14 / 22
【13、愛執】
しおりを挟む
灯りの消えた部屋。
カーテンの隙間には満月が見え隠れしていた。
エアコンの音と彼女の甘い声が、水槽のような寝室に響く。
お互いの吐息が、部屋に充満する。
その日の彼女は、いつも以上に艶かしく、そして、やけに淫らだった。
「ねっ……あたしにも、させて……
あたしばっかり、こんな…
樹くんも、気持ちよくしてあげたいから…」
彼女は酒に酔ったような表情をして、俺の胸に頬を埋めた。
そこから、舌の先で筋肉の筋をなぞりながら、彼女の唇が下へと降りていく。
たどり着いたその先で、彼女の唇と舌の感触が、電気のように腹から背中を抜けて、俺の脳天を揺らした。
この感覚は、今まで感じたことのないような快感で、こういう風に上手にされたことが、少なくともその時まではなかったから、尋常じゃない痺れが頭にまわった。
「ちょ…なんで、そんなに…っ
上手いの…?」
息と一緒に吐き出したその言葉に、彼女はちらりと上目遣いで俺の顔を見て、何も言わずにそれを続けた。
ほんとに、どれだけの毒で俺を侵食すればこの人は気が済むのか…
彼女の柔らかな舌が包みこむように舐めて、唇は吸い上げるようにまとわりつく。
頭がくらくらしてきた。
変な声が出そうだ…‥
このまま続けられるとヤバそうだったから、俺は彼女の唇を無理やり引き離した。
「あ…っ」
彼女は驚いたようにこちらを見る。
その唇が、やけに色っぽい。
「それ以上されたら…ヤバいから」
「え?」
彼女の体を引き寄せて、ぎゅっとその白い肌を抱き締める。
彼女も、俺の背中に両腕を回してぎゅっと抱き締め返してきた。
「樹くん…」
「里佳子さんが…好きだ」
「ん……知ってる…」
切なく甘い響きを持つ声で、そう答えた彼女を自分の腿に座らせて、俺はそのまま、彼女を抱いた。
「あ…っ」と声にならない声を上げて、彼女は俺の首に抱きついてくる。
「こんなの…っ、ひどい…っ」
乱れたように、その細い腰が揺れ動く。
前よりも甘さを増した声。
目の前で、白い肌を高揚させ、恍惚の表情をする彼女の姿が、ますます俺の心を猛毒のように侵していく。
こうして彼女を抱くと、不思議と、妬け付く心の痛みが消えるような気がした。
彼女を抱いてる間、多分彼女は俺のことしか考えないはずだから、この間だけは、彼女は俺だけのものになる。
だから…
「好きだ……里佳子…っ」
ほんとに無意識に、俺は思わず、そう言った。
彼女は、乱れたまま、ぎゅっと俺の首に抱きついて、か細く小さな声で何かを言った。
「あたしも、好きなの…っ」
と、俺には確かにそう聞こえた。
彼女の体をベッドの上に倒して、彼女の体の深い場所まで挿す。
びくんと体を震わせて、彼女は、細い体を揺らめかせた。
甘く艶かしいその声が、耳の奥に巡って反響する。
「樹くん…
あたしで、気持ち良くなって…っ
いっぱい、気持ち良くなって……っ
気持ちよくしてあげたいの…っ
樹くん…っ、樹くん…っ」
恍惚とした彼女の甘い声が、呆然とした俺の耳元でそう囁いた。
脳ミソが、高揚感で振動する。
「奥まで…犯していい…?」
「犯して…っ、あたしを犯して…っ、樹くんになら…そうされたいのっ」
水の底まで溺れていくようなこの感覚。
本能で感じるこの危機感。
どうして彼女だったのか、どうして彼女にとって俺だったのか。
そんなこと、考えたって答えはでない。
「樹くんっ…あたしっ…もぉ、もぉ!」
「俺も…イキ…そう…っ」
その時は、この最後の瞬間を、彼女と共有することが俺にとっての幸福であり、最大の快楽で快感だった。
「…っぁ!」と、思わず変な声が出た。
ほんのり赤く染まる彼女の肌に倒れこんで、俺は、荒くなった息を整える。
そんな俺の髪を、彼女の細い指が撫でた。
「ん…今日も汗びっしょりだね…?」
「うん……」
