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【14、嫉妬】
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「ねぇねぇ、 いっくんてさ、里佳子さんと、もしかして付き合ってる?」
それは、秋も終わりに差し掛かった頃だった。
バイトに行った俺に、突然、ミキがそんなことを聞いてきて、さすがの俺も一瞬面食らった。
「なんで?」
「 だって里佳子さん、いっくんと喋ってる時の顔が前と全然違うんだもん」
以前、里佳子さんが言ってた「女って怖い」っていう言葉が、この時初めて理解できた。
「そうかな?
…まぁ、仲はいいけどさ」
俺は、知らん顔してそう答えた。
昨夜も会って、今朝もセックスしてたなんて、口が裂けても言えない。
ここ最近、里佳子さんと会う機会が増えた気がする。
会えば必ず抱き合って。
気づくと、朝まで一緒にいるなんてことも多くなった。
休みが合えば一緒に出かけるし、ライブがある時は、わざわざ見に来てくれたりもする。
はたからみれば、付き合ってるも同然。
だけど彼女は、まだ10年付き合った彼氏とは別れてはいなかった。
バイトが終わった後、 更衣室から出てきた俺に向かって、ミキが「これから一緒にご飯行こう!」と言い出した。
特に断る理由もなかったから、俺はそのまま、ミキと飯を食いに行くことにした。
今日のディナータイムも忙しくて、まかないなんか食ってる暇もなかった。
俺はミキと、店の近くにあるファミレスに立ち寄った。
「いっくんさ、今、付き合ってる人いる?」
唐突にそう聞かれて、俺は一瞬言葉に詰まった。
でも、知らん顔して答える。
「それっぽい人はいるけど、付き合ってはいない」
「へ~………」
ミキは、テーブルに両肘を付いて、勘ぐったように俺の顔を見る。
「じゃあそれは…浮気防止に付けられちゃった訳じゃないんだ?」
「え?」
ミキはニヤニヤしながら、俺の左耳の下あたりを指さした。
そして、おもむろに、ファンデーションのケースをバックからだすと、鏡を開けて俺に見せたのだった。
鏡に映ったのは…
ほんとに、しみじみ見ないとわからないような、左耳の下の髪がかかる首筋に残る、たいして濃くもない唇の跡だった。
しまった…と、思ったが、とりあえず顔には出さない。
そう言えば昨夜、里佳子さんはキスマークを付けられたことがないって話から、ふざけて見えない場所に付け合ってた。
そんなガキみたいな遊びが裏目に出た…
「いっくんてさぁ?
男だか女だか、わかんないような見た目でさ、人畜無害そうだけど、本当はすごく遊んでるでしょ?」
「遊んでないよ!」
「そうかなぁ?」
「そうだよ」
「いっくん。今付き合ってる人いないんでしょ?」
「うん」
「 そしたらさぁ、私なんかどう?」
「…は?」
冗談なんだか、本気なんだかわからないミキの言葉に、俺はなんだか呆れ返って思わずこう言った。
「それ本気で言ってないよな?馬鹿なのか?」
「わ~… 何その嫌そうな反応?!
傷つく~~!」
ミキは、拗ねた様に口を尖らせて、俺の顔を睨んできた。
だけどその顔がなんだかアヒルみたいで、俺は思わず笑った。
「そこ笑うとこじゃないと思うけど!」
怒ったようにそう言ったミキの視線がら不意に俺の頭の上の方に向いた。
その途端、俺の後ろの方で、聞き覚えのある声がこう言ったのだ。
「お前ら~!
相変わらず楽しそうだな~?
なんだ、ついに付き合いだしたか?」
「うわ!並木店長だ!
店長、帰ってきたの?!」
ミキのその声に、俺も思わず後ろを振り返る。
すると、そこに立っていたのは、里佳子さんの10年来の彼氏で、うちの店の元店長、並木だった。
酒が入っているのか、いつも以上に饒舌で、なんだか顔も赤い。
「会議だよ!会議!本社会議!
会議長引いてさ~
なんでおっさん達と顔つき合わせて、何 時間も会議なんだよ!
