君は僕の心を殺す〜SilkBlue〜

坂田 零

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【3、雨音】

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 閉店作業の後、店の裏口から出ようとして、ミキが足を止めた。

「うわ~……」
 
 どしゃ降りの雨は止んでいなかった。
 遠くで雷の音がする。
 俺はうんざりしながら、暗い夜空を見上げた。

「まじか~……」

「まじだ~…」

 雨が滴り落ちてくる夜空をぽかんと見上げて、ミキがそう答える。
 俺は思わず、ため息をついた。

「車に行くまでに、びしょ濡れフラグ」

「わぁ~…ちょーうざっ!!傘ないしな~」

 その時、思わずぼやいた俺らの後ろから、別の声が聞こえてきた。

「うおーい!樹!ミキ!
何やって…って、雨やないか!!」

 一人漫才みたいな突っ込みを入れつつ、そこに現れたのは、いつもは開かずの扉の向こうにいるはずの店長だった。
 ちょっと小太りだが陽気なアラサー。
 気さくで面白いのは自他共に認めている。
 オタクっぽくもあるこの人は、なんだかんだと言いながらだいぶやり手で、若手店長にして出世株という噂だった。

「気付くの遅いっすよ店長、事務所にいて雷の音聞こえなかったんすか?」

 そんな突っ込みを入れると、店長は豪快に笑った。

 「金計算やってたら真剣過ぎて聞こえないよ~
はぁ…やっと明日は休みだ、モンハンやろ!」

「はっ?モンハンすか?ネトゲ?」

「そそ、ネトゲのモンハン!
がっしかし狩りすんだ! 
新しい装備作るんだ!」

「わぁ~廃人ぽ」

「何言ってんだ!俺は廃人だ!」

 これで彼女いるんだからな…と、思いつつも、俺は思わず笑った。
 この人は悪い人じゃないし、こんなだけど人望もある。
 ゲーマーだけど、彼女がいても当然か…
 
 そう思った瞬間、店の裏口に白いワンボックスの軽が走りこんできた。
 突然、俺らの前に横付けされたその車。
 俺もミキも店長も、何事かと目をまるくした時、助手席の窓が開いた。

「濡れちゃうよ!みんな乗りなよ!」

「あれ!里佳子?迎えきてくれたんだ」
 
店長がそんな声をあげた。
 下がった窓の向こう側、白いワンボックスの軽の運転席には…
 飄々とした表情で、あの窓辺の席の常連客…店長の彼女でもある、あの人が座っていた。

          *
 それから30分後。
 俺とミキと、そして店長とその彼女であるその人は、何故かチェーン店の居酒屋にいた。
 店長の「俺、腹減った、おまえら奢るから飯食い行こう」って一言で、何故か四人で飯を食いにきた訳だ。
 俺にとっては、なんとなく居心地の悪い空間だったが、店長とミキは平然と飯を食いつつ、ビールを飲んでた。
 
「いっくん飲まないの?」

 良い感じに酔っ払ったミキが、やたらとベタベタしながらまとわりついてくる。
 
「今日はいいや…だってほら、先に店長がくたばりそうだし」

 俺の視線の先には、乗っけからガンガン酒を飲んで、ほろ酔い通りこし、座敷に横になっていまにも寝そうな店長の姿があった。 
 そんな店長を、呆れた顔でみながら、店長の彼女である里佳子さんが、ため息をついていた。

「だから居酒屋は嫌だって言ったのに…すぐ寝ちゃうんだもん、一人で歩いて部屋いってよね!」

「わぁかってりゅ~わぁかってりゅ~」

 そう答える店長だが、どっからどうみても、わかってるようには見えないよな…
 その次の瞬間、テーブル越しに里佳子さんと、俺の目が合った。
 何を話していいか、わからない…
 そんなことを思って、思わず目を逸らす。
 里佳子さんは、可笑しそうに笑った。

「ねぇねぇ、菅谷くん、帰りこいつを部屋まで連れていってもらっていい?」

 唐突にそんな言葉をかけられ、俺は驚いて里佳子さんに視線を向ける。
 彼女はイタズラそうな顔つきをして追い討ちをかけてきた。

「あたし一人じゃ、この人引きずっていけないもん…ダメかな?」

「……いや…ダメじゃないっす…」

「わーい!」

「………」

 無邪気に笑った彼女の顔が、どことなく色っぽく見えたのは気のせいだろうか…?
 この人、わざとなのか天然なのかわからないな…まじ
 俺はため息をついて、無言で烏龍茶を飲み干した。



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