しっかり者がダメ男に惹かれる法則(2)

坂田 零

文字の大きさ
上 下
14 / 43

ACT2 石の上にも三年とか言うけど、石の上なんて痛くて三年も座ってられるか!6

しおりを挟む
「こんな所に穴がある」

 そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。

「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」

 僕は不満げに唇を突き出した。
 ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。 
 どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
 ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
 採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
 昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
 村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
 夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
 
「寒い…」

 指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
 僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。

「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」

 ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
 僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
 僕は振り向きラズールに走り寄る。
 ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。

「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」

 カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
 早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。

「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」

 僕はラズールの前に出て先に歩く。
 しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。

 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ダメな君のそばには私

蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない! 友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!? 職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...