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ACT3  ローマは一日にして成らず、そう言った先人まじすげー2

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 このおねぇなマーボさんが生きるレジェンドな訳で、超大物ミュージシャンなのに、この人はこの通りめちゃくちゃ気さくな訳だ。
 大御所であればあるほど腰が低いっていうけど、それってホントなんだと思う。
 つんけん気取ってるやつなんて、小物なんだろうな。

 俺は、そんなことに関心しつつ、思わずマーボさんに聞く。

「オーケストラストリングスって・・・打ち込みで作るんすか?
てか、俺、そんなオケで唄ったことないっすよ、基本がロックばっかんで」

「あーら!レコーディングのオケは生演奏で作るのよ!交響楽団手配するわ!」

「まじすか!?」

「まじよ~!それぐらいいい音でやらないと、アレンジをオーケストラストリングスにする意味がないわよ!」

「わー・・・やっべ・・・緊張してきた・・・」

 やばい、やっぱスケールが一般人とは違うんだわ・・・
 俺、めちゃくちゃ一般人なんだけど、ほんとまじで、こんなとこにいていいのかな?

「あら?あなたも緊張することがあるのね?」

「そりゃありますよww何いってんすかww」

 可笑しそうに笑うマーボさんにそう言った時だった。

「お待たせしましたマーボさん!」

 そんな明るい声と一緒に練習スタジオに、人気急上昇中アーティストMarinことあおいが飛び込んできたんだ。
 ペットボトルを片手に息を上げて駆け込んでくる。
 雑誌とテレビの取材が入ってて、俺がレッスンを受けてる間、ずっとインタビューに追われてたらしい。
 
「まりん、おかえり!すぐ歌える?」

「歌える!だって、取材はあたしの本職じゃないよ?
歌が、あたしの本職だから!」

 あおいがそう答えるのを聞いて、俺は何故かハッとした。

 人生を真剣に生きてる人間に、真剣に生きてない人間が適うはずもない。
 あおいは、歌を唄うことだけ目指して本気で人生を生きてきた。
 そして、今、堂々と、自分の本職は歌だと言った。
 容姿に恵まれたのは運がよかったんだろうが、歌で実力をつけてここまで昇りつめるには、きっと、とんでもなく努力もしてきたんだろうな。
 そんなあおいを、俺は素直にリスペクトした。

 さっき、マーボさんも、この業界は【努力を怠ればすぐに他に食いつぶされる世界】って言ってた。
 俺なんか、ほんとにタナボタでここにいるだけだ。

 だとしたら・・・
 俺も、真剣に努力してこのチャンスをモノにしないとな・・・
 多分・・・・
 失敗しても成功しても・・・
 ここで真剣に人生の時間を生きるか生きないかで、ほんとにクズゴミになるか、リサイクル可能なペットボトルになるかが決まるんだと思う・・・  
 なんとなく、握ったこぶしに力を入れてしまった。
 
 その時、マーボさんが言った。

「さて、じゃあ、まりんも到着したし、今日のメインイベント【Breathless】の音合わせしましょうか!
アレンジはミディアムのR&Bから、スローのピアノメインオーケストラストリングスに変更するわ」

 その言葉にあおいが驚いたように言う。

「え!マーボさん、それほんとですか?!」

「ほんとよ~変更後の歌詞の雰囲気も、R&Bよりきっとストリングのが似合うわ」

「わーーーーーーー!!嬉しい!!!メロディが大地って雰囲気したから、むしろそっちのほうがしっくりくる!
初めて歌うよオーケストラ!!」

「そういうと思ったわ」

 あおい、嬉しそうだな。
 傍らでそのやりとりを聞いてた俺が、ふと、あおいの顔をみる。
 するとあおいもこちらを見た。
 
「てっちゃん・・・大仕事だね!
完璧に歌って・・・サイゾーさんに『これはてっちゃんじゃないとダメだ』って言わせよう!」

「・・・・・・!」

 俺じゃないと、ダメな歌。
 俺とあおいにしか、歌えない歌。 
 ああ・・・
 そっか・・・
 あおいは、俺と一緒に歌いたいって言ってくれた。
 そんなあおいの気持ちにこたえるには、まずサイゾー氏に納得してもらえないと先に進めないのか・・・

 この時、俺自身、自分でどんな顔してたか知らないけど、自分でも意識しないまま、こんな言葉が口をついて出てしまう。

「一生に一度ぐらい・・・あいつの歌じゃないとダメだって、言われてみたいもんな
そうじゃないとあおいが、俺を選んでくれた意味がない・・・
あおいのためにも、本気で唄うわ・・・俺」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 そう言った俺の顔を、マーボさんとあおいが、まじまじと見つめてる。
 俺は、はっとして、そんな二人の顔を交互に見返した。
 マーボさんが、ふふっと意味深に笑って俺に言う。

「あーらやだ・・・すっごい、いい男の顔してそんなこと言うから、驚いちゃったわ?
まるで、告白してるみたい、うちのまりんに!」

「はっ?!えwwなんでですか?w」

「だってぇ・・・『あおいのためにも本気で唄う』って、そういう風に聞こえなくもないわよ?」

「え?wwwいやwwそれはちがwww」

 そう言った俺の腕に、ちょこんとあおいが自分の肩をぶつけて笑った。

「告白じゃなくても・・・
なんか・・・めっーーーーーーーーーーーちゃ!嬉しかったぞ!」

「え???なんだよそれwwww」

 そう言われてなんとなく気恥ずかしくなる。
 マーボさんが言った。

「さ!そうと決まれば!音合わせいくわよ、歌詞カードはそこ
覚えてるなら何もみなくていいわ、いきましょうか」

 こうして、前代未聞のトップアーティストと無名の素人シンガーである俺との、奇跡のコラボの準備がちゃくちゃくと進んでいったんだ。
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