

「地下アイドルから昇りつめたまりんちゃんだし、古参のファンも残ってるんでしょうけど
ファンはあくまでファン、あたしたちは音楽を売るのが仕事、それ以外のプライベートを売る必要もないわ
何があってもその姿勢は崩したらいけないわよ」

「はい、わかってます!」

 マーボさんの深い言葉に、あおいはきちっと姿勢を正してそう答えた。
 あおいは、話してると普通の女の子。
 スイッチ入るとすげーアーティストオーラが出て近寄りがたくなるけど、それがあおいなりのメリハリなんだと、最近俺は思ってる。

 そういう切り替え上手いとこ、ほんとリスペクトするよな・・・と思っていたら、大沢さんがタクシーがきたと俺達を呼びにきたんだ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

処理中です...