君は僕の心を殺す〜SilkBlue〜

坂田 零

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【10、愛欲】

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 どうしてこうなったとか、なんで好きになったとか、そんなことは流石の俺も理論で片付けようとは思わない。

 感情が求めて、それに答える感情があって、その二つが結び付くと、自然に、体の結び付きまで求めたくなる。
 この場合、セックスしたいから求めるんじゃなくて、愛情があるからセックスしたいんだ。

 体だけの関係なんて一時の感情だけで十分で、継続する感情は伴わない。
 だけど、この時の彼女への感情は『継続しない安易な感情』なんかじゃ決してなかった。

 それは、これまで経験したことのなかったかなりディープな感情論で、彼女は、俺の経験上のデータベースにないタイプの人だったから、余計に惹かれたのかもしれない。

 大して高くもないホテルの一室。
 ギシッとベッドが軋む。

  白すぎるほど白い肌が、極限までしぼったダウンライトの下で蒼くも見えた。
 緊張してるのか、恥ずかしいのか、片腕を自分の額に当てて、彼女はどこか不安そうに俺を見てる。

 だいぶ年上のハズなのに、慣れた感じがしないのは、彼氏とずっと淡白な関係だったから…?

 じゃあ、彼女の経験を全部俺が塗り替えてしまえばいい…

 そう思ったからこそ余計に、感情も本能も溢れすぎて、独占欲とか支配欲とかそんなものが強すぎて、壊したいほど愛しい思いに心が焦げ付いていった。
 
 重なる肌から直接感じる体温。
 彼女の全てを自分のものにしたくて、首筋から細い肩も、胸の膨らみも、その白い肌に舌を這わせる。  

 「こんなこと、されたこと…ないよっ
恥ずかしいよ…っ」

 彼女は吐息と一緒に、か細い声でそう訴えた。 

 こうしないと気が済まないから…と言う言葉を飲み込んで、 細い太腿の辺りにキスをする、それから逃げられないように彼女の細く腰を両手で引き寄せる。

「あ…っ」と、彼女は詰まったような声で、甘く短く悲鳴を上げた。

 体が十分感じてることがわかるほど、溢れ出してるから、それを舌で絡め取る。
 その度に、彼女の体は震えるように揺れた。
 必死に声を押し殺してるのがわかるから、余計に舐めたくなる。
 
「もぅ…っ、やめ…っ……っ!?」

 我慢仕切れなくなって声を上げた彼女は、大きく体を揺らすと震えながら「あぁっ!」と悲鳴を上げた。
 腰を抱いた俺の手から逃げ出すと、自分を抱き締めるようにして横を向く。

 息が荒い。
 小刻みに彼女の体は震えている。

 白い肌がほんのり赤く染まり、どこか呆然としたその瞳が、ゆっくりと隣に寝転んだ俺を見た。
 
 「樹くん…やっぱり遊んでるでしょ…っ」

「遊んでない…」

「慣れてて信用できないよ、そんなの…若いくせにっ、なんか、生意気…っ」

 「……なんだよそれ?」

「なんでそんな普通なの?
あたしだけこんな…っ」

 何故か、拗ねたようにこちらを睨む彼女がおもしろくて、その長いの髪を撫でてみた。

「だってまだ最後までしてないし…」

 そう言うと、彼女は両腕を伸ばして俺の首に抱きついてくる。
 まるで毒のような甘い響きを持った彼女の声が、唐突に耳元で言う。

「じゃあ………して……っ
樹くんも………気持ちよくなってよ」  

「……っ!?」

 彼女は一体、何種類の猛毒を隠しもってるんだろう。
 この人は、俺を冷静にさせておく気はないのかと思うほど、落ちついてきた心を高揚させて狂わせていく。
 
  彼女を抱きよせてキスをする。
  舌を絡めながら、彼女の体をベッドの上に押し付けて、そのまま、俺は彼女を抱いた。

 なんか、これはヤバい…

 そう思わせるほど、彼女の体が感じてるのがわかる。
 体の中の暖かさ。
 欲しかったぬくりに、やっとたどり着いて、体の中がじんと熱くなる。
 吸い付くように締め上げられたら、こちらも、もはや正気じゃいられない。

 体の相性…そんな言葉は都市伝説だと思ってる。  
 相性じゃない、どれだけその人が好きか、結局はそれに比例するもんだと思う。

 そのせいなのか、感じ方が尋常じゃない。
 動く度に締められて、変な声が出そうなほど彼女の体の中は気持ちがよかった。
 
「里佳子…さんっ、気持ち…良いっ」
 
途中から、余裕なんてなくなってきてた。

 首に抱きついたまま、彼女が俺の耳元で吐き出す甘い悲鳴が、ますます、理性を溶かしていってしまう。

「奥までイキたいよ…っ、すげ…気持ち良い…っ、里佳子…さんっ」

 思わずそう言った俺の背中を、彼女がぎゅっと抱きしめる。

「あっ…あっ…んっ…あっ」

 俺を感じて、受け入れてくれる彼女の気持ち良さそうな声に、心が妬け付く思いがした。
 彼女のことが、愛しくて仕方がなかった。
   どうして、この人は俺だけのものじゃないのかと、そんな嫉妬心がますます心を妬き付かせていく。
  だから、もっと彼女の奥深くにイキたくて、もっと彼女の全てを侵したくて、汗が滴るほど彼女を抱いた。
 
 「あ、あたし…おかしくなっちゃうっ!」

 吐息と共に、甘い悲鳴にも似た声で彼女が言った。
 口紅の名残がある唇から、甘い息と声が漏れていく。

 おかしくなるのはこっちの方だ…
 
 そう思っても、その言葉は声にはできなかった。

 この最後の快感を最大限で感じるために、多分、愛情は必要不可欠な要素なのかもしれない。
 
 倒れ込むようにして、俺は、息を整えるでもなく彼女の体を抱き締めた。
 そんな俺の背中を、彼女もぎゅっと抱き締める。

「ん…樹くん……すごい汗…」

「………ヤバい、なんか……ヤバい」

「何がやばいの?」

「なんか……色々……」

「なにそれ…!」

 そう言ってクスクス笑うと、彼女は、俺の顔を覗き込んでキスしてきた。
 唇を離して、今度は何故か俺の頭を撫でる。
 
 「こういう感じ…なんか、ほんと初めてで、またカルチャーショック…
こういうのは、樹くんのが絶対慣れてるよね」

「慣れてるも慣れてないも……
なんでひとの頭撫でてんの?」

「なんとなく…!
て、いうか……ねぇ…樹くん?」

「ん?」

「樹くん…なんでこうしてくれたの?」

 そう言って、彼女は少し不安そうな表情で、頭を撫でてた手を今度は俺の頬辺りにもってくる。

 何故、今さらこんなことを聞いてくるのか、俺にはまるで見当がつかなかった。

 だけど、あまりにも不安そうな顔をするから、俺は、正直に答えた。

「里佳子さんが……好きだから」

「…………」

 一瞬、押し黙った彼女は、どこか嬉しそうな、だけど、どこか悲しそうな、そんな複雑な表情をしてから、また、ぎゅっと俺に抱きついてきた。

「……ありがとう…
あたし、こんな女でごめんね…
…おっぱいも小さくて、ごめんね…」

「いや、それは何も言ってないし!」

 唐突に、ほんと変なことをいう人だと、俺は思わず笑った。
 彼女は、ふふっと笑ってまた上目遣いに俺を見る。

 それは、忘れ得ぬ夜だった。
 だけど、これが『罪』であることの自覚は、この時、俺にはなかった。

 
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