「……なんか、ごめん、変なこと言って…」
「変なこと?」
そう聞き返すと、彼女は、少し照れたような表情で、俺の頬に頬を押し付けてきた。
「でも、ほんとに樹くんを、気持ち良くしてあげたかったの…
気持ちよくしてくれるから…
あたしのこと…」
「……」
「怒らないでね…
ほんと、信ちゃんて淡泊だから、こんな風じゃないの
樹くんみたいに、あたしに触ってからする訳じゃないし、口でしてって言われてそのまま終わっちゃうこともよくあったし。
でも、それが普通だと思ってたから、特に気にならなかったんだけど…
なんか、だんだんそういうのも面倒くさくなっちゃって…
さっさと終わらせたくて、研究したんだ。
でも、樹くんとはそう思わないの…
だから、つい、あんなこと言っちゃた…」
なるほど。
上手かったのはそう言う理由かと、変な感心の仕方をしたが、内心少し複雑だった。
だが、さっきのような火のような怒りは沸いてこない。
思い切り、彼女を抱いた後だったからかもしれない。
俺は彼女の体を抱き寄せた。
彼女は甘えるように、その頬を肩に押し付けてくる。
「ああ言われて…むしろ興奮したんで、問題なし」
「ふふふ、それはよかったです…
ね、樹くん?」
「ん?」
「今夜は……帰らないで」
「え?」
「泊まって…いって…
離れたくないの……」
「…………」
返事の代わりに、俺は彼女の額にキスをした。
彼女が愛しくてたまらなかった。
だが、逆にそれが変な不安感にもなった。
彼女は俺の恋人じゃない。
彼女には、10年付き合っている彼氏がいる。
彼女の中で、今、どっちの比重が重いのか、俺にはわからない。
だけど、少なくとも今、彼女の傍にいて、彼女を抱くのは俺だから…
彼女の肩越しに見た窓。
そのカーテンの隙間には、薄曇りに揺れる満月。
この先も、きっとこのままでいられる…
きっと…
その時の俺は、そう思っていた。
カーテンの隙間には満月が見え隠れしていた。
エアコンの音と彼女の甘い声が、水槽のような寝室に響く。
お互いの吐息が、部屋に充満する。
その日の彼女は、いつも以上に艶かしく、そして、やけに淫らだった。
「ねっ……あたしにも、させて……
あたしばっかり、こんな…
樹くんも、気持ちよくしてあげたいから…」
彼女は酒に酔ったような表情をして、俺の胸に頬を埋めた。
そこから、舌の先で筋肉の筋をなぞりながら、彼女の唇が下へと降りていく。
たどり着いたその先で、彼女の唇と舌の感触が、電気のように腹から背中を抜けて、俺の脳天を揺らした。
この感覚は、今まで感じたことのないような快感で、こういう風に上手にされたことが、少なくともその時まではなかったから、尋常じゃない痺れが頭にまわった。
「ちょ…なんで、そんなに…っ
上手いの…?」
息と一緒に吐き出したその言葉に、彼女はちらりと上目遣いで俺の顔を見て、何も言わずにそれを続けた。
ほんとに、どれだけの毒で俺を侵食すればこの人は気が済むのか…
彼女の柔らかな舌が包みこむように舐めて、唇は吸い上げるようにまとわりつく。
頭がくらくらしてきた。
変な声が出そうだ…‥
このまま続けられるとヤバそうだったから、俺は彼女の唇を無理やり引き離した。
「あ…っ」
彼女は驚いたようにこちらを見る。
その唇が、やけに色っぽい。
「それ以上されたら…ヤバいから」
「え?」
彼女の体を引き寄せて、ぎゅっとその白い肌を抱き締める。
彼女も、俺の背中に両腕を回してぎゅっと抱き締め返してきた。
「樹くん…」
「里佳子さんが…好きだ」
「ん……知ってる…」
切なく甘い響きを持つ声で、そう答えた彼女を自分の腿に座らせて、俺はそのまま、彼女を抱いた。
「あ…っ」と声にならない声を上げて、彼女は俺の首に抱きついてくる。
「こんなの…っ、ひどい…っ」
乱れたように、その細い腰が揺れ動く。
前よりも甘さを増した声。
