新宿情火~FlambergeⅡ~Ⅱ

坂田 零

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<ACT3 女神の気まぐれ>5

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 透は、美麗さんから視線をそらしながら、胸が痛くなるほど切ない表情をして、ふと、星の無い夜空を見上げる。

「この更地が、僕と両親の家と会社があった場所・・・・今日は、二人の命日なんだ
無伴奏バイオリンのためのパルティータ、母さんが好きだった曲」

 その言葉を聞いた美麗さんが、はっとして透の綺麗な顔を見つめた。

 透がそんな美麗さんの方へと視線を戻す。

 美麗さんは、何も言わずに、そんな透の視線を真っすぐに受け止めていた。

 もしかすると、美麗さんと透の間には、この時から何かお互いに感じるものがあったのかもしれない。

 星の無い空の下、ビルの谷間を抜ける強い風。

 ビルの向こう側では、またパトカーのサイレンが鳴っていた。

 美麗さんは切なそうに微笑すると、手に持っていた財布を再び開いて、何を思ったか、その中に入っていた万札を全部取り出して、透の手に握らせた。

 総額で25万円ほどになるだろうか・・・

 「これで、ご両親にお花でも買ってあげて・・・私が今、してあげられるのはこんなことだけだから」

 美麗さんがそう言うと、何故か透はますます怖い顔つきになって、その札束を美麗さんの手に握らせ返したのだった。

 「金なんていらない!
こんな紙切れのために、父さんも母さんも死んだんだ!
どいつもこいつも金、金、金!
だけど!どんなに金を積んでも、もう二度と父さんも母さんも帰ってこない・・・・!
だから、こんなものいらない!!」

 筋金入りだな・・・と、俺は透の行動を見て思った。

 この時代、金が全てだ。

 金と権力があるものが勝つ。

 でも、それに負けない人間も少なからずいる・・・

 もしかすると、このクソガキ・・・

 とんでもなく肝が座ったガキなのかもしれない・・・

 俺がそう評価を下した時、美麗さんは、驚いたように目を丸くしていた。

 金が全ての世界で生きてる美麗さんは、この時、金で喜ぶことのない人間がいることを忘れていたのかもしれない。

 女神のような美しい顔が、ふと、可笑しそうに微笑(わら)った。

「ごめんなさい。
そうよね・・・そうかもしれない
透くんのように、真っすぐで、純粋で、深い傷を持ってる人には・・・
こんなもの、なんの慰めにもならないわよね」

 美麗さんはそう言って、手に握った札束を思い切り空中に放り投げた。

 ビル風に渦を巻いて舞い上がる一万円札の群れ。

 これを拾った人間は、喜んでねこばばするんだろう。

 だけど透は、舞い上がる札の群れを、ただ、黙って怖い表情で見上げるだけだった。

 透は、宙を舞う札の群れを見上げたまま、どこか押し殺したような声で美麗さんに言う。
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