異国の魔女と奇跡の魔法

青野そら

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第7話 いっときの別れ

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「大魔女?」

 馴染みのない単語にわたしは首をかしげる。

「大魔女っていうのはね、魔女のなかでも一番すごい人のことなんだ!」
「へぇー!」

 もっと大きな魔法が使えたりするのだろうか?
 想像するだけで、ワクワクして心が沸き立つ。
 
「ルファならきっとなれるよ!」

 魔法が好きなルファなら、きっと夢を叶えられる。わたしはそう確信した。
 
「ありがと、マナ!」

 ルファは嬉しそうに笑った。
 
 その後もたくさんの魔法を見せてもらった。
 
 一瞬で水を氷へと変化させる魔法。
 それを粉々に砕く魔法。

 光の玉を形成する魔法。
 
 風を起こす魔法。

 炎を生み出す魔法。

 どの魔法も魂が震えるほどの感動をわたしにもたらした。
 わたしも魔法が使えたらなあと考えてしまう。

「マナちゃん、もうすぐ暗くなるから帰ったほうがいいかもしれないよ」

 シャーファさんの言葉にわたしはハッとなって時計を見る。

 針は四時過ぎを指していた。
 
 夏場は日が出ている時間が長いが、南半球にあるこの国は違うはずだ。
 カーテンから外を覗くと、灰色の空には微かにオレンジ色が混じり始めていた。
 
「確かに、そろそろ帰らないとまずいかも……」

 わたしの言葉に、ルファの顔は失望に染まる。

「もう帰っちゃうの?」

 切なげにルファは訪ねてくる。
 その言葉に身体を引き止められそうになるが、暗くなったら危険だと本能が告げている。
 
「ルファ、マナちゃんを困らせるようなこと言わない」
「で、でも……」

 まだまだ遊び足りない、とルファの顔が物語っていた。

「明日も遊べばいいじゃないか」
「マナ、明日も会える!?」

 さっきとはうってかわって、ルファはきらめくような笑顔を咲かせる。
 
「うん! わたしもルファとまたお喋りしたいから明日も遊ぼう!」
「やったぁー!」

 ルファは飛び跳ねるように全身で喜びを表現していた。

「歩くと時間かかるだろうから……ルファ、マナちゃんのこと送っていきな」
「うん!」

 シャーファさんに別れを告げて、ルファと外に出た。そしてここに来たときと同じようにホウキに乗って、空を渡る。

「今日はなんだか夢みたいな一日だったよ」
「ワタシもすっごく楽しかった!」

 今日一日で大冒険をした気分だ。
 
 知らない国。
 
 魔法の存在。
 新しい友達。 
 
 いろんな要素がぎゅっと凝縮された、とても濃い一日を味わった。
 
「あ、上着、どうしよ」

 記憶を辿る途中でふと、自分が羽織っているもこもこの上着の存在を思い出した。 
 
「寒いからしばらく貸してあげるよ。これでまた会う口実もできるしね」
 
 ルファはにやりと口角をあげて笑った。
 

 ここに来るために通ってきたかまくらがあるところに戻ってきた。
  
「明日はお昼食べたら行くから」
「じゃあ、それくらいの時間になったらここで待ってるね」
「またね!」
「ばいばーい!」

 大きく手を振り合って、ルファと別れる。

 かまくらに屈んで入り、来た道をゆっくりと戻っていく。

 暗いからちゃんと戻れるか少し不安だ。
 
 暗闇だからか、話し相手がいないからか、急に寂しいという気持ちが溢れてきた。

 ルファともっと話したいな。 

 何を話そうか考えているうちに、気付けば出口の光が見えてきていた。

 
光に目を細めながら、木のうろから出る。

 暑い……。夏にもこもこの服は熱がこもる。 
 ルファから借りた上着を脱いで横手に持つ。
 
 さっきまであんなに寒かったのに……。
 気温一つとっても不思議な体験だなと感じる。

 ヒグラシの鳴き声やカラスの声が聞こえてくる。

 空はまだ明るいけれど、林のなかは十分に光が入ってこない。
 
 暗くなる前には家に帰ろうと少し早足で帰路を辿る。

 サクサクと歩いていくと林を抜け、家についた。
 ドアを横にガラガラと開ける。

「ただいまー」
「おう、おかえり、真奈」

 台所からおじいちゃんがひょっこり顔を出す。
 
部屋に上着を置いてからおじいちゃんのもとへ行くと、畑に行っていたのだろうか、汗だくでタオルを首にかけている。
 
「さっき採ってきたきゅうり食うか? うんまいぞ」
「食べるー!」

 おじいちゃんがホイときゅうりを渡してくる。

 シャキッと歯ごたえのあるきゅうりを、味噌をつけて丸ごと食べた。

「おいしい~」
 
 しょっぱさときゅうりのみずみずしさが抜群に合っていた。
 

 夕食は冷やし中華だった。
 具材にはさっき採ったと言っていたきゅうりが使われていた。
 ツルッとした麺は程よく酸っぱくて美味しかった。
 
 
 夜、布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
 目が冴えている。
 
 今日の出来事が自然と頭の中を駆け巡る。
 
 夢みたいで、でも夢じゃない。
 
 ルファと明日も遊ぶのだから寝なきゃいけないのはわかっている。
 
 けれど、弾む気持ちはわたしをなかなか寝かせてくれなかった。
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