目の前で、白い肌を高揚させ、恍惚の表情をする彼女の姿が、ますます俺の心を猛毒のように侵していく。
こうして彼女を抱くと、不思議と、妬け付く心の痛みが消えるような気がした。
彼女を抱いてる間、多分彼女は俺のことしか考えないはずだから、この間だけは、彼女は俺だけのものになる。
だから…
「好きだ……里佳子…っ」
ほんとに無意識に、俺は思わず、そう言った。
彼女は、乱れたまま、ぎゅっと俺の首に抱きついて、か細く小さな声で何かを言った。
「あたしも、好きなの…っ」
と、俺には確かにそう聞こえた。
彼女の体をベッドの上に倒して、彼女の体の深い場所まで挿す。
びくんと体を震わせて、彼女は、細い体を揺らめかせた。
甘く艶かしいその声が、耳の奥に巡って反響する。
「樹くん…
あたしで、気持ち良くなって…っ
いっぱい、気持ち良くなって……っ
気持ちよくしてあげたいの…っ
樹くん…っ、樹くん…っ」
恍惚とした彼女の甘い声が、呆然とした俺の耳元でそう囁いた。
脳ミソが、高揚感で振動する。
「奥まで…犯していい…?」
「犯して…っ、あたしを犯して…っ、樹くんになら…そうされたいのっ」
水の底まで溺れていくようなこの感覚。
本能で感じるこの危機感。
どうして彼女だったのか、どうして彼女にとって俺だったのか。
そんなこと、考えたって答えはでない。
「樹くんっ…あたしっ…もぉ、もぉ!」
「俺も…イキ…そう…っ」
その時は、この最後の瞬間を、彼女と共有することが俺にとっての幸福であり、最大の快楽で快感だった。
「…っぁ!」と、思わず変な声が出た。
ほんのり赤く染まる彼女の肌に倒れこんで、俺は、荒くなった息を整える。
そんな俺の髪を、彼女の細い指が撫でた。
「ん…今日も汗びっしょりだね…?」
「うん……」
「……なんか、ごめん、変なこと言って…」
「変なこと?」
そう聞き返すと、彼女は、少し照れたような表情で、俺の頬に頬を押し付けてきた。
「でも、ほんとに樹くんを、気持ち良くしてあげたかったの…
気持ちよくしてくれるから…
あたしのこと…」
「……」
「怒らないでね…
ほんと、信ちゃんて淡泊だから、こんな風じゃないの
樹くんみたいに、あたしに触ってからする訳じゃないし、口でしてって言われてそのまま終わっちゃうこともよくあったし。
でも、それが普通だと思ってたから、特に気にならなかったんだけど…
なんか、だんだんそういうのも面倒くさくなっちゃって…
さっさと終わらせたくて、研究したんだ。
でも、樹くんとはそう思わないの…
だから、つい、あんなこと言っちゃた…」
なるほど。
上手かったのはそう言う理由かと、変な感心の仕方をしたが、内心少し複雑だった。
だが、さっきのような火のような怒りは沸いてこない。
思い切り、彼女を抱いた後だったからかもしれない。
俺は彼女の体を抱き寄せた。
彼女は甘えるように、その頬を肩に押し付けてくる。
「ああ言われて…むしろ興奮したんで、問題なし」
「ふふふ、それはよかったです…
ね、樹くん?」
「ん?」
「今夜は……帰らないで」
「え?」
「泊まって…いって…
離れたくないの……」
「…………」
返事の代わりに、俺は彼女の額にキスをした。
彼女が愛しくてたまらなかった。
だが、逆にそれが変な不安感にもなった。
彼女は俺の恋人じゃない。
彼女には、10年付き合っている彼氏がいる。
彼女の中で、今、どっちの比重が重いのか、俺にはわからない。
だけど、少なくとも今、彼女の傍にいて、彼女を抱くのは俺だから…
彼女の肩越しに見た窓。
そのカーテンの隙間には、薄曇りに揺れる満月。
この先も、きっとこのままでいられる…
きっと…
その時の俺は、そう思っていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる