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第四節 嵐の予兆は西方より出(いず)る4
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セイレンはそんな彼に向かって愉快そうに言う。
「我らを何者と思っているのだおぬし?我らはアストラだぞ?この国の平和ボケした兵士とは訳が違う」
彼女は、実に誇らしそうに小さく微笑みながら、彼を閉じ込めている牢の鍵を素早く開けた。
スターレットの輝くような蒼銀の髪を揺れる。
広い肩に羽織った蒼きローブを翻すと、開かれた鉄格子から、飛び出すように走り出て、彼は、何を思ったか、セイレンの腕を掴み薄暗い石造りの通路を俊足で駆け出したのである。
「来るがいい、此処を開けたからには、そなたとてただでは済まぬ!」
「どういう事だ!?」
セイレンは、怪訝そうな顔つきをしながらも、彼に引かれるようにして通路を駆け出した。
石造りの長く薄暗い通路に、二つのけたたましい足音が共鳴するようにこだましていく。
この長い通路を抜ければ、封魔の領域が辛うじて終わる。
そうなれば、また魔力が使えるようになるはずだ。
「此処はロータスの牢獄、父の銘を受けた者以外が開けると、怒りの精霊に八つ裂きされる」
「なんだそれは?」
長い通路を俊足で駆け抜けて一気に牢獄の出口に踊り出ると、スターレットは、片手でセイレンの腕を掴んだまま、空いている手を眼前に翳したのだった。
カッと周囲に蒼き閃光が迸り、光を纏う旋風がどこからとも無く吹きすさぶと、輝くような彼の蒼銀の髪が乱舞して、そこから覗く銀水色の美しい瞳が、一瞬にして、神々しくも禍々しい輝きを宿す深紅の色へと変貌したのである。
『ラムド!』
どおぉんと言う凄まじい轟音が石壁に反響し、その掌から湧き上がった空気の渦が、疾風の舞う虚空を揺らし眼前の重い鉄の扉を四散させる。
そこから一気に、夜明けの澄み渡る空気と暁の眩い光がなだれ込み、雅なロータスの大魔法使いの顔と、そして、ラレンシェイの部下たるセイレンの綺麗な顔を照らし出した。
セイレンが、その眩さに一瞬、青い瞳を細め、スターレットに腕を引かれたまま、まだ夜の明けきれぬ外へと飛び出した時、にわかに、広大な屋敷を囲む森の木々がざわめき、朝露に湿った地面が脈打つように振動すると、まるで、泥人形のような巨大な腕が地の中から伸び上がってきたのである。
「こいつは!?」
歴戦のアストラ剣士セイレンも、ゆらりとその眼前に立ちはだかった、全身が土色をした顔の無い巨大な人型を目にして、思わず驚愕の叫びを上げた。
そんな彼女を背中にかばうようにして、まるで、水を得た魚のように爛々とその深紅の瞳を輝かせると、スターレットは、その身に纏う旋風の中で鋭い表情をして叫んだのだった。
「押し通る!鎮まれ怒りの精霊!!」
輝くような蒼銀の髪が疾風に乱舞し、羽織られた蒼いローブの裾が千切れんばかりに暁の虚空に棚引いた。
地の底から響いてくるような低い唸り声が澄み渡る朝の空気を振動させて、巨大な土色の腕が、その巨体に似合わぬ迅速さで迫り来る。
とたん、スターレットの知的で薄い唇が、呪文と呼ばれる古の人にあらざる言語を紡ぎ出した。
『フェイ・アーガン・テスラ(嘆きの烈風 今 来たれ)!!』
彼の周囲を取り囲むような吹きすさぶ蒼き疾風が、激しい破裂音を立て、湾曲した風の道筋を作り上げる。
同時に、何処からとも無く悲痛のすすり泣きが辺りにこだまし、伸び上がる蒼き閃光が、虚空を捻じ曲げる音と共に豪速で土色の人型にまかり飛んだ。
もう、すぐ眼前にあった巨大な腕が、悲痛の号泣を伴う湾曲した風の道に触れた瞬間、そこから伸びた無数の嘆きの手によってみしみしと音を立てて引き千切られた。
もろく崩れた土の腕は、その形を失い轟音と共に地面の中へと沈んでいく。
