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ACT1 聞いてますかぁ?ちゃんと聞いてますかぁ?ひとの話はちゃんと聞きましょう!1

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 人生なんて早々簡単にうまくいくはずなんてない。
 ましてや、金もなければ名誉も地位も、権力もない俺なんてほんと社会のゴミクズだと思う。

 夕方。
 
 ラッシュの人混みの中を、俺は、駅前からバイト先のバーに向かって歩いていた。
 ここは地方都市だから、車あったほうが便利なんだけど、そもそもバーテンのバイトだけで食いつないでる俺が、車なんか維持できるはずもない!

 ま、免許は持ってるけどさ。

 11月、なんとくクリスマスシーズンに向かってあっちこっちが華やいでるが、金のない俺にはそんなこと関係ない。

 明日は土曜日で、バンドのライブも控えてる。
 今日は酒をつまみ飲みすんのやめよ・・・・

 トップアーティストMarinのバックボーカルオーディションを受けたのは、かれこれ一か月前だ。
 寝耳に水で突如受けることになり、なんの準備もしないで受けた訳だが、課題曲が得意なやつだったからなんとかなっただけ。
 まぁ、その結果はまだ来てないし、どうせダメだと期待なんかしてない。

 謎のキス事件からも一か月が経ったけど、やっぱりきなこは相変わらずで、何か変わった訳でもなく、そもそもあいつは頭がおかしいんで、きっと事故だったんだと思ってる。

 童貞じゃあるまいし、たかがキスぐらいでガタガタ言うほど、俺もガキじゃない。
 ただ・・・
 謎すぎる謎が残っただけww


 「おはようございまーす」

 店のドアを開けて、開店準備をしてる店長に声をかける。
 酒を整理してたマスターが、カウンターから顔をあげて「おおう」と答えた。

 水商売はこのご時世、なかなか厳しいとこがある。
 だからこの店のバイトは俺一人。
 忙しいときはマスターの嫁さんが手伝いにくる。
 客だって入る時と入らない時の差が激しいし、マスターも大変なんじゃねーかなとか地味に思ってたりもする。
 だけど、何故かここ二週間ぐらいは妙に客が多かった。
 まだボーナス先だしなんでかな?とか地味に考えてたりもしてけど、まぁ、俺には関係ないよな。

 ソムリエエプロンとベストを着こんでカウンターに入る。
 開店準備は何かと忙しい。
 
「あ、哲!今日、一件パーティ入ってるから、個室よろしく!」

「おっけーす、なんか最近パーティー多いっすね~」

「あぁ、それな!原因がわかったよ!」

「え?」

 きょとんとした俺の前に、マスターが得意げにスマホ画面を突き出した。
 そのに映っていたのは、見たことのある綺麗な女の子のインスタグラム画像。


『地元うぇーい\(^o^)/!!』
 
 という言葉とともに、カクテルグラスを持ってカウンター前で自撮りしたその写真。

 新生女性シンガー『Marin』のインスタグラムだった。

「おおおおっ?!」

 俺は思わず声を上げた。
 実際にこの写真を撮ったのは一か月ぐらい前だが、掲載日時は二週間前。
 人気者すぎて、ストーカーされたりすんだろうし、わざと時差をつけてんのかも。

 Marinの地元のバーってだけしか書いてないのに、内装でうちの店って知ってる連中が、地味にパーティーの予約入れてたらしいwww
 
「有名人のSNSってすげーっすね・・・・ここまでの影響力」

 俺がしみじみそう言うと、マスターが真面目な顔して言った。

「ネットとか全然わからんから放置してたけど、うちの店もSNSやるかぁ~」

「ああ、ナイスアイディアっすw」

「アカウント作るべ!」

「更新ぐらい俺もできますわww」

「少し売り上げあげて、いい加減哲を社員にしてやらんとな!」

「うっそまじっすか?w」

「まじまじwお前だってもう3年じゃん、うちで仕事し始めて、だいたいなんでもできんじゃん
25にもなってバイトってヤバいだろうしさw」

「確かにやばいっすね・・・・」

 マスターの言葉に苦笑した俺。
 
 その時、不意に俺のLINEが鳴った。
 画面を見ると


送信者あおい
『今からいくよ~~~~!\(^o^)/』


「っ!?」

 あおい。
 
 まさか、このLINEを送ってきた『あおい』が、新生女性シンガーMarinだなんて、きっと誰もしらないだろうな・・・ 

 俺はなんとなく、にやけてしまった。

 
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