しっかり者がダメ男に惹かれる法則(2)

坂田 零

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ACT3  ローマは一日にして成らず、そう言った先人まじすげー4

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         *
「テツ、最近おまえ、すげー人生頑張ってんじゃね?w」

 その日はバンドの練習があって、地元のスタジオにメンバー全員が集まってた。
 練習終わりには、既に21時を回っている。
 スタジオのロビーでミネラルウォーターを飲んでいた俺に、ギターのカズがそんな声をかけてきた。

「ほんとほんと、それにおまえ、なんか最近めちゃくちゃ歌が成長してないか?」

 そう言ったのはベースの島だった。
 ドラムの木野が、テーブルの角をスティックで叩きながら、それに同意するように言う。

「そうそう、なんか、よくわかんねーけど、妙に声が響いてる」

「・・・・・・・」

 そうか・・・・
 自分じゃ気づかなかったけど、練習の成果って、こんなに顕著に感じてもらえるもんなのか・・・
 今更なから、そんなことを思って、俺はタバコの代わりにミンティアを口に放りこむ。

「いやぁ・・・タナボタってるから、すげー練習させられてるからさ。
でもまぁ、まだ、正式なアーティスト契約ではないから、めちゃくちゃ金入る訳じゃないし
だからこうして、バンドも続けられてるんだけどさ
この先どうなるかは、全然まだわからないんだけどな」

「別にいいやん!あのMarinの事務所に、仮契約だとしても入れたんだしさ!
アルバムにも参加すんだろ?」

カズがニコニコ笑いならそう聞いてくる。

「いや、まぁ、そうなんだけどさw
俺なんか、全然、まだまだ素人の域脱してないし
気合いれてやらないと、全然上手くなんかなれねーよ」

 いたって普通にそう答えた俺。
 なのに、何故か、うちのバンドのメンバーがきょとんと、狐につままれたような顔をして俺の顔をまじまじと見つめてた。

「お、おまえら・・・な、なんだよ、その顔???」

 すると、なんか面白いものでも見るように、ベースの島が言った。

「俺、おまえがそんなに真剣に練習せなとか言ってるの、初めてみたわ!!
すげーな・・・おまえにやる気を出させた連中w
さすがプロ集団だよな・・・・!」

「なんだよそれww失礼なwww」

 とか反論しつつ、島の言ってることはだいたい当たってた。
 その時だった、今夜もまた、素晴らしく騒がしいあいつが、唐突にその場に姿を現したんだ。

「おつかれさまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そんな声と共に、スタジオの玄関ドアをけ破るような勢いで入ってきたのは・・・・
 他でもない・・・・
 きなこだったんだww

「おお!きなこちゃんおつかれ!!」

 ドラムの木野がそう声をかけると、きなこは、満面の笑顔でコンビニの袋をどーんとテーブルの上に置いた。

「差し入れ!!ドリンク!!」

 バンドのメンバーが異口同音で、「ありがとう!!」と叫んだのは言うまでもない。



            *
 きなこは、いつも決まって唐突に俺の前に姿を現す。
 先日、部屋の中にいたのにはびっくりしたけどw
 もうここ一年以上、きなこがそうやって俺の周りをうろうろしてるのは当たり前になってた。
 
 練習後メンバーはそれぞればらばらに解散。
 俺は駅に向かって歩きながら、隣を歩くきなこに、ちらっと視線を向けた。

「きなこ」

「なに?」

 きなこは、大きな目をくるっと丸くして俺の顔を見上げる。
 11月。
 やけに冷え込むようになった季節、突然吹いてきた冷たい風に、きなこは寒そうに首をすくめる。
 その仕草が動物みたいで、俺は思わず笑った。

「おまえってほんと小動物みたいだなw」

「えー?なにそれ?言いたいのはそれなのぉ?」

 きなこは、むっとしたように眉間を寄せる。
 そんなきなこの頭をぽんぽと叩いて、俺は言う。

「ちげーよw
あのさ、明後日、水族館やん?」

「あ!うんうん!!」

「昨夜、あおいのマネージャーから連絡きて
雑誌かなんかに、あおいのサポートメンバーのこと掲載するから、明日取材受けにきてくれって言われたんだよ」

「うんうん」

「で、取材夕方からだから何時にあがるかわからなくて、明日は東京泊になりそうなんだ」

「うんうん!」

「一応、明後日は昼前の電車で帰ってくる予定だから、駅で直接待ち合わせようぜ」

「わかった!!」

「東京出るときにLINEいれるよ」

「はーい!!にゅふふ・・・この会話、なんか、あれだね・・・
付き合ってるみたいだね!!!」

「ぶっw」

 きなこにそう言われて、俺は思わず吹き出した。

「なんだよそれww」

「だってなんかそうじゃん?にゅふふ」

 妙に嬉しそうなきなこ。
 この間から、こいつはほんとww
 訳わからんwww
 一緒に寝てて何もしてくれないと泣いてみたり・・・・w
 
 でもそういうきなこの存在は、いつの間にか俺にとって、そこにいて当然のような存在になってた。
 こいつに、ある日突然彼氏とかできたら、地味に俺、寂しくなるのかな~?とかぼんやり考えてみたり。 

 
 
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