悲痛の号泣と共に虚空で反転する烈風が、今度は、その人型を背中から容赦なく突き貫き、再び反転した切っ先から揺れるように無数の手が伸びると、嘆きの精霊を取り込んだ烈風は、鋭く甲高い音を上げながら暁の虚空を振動させた。
無数に伸びる嘆きの手が、人型にすがりつくようにしてみるみるその巨大な土の体を削ぎ落としていく。
巨体を薙ぎ払う刃のような烈風。
そこから伸びる無数の嘆きの手。
その土色の体は、引き吹きすさぶ風の音と悲痛の号泣に覆い尽くされ、四肢を千々に千切られ、砂塵の如く砕かれて、もろくもその形を崩していく。
次の瞬間、ごおおおっという低い叫びを上げた怒りの精霊を宿す巨大な人型が、轟音と土埃を舞い上げて地面の上に倒れ伏していった。
足元が脈打つように揺れ、次の瞬間、まるで氷が溶け出すかのようにその巨体がどろどろとした泥水に成り果て、地面の中へと音もなく沈み込むように消えていったのある。
それは正に、一瞬の出来事であった。
あまり魔法に携わることのないアストラ剣士セイレンが、なにやら、少々驚いた顔つきをして、傍らで、未だに煌々と深紅の瞳を輝かせているロータスの大魔法使いの鋭い横顔を見たのである。
「土の化け物だったのか?こいつは?」
「土の化け物か・・・・確かにそうかもしれぬ」
ゆっくりとセイレンを振り返る、スターレットの雅で秀麗なその顔が、何故か、少年のような表情をしてくったくなく微笑んだ。
そんな彼の笑顔をまじまじと見やりながら、セイレンは思わず「なるほど・・・」と胸中で感心したのである。
何故、彼女の上官たる者が、この青年に拘ったのか・・・・
もちろん、歴戦の勇士が久方ぶりに負けを帰した、と言うのあるのだろうが・・・
このロータスの大魔法使いは、彼女の上官たる者の『好みの的』を見事に射抜いている。
あれで存外、優男が好きだからな・・・・と、セイレンは、前で腕を組みながら唸ってしまった。
密かにそんなことを思う彼女の視界の中で、輝くような蒼銀の髪が、蒼き疾風に跳ね上がる。
その下で、禍々しく神々しい深紅の瞳を細めると、スターレットは、落ち着き払った口調で言葉を続けたのだった。
「他にも仲間がいるのか?そなたはこれから何処に向かう?」
「レイ・ポルドンだ、本国からの船が着く、我が同胞は皆、もうかの地にいる」
鋭い声色でそう答えて言うと、セイレンは、うっとうしそうにドレスの裾を引き裂いて、疾風に激しく揺れる金色の長い髪をかきあげながら、スターレットの雅な顔を顧みたのである。
「それまでに、猶予はどれほどある?」
実に神妙な声色で、スターレットは再びセイレンに問った。
難しい顔つきをしながら、セイレンは言う。
「それは答えられぬ、いくら隊長の行方を知る者とはいえ、おぬしは敵国の人間だからな」
「・・・・リタ・メタリカから出る船が本国に着くまでにラレンシェイが戻れば、あのの誇りは保てるか?」
「おそらくは・・・・」
「そうか・・・・ならばそなたは、先にレイ・ポルドンに行くがいい」
真っ直ぐに暁の空を見つめすえながら、鋭い表情でそう言うと、スターレットは、何を思ったか、不意にセイレンの腕を掴むと、その体を自分の元へと引き寄せたのだった。
「何をする!」
蒼いローブを纏う彼の腕の中で、驚いたような顔つきをしながらも、鋭い視線でセイレンが彼の雅な顔を見る。
「仲間の元へ送ろう、ロータスの追っ手がかかれば、そなたの身が危うい故」
とたん、甲高い音を上げながら、スターレットが纏う疾風が荒らぶる旋風へと打ち変わった。
蒼いローブが千切れんばかりに棚引き、激しく乱舞する蒼銀の髪の下でスターレットはセイレンに向かって小さく微笑して見せる。
「慣れぬと、船酔いした気分になるが・・・・アストラたるそなたなら耐えられるな?」
「何をするつもりだ!?」
厳しい顔つきをするセイレンが、金色の髪を旋風に乱舞させたまま、不審そうに鋭く叫んだ。