飯も食えなかったわ!
だから、飯食いに来てたんだよ
今夜はこっちに泊まってから、明日帰るんだ」
その言葉に、俺の心は一瞬でざわめいた。
この人が最初に住んでいたアパートは、既に引き払われている。
ということは、彼は、今夜おそらく里佳子さんの所に泊まるんだろう。
その時ふと、彼の背中越し、少し遠い窓際の席が目についた。
そこには、よく見たことのある、アンニュイの横顔があった。
その横顔が、偶然なのか必然なのか、ゆっくりこちらを振り返る。
里佳子さんだった。
そんな彼女と、目が合った。
彼女は、どこか切なそうな、不安そうな 、それでいて嬉しそうな、とてつもなく複雑な表情をしていた。
俺らが飯を食いに入ってきた時、おそらく彼女達は既にこのファミレスの中にいたんだろう。
偶然は、ある意味恐ろしい。
俺は、昨夜、彼女を抱いた。
彼女のあの部屋で、明け方近くまで彼女を抱いていた。
そして、彼女の10年来の恋人であるこの人は、その部屋にこれから帰る。
並木店長は、スラックスのポケットから財布を取り出す、そこから2000円を出して何のためらいもしに、俺らのテーブルの上に置いた。
「貧乏人どもめ!恵んでやるわ!
あはははは!」
相変わらず、そんな訳の分からない冗談を言って、彼は俺らに飯をおごってくれたんだ。
そして彼は彼女を連れて、ファミレスを後にした。
俺と彼女は、姿が見えなくなるまで、一度も目を合わせることはなかった。
並木店長はいい人だ。
そんな事、俺はよく知ってる。
だから心の隅が痛んだ。
だけどそれ以上に、俺の心はざわめき、焼け付くような嫉妬心に喘ぐことになった。
あの人は、今夜、彼女を抱くのだろうか…?
あの白い肌に触るのだろうか?
彼女は、俺とする時のように、あんなに甘い声を出すのだろうか?
考えなければいいのに、そんなことがぐるぐる頭に回って、炎のように焼き付く思いが、胸を奥を締め付けて行った。
それは、秋も終わりに差し掛かった頃だった。
バイトに行った俺に、突然、ミキがそんなことを聞いてきて、さすがの俺も一瞬面食らった。
「なんで?」
「 だって里佳子さん、いっくんと喋ってる時の顔が前と全然違うんだもん」
以前、里佳子さんが言ってた「女って怖い」っていう言葉が、この時初めて理解できた。
「そうかな?
…まぁ、仲はいいけどさ」
俺は、知らん顔してそう答えた。
昨夜も会って、今朝もセックスしてたなんて、口が裂けても言えない。
ここ最近、里佳子さんと会う機会が増えた気がする。
会えば必ず抱き合って。
気づくと、朝まで一緒にいるなんてことも多くなった。
休みが合えば一緒に出かけるし、ライブがある時は、わざわざ見に来てくれたりもする。
はたからみれば、付き合ってるも同然。
だけど彼女は、まだ10年付き合った彼氏とは別れてはいなかった。
バイトが終わった後、 更衣室から出てきた俺に向かって、ミキが「これから一緒にご飯行こう!」と言い出した。
特に断る理由もなかったから、俺はそのまま、ミキと飯を食いに行くことにした。
今日のディナータイムも忙しくて、まかないなんか食ってる暇もなかった。
俺はミキと、店の近くにあるファミレスに立ち寄った。
「いっくんさ、今、付き合ってる人いる?」
唐突にそう聞かれて、俺は一瞬言葉に詰まった。
でも、知らん顔して答える。
「それっぽい人はいるけど、付き合ってはいない」
「へ~………」
ミキは、テーブルに両肘を付いて、勘ぐったように俺の顔を見る。
「じゃあそれは…浮気防止に付けられちゃった訳じゃないんだ?」
「え?」
ミキはニヤニヤしながら、俺の左耳の下あたりを指さした。
そして、おもむろに、ファンデーションのケースをバックからだすと、鏡を開けて俺に見せたのだった。
鏡に映ったのは…
ほんとに、しみじみ見ないとわからないような、左耳の下の髪がかかる首筋に残る、たいして濃くもない唇の跡だった。
しまった…と、思ったが、とりあえず顔には出さない。
そう言えば昨夜、里佳子さんはキスマークを付けられたことがないって話から、ふざけて見えない場所に付け合ってた。
そんなガキみたいな遊びが裏目に出た…
「いっくんてさぁ?
