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【1、窓辺】
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ゆったりとしたボサノバが流れる夕暮れ時の店内。
彼女は、いつもこの時間辺りに店に来て、窓辺の席に座りコーヒーを飲みながら、よく窓の外を眺めていた。
時折タブレットをいじりながら、テーブルに肘をついて、アンニュイな顔つきをしながら行き過ぎる車の流れを見ていた。
ものすごく美人っていう訳でもなく、 ものすごくスタイルが良いって訳でもなく、化粧っ気もなくて、だけど、美人という訳じゃないが、顔立ちは整っていて身なりも綺麗だった。
そんな彼女からは、そこはかとなく知的で、それでいて人目を引くような、なんとも言えない不思議なオーラが出ていた。
なんとなく目が離せなくて、なんとなく チラ見してしまう。
彼女は、そんな雰囲気を持った人だった。
「いっくん? どうしたのボーっとして?」
そう声をかけられてはっと振り返ると、ツケマをパサパサ音がしそうな程揺らしながら、同い年だけどバイトの先輩であるミキが、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ……」
「あ……じゃないよね?何見てるの?
声かけてるのに全然振り返らないし!」
「ごめん、ぼーっとしてた…」
「もぉ!でもまあ、別に今日お店暇だから、いいんだけどね」
ミキはそう言って、可笑しそうに笑った。
そこは、チェーン店のイタリアンレストラン。
俺がバイトに来るようになって一か月。
仕事も大体覚えて、スタッフの顔も一通り把握して、一番最初に覚えた常連客の顔が、窓際に座る彼女の顔だった。
「あの人さ…なんか、いつもあそこの席で、コーヒー飲んでるよな?」
「どのお客さん?」
「あの窓際の女の人、いつも一人で来る」
ミキはその人を振り返ると、「あ~!」と言ってまた笑った。
「いっくんて、ああいう地味な感じの年上が好きなの?」
「いや …そういう訳じゃないけど」
「ふーん…」
何かを感ぐったようなミキの眼差しが、俺に刺さる。
「なんだよその目は…?」
「いっくんてさ、髪は赤いし、見た目チャラいくせに、なんか変なとこ真面目だよね~」
「チャラいって言うなっ!これでもミュージシャンだぞ、見た目ぐらい派手にしとくわ!」
いつも通りの反論をミキに返したら、なんかため息が出た。
当時の俺は、常に空虚だった。
複雑な家庭に育ったせいか、人を信用しやすく、そして疑り深くもあった。
空虚で孤独なくせに、何故か周りには友達が沢山いて、人に恵まれていながらも自分の心を満たすことなんてできなかった。
音楽が唯一、本当の自分を表現する方法で、音楽が支えでもあった頃だった。
どこかひねくれているのに、表面上は愛想がいい。
誰も、本当の俺なんて見てくれる訳もなく、ましてや愛してくれるなんて思ってもいなかった。
あの時は気づかなかったけど、もしかすると彼女も、同じような思いを、心に抱いていた人だったのかもしれない。
彼女は、いつもこの時間辺りに店に来て、窓辺の席に座りコーヒーを飲みながら、よく窓の外を眺めていた。
時折タブレットをいじりながら、テーブルに肘をついて、アンニュイな顔つきをしながら行き過ぎる車の流れを見ていた。
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そんな彼女からは、そこはかとなく知的で、それでいて人目を引くような、なんとも言えない不思議なオーラが出ていた。
なんとなく目が離せなくて、なんとなく チラ見してしまう。
彼女は、そんな雰囲気を持った人だった。
「いっくん? どうしたのボーっとして?」
そう声をかけられてはっと振り返ると、ツケマをパサパサ音がしそうな程揺らしながら、同い年だけどバイトの先輩であるミキが、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あ……」
「あ……じゃないよね?何見てるの?
声かけてるのに全然振り返らないし!」
「ごめん、ぼーっとしてた…」
「もぉ!でもまあ、別に今日お店暇だから、いいんだけどね」
ミキはそう言って、可笑しそうに笑った。
そこは、チェーン店のイタリアンレストラン。
俺がバイトに来るようになって一か月。
仕事も大体覚えて、スタッフの顔も一通り把握して、一番最初に覚えた常連客の顔が、窓際に座る彼女の顔だった。
「あの人さ…なんか、いつもあそこの席で、コーヒー飲んでるよな?」
「どのお客さん?」
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ミキはその人を振り返ると、「あ~!」と言ってまた笑った。
「いっくんて、ああいう地味な感じの年上が好きなの?」
「いや …そういう訳じゃないけど」
「ふーん…」
何かを感ぐったようなミキの眼差しが、俺に刺さる。
「なんだよその目は…?」
「いっくんてさ、髪は赤いし、見た目チャラいくせに、なんか変なとこ真面目だよね~」
「チャラいって言うなっ!これでもミュージシャンだぞ、見た目ぐらい派手にしとくわ!」
いつも通りの反論をミキに返したら、なんかため息が出た。
当時の俺は、常に空虚だった。
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音楽が唯一、本当の自分を表現する方法で、音楽が支えでもあった頃だった。
どこかひねくれているのに、表面上は愛想がいい。
誰も、本当の俺なんて見てくれる訳もなく、ましてや愛してくれるなんて思ってもいなかった。
あの時は気づかなかったけど、もしかすると彼女も、同じような思いを、心に抱いていた人だったのかもしれない。
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