次の瞬間、彼女の体が、不意に宙に投げ出されたような奇妙な感覚に捕らわれたのである。
「う、うわぁぁっ!」
柄にもなくそんな叫びを上げるセイレンの眼前に、破裂するように青い閃光が弾け、その視界から一瞬にして地面が遠ざかっていく。
「何なんだこれは!!?」
「空間を飛び越える、しっかり掴まっていろ」
スターレットの言葉と同時に、目も眩むばかりの青い光がその視界を覆い尽くし、吹きすさぶ旋風と共に二人の姿は、空を渡る風に溶けるかのようにかき消されていった。
父上・・・・再び戻りし時には、このスターレット、どんな罰でも受けましょう・・・しかし、今は・・・・今だけは、行かせて頂きます・・・・
広大な地平線より出る太陽の光を歪めるように虚空を駆け抜けた疾風が、夜の明けかけた紫色の空で忽然と消えた。
その様子を、自室の窓から鋭い眼光で眺めやっていた、スターレットの実父、ロータス公爵アレクサスは、何ゆえか、その唇を実に愉快そうに曲げたのである。
「馬鹿め・・・・相変わらず情が先に走る奴だスターレット・・・・の力を持ちながら、そなたは、その器ではないわ・・・・」
不肖の息子。
昔からアレスクサスは、スターレットのことを本気でそう呼んでいた。
冷静を装いながらも、そのくせ、一度感情が爆発するとそれが赴くままに奔走するあの気性は、本来なら、には決してあってはならないものである。
膨大な魔力を有するものが暴走でもすれば、それこそ取り返しのつかないことになるからだ・・・。
しかし、そんな気性を持ちながらも、スターレットは、何故か、父に、そして一族に歯向かうことだけはしなかった。
不思議なもので、余りにも従順で生真面目な彼を、頼りなく思っていたのも事実。
アレクサスは自嘲する。
彼をわざわざ見逃したのは、この父に歯向かう姿を一度は見てみたいと、愚かしい事を考えたからかもしれぬと・・・
暁の空にと輝くの太陽が昇る。
シァル・ユリジアン大陸最大の大国リタ・メタリカを取り囲む不穏は、まだ、続く様相を呈していた・・・・。
「我らを何者と思っているのだおぬし?我らはアストラだぞ?この国の平和ボケした兵士とは訳が違う」
彼女は、実に誇らしそうに小さく微笑みながら、彼を閉じ込めている牢の鍵を素早く開けた。
スターレットの輝くような蒼銀の髪を揺れる。
広い肩に羽織った蒼きローブを翻すと、開かれた鉄格子から、飛び出すように走り出て、彼は、何を思ったか、セイレンの腕を掴み薄暗い石造りの通路を俊足で駆け出したのである。
「来るがいい、此処を開けたからには、そなたとてただでは済まぬ!」
「どういう事だ!?」
セイレンは、怪訝そうな顔つきをしながらも、彼に引かれるようにして通路を駆け出した。
石造りの長く薄暗い通路に、二つのけたたましい足音が共鳴するようにこだましていく。
この長い通路を抜ければ、封魔の領域が辛うじて終わる。
そうなれば、また魔力が使えるようになるはずだ。
「此処はロータスの牢獄、父の銘を受けた者以外が開けると、怒りの精霊に八つ裂きされる」
「なんだそれは?」
長い通路を俊足で駆け抜けて一気に牢獄の出口に踊り出ると、スターレットは、片手でセイレンの腕を掴んだまま、空いている手を眼前に翳したのだった。
カッと周囲に蒼き閃光が迸り、光を纏う旋風がどこからとも無く吹きすさぶと、輝くような彼の蒼銀の髪が乱舞して、そこから覗く銀水色の美しい瞳が、一瞬にして、神々しくも禍々しい輝きを宿す深紅の色へと変貌したのである。
『ラムド!』
どおぉんと言う凄まじい轟音が石壁に反響し、その掌から湧き上がった空気の渦が、疾風の舞う虚空を揺らし眼前の重い鉄の扉を四散させる。
そこから一気に、夜明けの澄み渡る空気と暁の眩い光がなだれ込み、雅なロータスの大魔法使いの顔と、そして、ラレンシェイの部下たるセイレンの綺麗な顔を照らし出した。
