新宿情火~FlambergeⅡ~Ⅱ

坂田 零

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<ACT2 女神の戯れ>4

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   多分、この人は俺よりも年上だ。

 それはなんとなくわかる。

 去年の11月にゴミ置き場に捨てた男がいた。

 あの後、結局あいつは横領で警察に捕まることになったんだが、新聞で見た年齢は俺より5才年上。

 詳しいことは何も聞いていないが、あいつが過去に美麗さんを殺そうとしたことは知ってる。

 本当に、あんな野郎に美麗さんが殺されなくてよかったと、真面目にそう思ってる。

 美麗さんは、そんな俺の気持ちなど知らないまま、ふと、ビルの谷間の夜空に視線を向けてぽつりと言う。

 「此処は新宿、お金が全て、権力が全て、強い人間だけが勝ち残れる世界。
ここで生き残っていくには、本当は、感情なんて全部捨てた方が楽なのかもしれない…
捨てられたら、きっと楽になれるんだと思う…」

 「そうかもしれません、だけど…」

 「だけど…なに?」

 「俺はずっと、そのままの美麗さんでいて欲しいと思ってます…
あの時、美麗さんが助けてくれなかったら、俺はここにはいなかった
本当に、野良犬のままのたれ死ぬだけだった
美麗さんに感情があって、俺を助けたいと思ってくれたから、今の俺がいるんです
ずっとあの店のNO1で居続けることはすげー大変だとは思いますけど
美麗さんから、感情を取ってしまったら…
そんなの…
美麗さんの形をした、人形でしかなくなっちゃいますよ…!」

 思わず力説して、俺ははっと口を押える。

 「すいません!出過ぎた言葉を」

 「ううん…いいの
コージくんの言う通り…
そうよね‥‥
私から感情を取ってしまったら、ただの人形‥‥
綺麗なだけのお飾り人形…その通りよね
私さ…」

 「はい」

 「私の感情…残したままで、いい?」

 「もちろん、それが美麗さんです」

 「そっか…ありがとう」

 ネオンが煌めく宵闇の中で、女神は艶やかにそして少女のように微笑んでいた。

 その時だった、俺と、そして、美麗さんの耳に、ビルの谷間を吹く風の音に交じりどこからともなく、バイオリンの音が聞こえてきたんだ。
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