男だか女だか、わかんないような見た目でさ、人畜無害そうだけど、本当はすごく遊んでるでしょ?」
「遊んでないよ!」
「そうかなぁ?」
「そうだよ」
「いっくん。今付き合ってる人いないんでしょ?」
「うん」
「 そしたらさぁ、私なんかどう?」
「…は?」
冗談なんだか、本気なんだかわからないミキの言葉に、俺はなんだか呆れ返って思わずこう言った。
「それ本気で言ってないよな?馬鹿なのか?」
「わ~… 何その嫌そうな反応?!
傷つく~~!」
ミキは、拗ねた様に口を尖らせて、俺の顔を睨んできた。
だけどその顔がなんだかアヒルみたいで、俺は思わず笑った。
「そこ笑うとこじゃないと思うけど!」
怒ったようにそう言ったミキの視線がら不意に俺の頭の上の方に向いた。
その途端、俺の後ろの方で、聞き覚えのある声がこう言ったのだ。
「お前ら~!
相変わらず楽しそうだな~?
なんだ、ついに付き合いだしたか?」
「うわ!並木店長だ!
店長、帰ってきたの?!」
ミキのその声に、俺も思わず後ろを振り返る。
すると、そこに立っていたのは、里佳子さんの10年来の彼氏で、うちの店の元店長、並木だった。
酒が入っているのか、いつも以上に饒舌で、なんだか顔も赤い。
「会議だよ!会議!本社会議!
会議長引いてさ~
なんでおっさん達と顔つき合わせて、何 時間も会議なんだよ!
飯も食えなかったわ!
だから、飯食いに来てたんだよ
今夜はこっちに泊まってから、明日帰るんだ」
その言葉に、俺の心は一瞬でざわめいた。
この人が最初に住んでいたアパートは、既に引き払われている。
ということは、彼は、今夜おそらく里佳子さんの所に泊まるんだろう。
その時ふと、彼の背中越し、少し遠い窓際の席が目についた。
そこには、よく見たことのある、アンニュイの横顔があった。
その横顔が、偶然なのか必然なのか、ゆっくりこちらを振り返る。
里佳子さんだった。
そんな彼女と、目が合った。
彼女は、どこか切なそうな、不安そうな 、それでいて嬉しそうな、とてつもなく複雑な表情をしていた。
俺らが飯を食いに入ってきた時、おそらく彼女達は既にこのファミレスの中にいたんだろう。
偶然は、ある意味恐ろしい。
俺は、昨夜、彼女を抱いた。
彼女のあの部屋で、明け方近くまで彼女を抱いていた。
そして、彼女の10年来の恋人であるこの人は、その部屋にこれから帰る。
並木店長は、スラックスのポケットから財布を取り出す、そこから2000円を出して何のためらいもしに、俺らのテーブルの上に置いた。
「貧乏人どもめ!恵んでやるわ!
あはははは!」
相変わらず、そんな訳の分からない冗談を言って、彼は俺らに飯をおごってくれたんだ。
そして彼は彼女を連れて、ファミレスを後にした。
俺と彼女は、姿が見えなくなるまで、一度も目を合わせることはなかった。
並木店長はいい人だ。
そんな事、俺はよく知ってる。
だから心の隅が痛んだ。
だけどそれ以上に、俺の心はざわめき、焼け付くような嫉妬心に喘ぐことになった。
あの人は、今夜、彼女を抱くのだろうか…?
あの白い肌に触るのだろうか?
彼女は、俺とする時のように、あんなに甘い声を出すのだろうか?
考えなければいいのに、そんなことがぐるぐる頭に回って、炎のように焼き付く思いが、胸を奥を締め付けて行った。
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