君は僕の心を殺す〜SilkBlue〜

坂田 零

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【15、空虚】

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 朝、自分のアパートで目が覚めると、枕元にはバーボンの空き瓶が転がっていた。   
 脱ぎ散らかした服。
 一杯になった灰皿。
 
 禁煙してたのにやらかした…

 アルコールで淀んだ頭で、ぼんやりとそう考えると、ダッシュボードの上に無造作に置いてあったタバコを掴む。
 残り少なくなったタバコを一本口にくわえ、ライターを取って火をつける。

 煙を深く吸い込んで吐き出した時、俺はもう1つ、やらかしてしまった失敗に気がついた。

 「………やっべ、やらかした…」

 俺は、ため息と一緒に煙を吐き出して、思わずそんなことを呟いた。
  
 隣に暖かなぬくもりがある。
 満足そうに眠る、その寝息。
 波を描くような茶色い髪が、俺の腕に絡みついていた。

  ミキだ。

 これは、当時の俺の悪い癖だった。

 感情に行き場がなくなると、物理的に暴れる前に気絶を選ぶ。
 気絶するためにはアルコールは必要不可欠で、無駄に酒が強かったから、一気に強い酒を飲むしかない。
 強い酒を飲む時に、誰か異性がそばにいて、その相手が嫌いな人間じゃなければ、つい、手を出して後から面倒くさい事になる。
  
 二日酔いとかではなく、なんだか頭が痛くなってきた…
  本気でろくでもない奴だなと、我ながら思う。

 煙草の煙と一緒に、ため息を吐き出して、放り投げてあったスマホを手に取る。
 
 LINEが入ってた。

『次の休みはいつ?』と一言だけ、里佳子さんからだった。

 何故、次の休みの予定を聞きたかったのか、その理由は書いてない。
 ほんとに、その一言だけ。
 一体何が聞きたいのかと…どこか腹立たしい思いがよぎる。
 だから俺は、それを無視した。
 昨夜、彼女は並木店長と過ごしたはずだ。
 10年の付き合いでセックスレスとも言ってたが、久々に会った恋人同士、ほんとに何もないままなのかと疑問にも思う。
 俺は所謂浮気相手で、そんなことにとやかく口出しできる立場じゃないが、やはり面白くない。

 そもそも、バーボン一本分のアルコールで淀んだ頭じゃ、何もまともに考えられないだろう。

 短くなったタバコを灰皿でもみ消して、俺はもう一度、ため息を付いた。

       *
 案の定、これ以来、ミキはやたらと俺に馴れ馴れしくなった。
 申し訳ないが、うざい。
 でも自分で撒いた種だし仕方ない。
 バイトはいつも通り普通にこなしていた。
  わざとだったのか仕事が忙しかったのか、里佳子さんは店に姿を現さなかった。
  俺がLINEをスルーして以降、彼女からメッセージがくることはなかった。
 それから、一週間ほどの経った頃、思い出したように、里佳子さんは、店に現れた。

 その日、いつもの窓際の席に座りながら、彼女はアンニュイと言うより、何か思い詰めた表情をしていた。

 その時間帯、珍しく客が多くて、俺は彼女の所へは行けなかった。

 接客に行ったのはミキで、なんとなく嫌な予感はしていた。
 
 遠巻きにチラ見した時、ミキはなんだかはしゃいだ様子で、里佳子さんに何かを話していた。

 最初は笑っていた里佳子さんの表情が、不意に曇ったのが、遠巻きからでもわかった。
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