セイレンが、その眩さに一瞬、青い瞳を細め、スターレットに腕を引かれたまま、まだ夜の明けきれぬ外へと飛び出した時、にわかに、広大な屋敷を囲む森の木々がざわめき、朝露に湿った地面が脈打つように振動すると、まるで、泥人形のような巨大な腕が地の中から伸び上がってきたのである。
「こいつは!?」
歴戦のアストラ剣士セイレンも、ゆらりとその眼前に立ちはだかった、全身が土色をした顔の無い巨大な人型を目にして、思わず驚愕の叫びを上げた。
そんな彼女を背中にかばうようにして、まるで、水を得た魚のように爛々とその深紅の瞳を輝かせると、スターレットは、その身に纏う旋風の中で鋭い表情をして叫んだのだった。
「押し通る!鎮まれ怒りの精霊!!」
輝くような蒼銀の髪が疾風に乱舞し、羽織られた蒼いローブの裾が千切れんばかりに暁の虚空に棚引いた。
地の底から響いてくるような低い唸り声が澄み渡る朝の空気を振動させて、巨大な土色の腕が、その巨体に似合わぬ迅速さで迫り来る。
とたん、スターレットの知的で薄い唇が、呪文と呼ばれる古の人にあらざる言語を紡ぎ出した。
『フェイ・アーガン・テスラ(嘆きの烈風 今 来たれ)!!』
彼の周囲を取り囲むような吹きすさぶ蒼き疾風が、激しい破裂音を立て、湾曲した風の道筋を作り上げる。
同時に、何処からとも無く悲痛のすすり泣きが辺りにこだまし、伸び上がる蒼き閃光が、虚空を捻じ曲げる音と共に豪速で土色の人型にまかり飛んだ。
もう、すぐ眼前にあった巨大な腕が、悲痛の号泣を伴う湾曲した風の道に触れた瞬間、そこから伸びた無数の嘆きの手によってみしみしと音を立てて引き千切られた。
もろく崩れた土の腕は、その形を失い轟音と共に地面の中へと沈んでいく。
悲痛の号泣と共に虚空で反転する烈風が、今度は、その人型を背中から容赦なく突き貫き、再び反転した切っ先から揺れるように無数の手が伸びると、嘆きの精霊を取り込んだ烈風は、鋭く甲高い音を上げながら暁の虚空を振動させた。
無数に伸びる嘆きの手が、人型にすがりつくようにしてみるみるその巨大な土の体を削ぎ落としていく。
巨体を薙ぎ払う刃のような烈風。
そこから伸びる無数の嘆きの手。
その土色の体は、引き吹きすさぶ風の音と悲痛の号泣に覆い尽くされ、四肢を千々に千切られ、砂塵の如く砕かれて、もろくもその形を崩していく。
次の瞬間、ごおおおっという低い叫びを上げた怒りの精霊を宿す巨大な人型が、轟音と土埃を舞い上げて地面の上に倒れ伏していった。
足元が脈打つように揺れ、次の瞬間、まるで氷が溶け出すかのようにその巨体がどろどろとした泥水に成り果て、地面の中へと音もなく沈み込むように消えていったのある。
それは正に、一瞬の出来事であった。
あまり魔法に携わることのないアストラ剣士セイレンが、なにやら、少々驚いた顔つきをして、傍らで、未だに煌々と深紅の瞳を輝かせているロータスの大魔法使いの鋭い横顔を見たのである。
「土の化け物だったのか?こいつは?」
「土の化け物か・・・・確かにそうかもしれぬ」
ゆっくりとセイレンを振り返る、スターレットの雅で秀麗なその顔が、何故か、少年のような表情をしてくったくなく微笑んだ。
そんな彼の笑顔をまじまじと見やりながら、セイレンは思わず「なるほど・・・」と胸中で感心したのである。
何故、彼女の上官たる者が、この青年に拘ったのか・・・・
もちろん、歴戦の勇士が久方ぶりに負けを帰した、と言うのあるのだろうが・・・
このロータスの大魔法使いは、彼女の上官たる者の『好みの的』を見事に射抜いている。
あれで存外、優男が好きだからな・・・・と、セイレンは、前で腕を組みながら唸ってしまった。
密かにそんなことを思う彼女の視界の中で、輝くような蒼銀の髪が、蒼き疾風に跳ね上がる。
その下で、禍々しく神々しい深紅の瞳を細めると、スターレットは、落ち着き払った口調で言葉を続けたのだった。
「他にも仲間がいるのか?そなたはこれから何処に向かう?」
「レイ・ポルドンだ、本国からの船が着く、我が同胞は皆、もうかの地にいる」
鋭い声色でそう答えて言うと、セイレンは、うっとうしそうにドレスの裾を引き裂いて、疾風に激しく揺れる金色の長い髪をかきあげながら、スターレットの雅な顔を顧みたのである。
「それまでに、猶予はどれほどある?」
実に神妙な声色で、スターレットは再びセイレンに問った。
難しい顔つきをしながら、セイレンは言う。
「それは答えられぬ、いくら隊長の行方を知る者とはいえ、おぬしは敵国の人間だからな」
「・・・・リタ・メタリカから出る船が本国に着くまでにラレンシェイが戻れば、あのの誇りは保てるか?」
「おそらくは・・・・」
「そうか・・・・ならばそなたは、先にレイ・ポルドンに行くがいい」
真っ直ぐに暁の空を見つめすえながら、鋭い表情でそう言うと、スターレットは、何を思ったか、不意にセイレンの腕を掴むと、その体を自分の元へと引き寄せたのだった。
「何をする!」
蒼いローブを纏う彼の腕の中で、驚いたような顔つきをしながらも、鋭い視線でセイレンが彼の雅な顔を見る。
「仲間の元へ送ろう、ロータスの追っ手がかかれば、そなたの身が危うい故」
とたん、甲高い音を上げながら、スターレットが纏う疾風が荒らぶる旋風へと打ち変わった。
蒼いローブが千切れんばかりに棚引き、激しく乱舞する蒼銀の髪の下でスターレットはセイレンに向かって小さく微笑して見せる。
「慣れぬと、船酔いした気分になるが・・・・アストラたるそなたなら耐えられるな?」
「何をするつもりだ!?」
厳しい顔つきをするセイレンが、金色の髪を旋風に乱舞させたまま、不審そうに鋭く叫んだ。
次の瞬間、彼女の体が、不意に宙に投げ出されたような奇妙な感覚に捕らわれたのである。
「う、うわぁぁっ!」
柄にもなくそんな叫びを上げるセイレンの眼前に、破裂するように青い閃光が弾け、その視界から一瞬にして地面が遠ざかっていく。
「何なんだこれは!!?」
「空間を飛び越える、しっかり掴まっていろ」
スターレットの言葉と同時に、目も眩むばかりの青い光がその視界を覆い尽くし、吹きすさぶ旋風と共に二人の姿は、空を渡る風に溶けるかのようにかき消されていった。
父上・・・・再び戻りし時には、このスターレット、どんな罰でも受けましょう・・・しかし、今は・・・・今だけは、行かせて頂きます・・・・
広大な地平線より出る太陽の光を歪めるように虚空を駆け抜けた疾風が、夜の明けかけた紫色の空で忽然と消えた。
その様子を、自室の窓から鋭い眼光で眺めやっていた、スターレットの実父、ロータス公爵アレクサスは、何ゆえか、その唇を実に愉快そうに曲げたのである。
「馬鹿め・・・・相変わらず情が先に走る奴だスターレット・・・・の力を持ちながら、そなたは、その器ではないわ・・・・」
不肖の息子。
昔からアレスクサスは、スターレットのことを本気でそう呼んでいた。
冷静を装いながらも、そのくせ、一度感情が爆発するとそれが赴くままに奔走するあの気性は、本来なら、には決してあってはならないものである。
膨大な魔力を有するものが暴走でもすれば、それこそ取り返しのつかないことになるからだ・・・。
しかし、そんな気性を持ちながらも、スターレットは、何故か、父に、そして一族に歯向かうことだけはしなかった。
不思議なもので、余りにも従順で生真面目な彼を、頼りなく思っていたのも事実。
アレクサスは自嘲する。
彼をわざわざ見逃したのは、この父に歯向かう姿を一度は見てみたいと、愚かしい事を考えたからかもしれぬと・・・
暁の空にと輝くの太陽が昇る。
シァル・ユリジアン大陸最大の大国リタ・メタリカを取り囲む不穏は、まだ、続く様相を呈していた・・・・。
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