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第二章 幼馴染と変化する日々
第六話 幼馴染は誘われる
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理代『久須美さん、休み時間になると常に誰かと話してる気がするんだけど』
『話の途中に割って入るのは申し訳ないし』
『でも、キーホルダー拾ってもらったお礼をちゃんと言わないのも悪いし……』
『どどどどうしよう!』
ポケット内のスマホがやたら振動するなと思っていたら、理代から何通もLILIが来ていた。
だいぶ焦っている様子。
教室では平然と座っているように見えるが。
多久『まあまあ、一旦落ち着けって』
理代『落ち着いていられないよ! 次、六時間目だよ!』
多久『まずは深呼吸だ』
理代『すーはー』(深呼吸するくまのスタンプ)
『その次は?』
多久『ちょうど久須美さんが理代の近くにいる。今がチャンスだ』
理代『いきなり急展開!?』
多久『うじうじ悩むより、早く言ったほうが楽になると思うぞ』
『おまけに今ならラッキーなことに一人だ』
『行って来い』
長い間悩むよりも思いきって実行したほうがすっきりして気が晴れるものだ。
勢いでいったって案外となんとかなる。
理代『昨日の件なのですが、キーホルダー拾ってくれてありがとうございます。でいいんだよね?』
多久『ちょっと硬すぎるけど、だいたいそんな感じ』
『同級生相手なんだから、もっと気楽に』
理代『わかった。気楽な感じ、だね? いってくる……』
文面から不安感を露わにしながらも、理代は静かに席を立った。
そして近くにいる久須美へと声をかける。
「あ……、あのっ……」
「ん? 橘チャンだよね、どしたの?」
久須美は理代がいきなり話しかけてもスムーズに言葉を返す。会話慣れしているのだろう。
「き、昨日……の」
「昨日……? あー、くまのキーホルダーの件?」
久須美のその返答に、しきりに頷く理代。
「あ、あああありがとうっ!」
声量をミスったのか、思ったよりも大声で礼を言う。
いきなり礼を言われて、久須美は戸惑ったりしないのだろうかと俺は疑問に思ったが、
「あ! お礼言い忘れちゃったからってことね。いえいえ、こちらこそー」
さすがは人気者の久須美だ。
理代の少ない台詞から何を伝えたいのかを的確に読み取っていた。
俺は無事伝えられて良かったなという意味合いを込めて理代に視線を送る。
理代はホッとしたような、まだ緊張が抜けきれていないような曖昧な表情を浮かべていた。
「え、と。それで、その……」
「ん?」
理代が再び久須美に向き直る。
あれ、まだ会話が続くのか……?
「こ、このキーホルダーは、く、くましおっていう……キャラクター、で……」
「そうなんだ! 塩でできてるって設定なの?」
理代はこくこくとロボットのように頷く。
「面白いクマチャンだねー!」
「あ、あの、これは、ガチャで手に入れて……」
俺はその言葉で思い出す。
昨日、久須美がどこで買ったのー?と質問したのに答えられなかったことを。
そうか。
昨日言えなかった答えを今伝えようとしているんだな。
理代が一歩前に踏み出して頑張っている。
俺はそっと背中を押したい気持ちに駆られた。
「ガチャかあ! ガチャといえば近くのショッピングモールにいーっぱいあるよね! あ、放課後暇だったりしない? 見に行こうよ!」
「え、あ、はいっ」
早業すぎて一瞬何が起こったのかわからなかった。
流れるように理代のことを誘ったように見えた。というか誘った。間違いなく誘っていた。
そして、肝心の理代。
あっさり了承している。が、理解しているのだろうか。パニックでなんとなく返事しているだけにも見える。
「茜のことも誘っていいー?」
「え、あ、はいっ」
さっきと全く同じ返答をしている。
大丈夫だろうか。
その後すぐに鐘が鳴り、LILIをする時間がなかった。
六時間目が終わったあとに連絡をとる。
理代『たーくん、久須美さんとの会話聞こえてた?』
多久『ああ。放課後誘われてなかったか?』
理代『そうなんだよ。放課後に遊ぶなんて、ちょっと心の準備ががが』
『でも、せっかく誘ってくれたのに断るのは悪いし……』
『どうしよう。これから、わたし史上一番のピンチはじまる?』
多久『頑張って!』(魔法使いの応援スタンプ)
理代『見捨てないで! たーくん!!』
多久『まあ、楽しんでおいで』
授業中に色々考えてみたが、理代が前進するにはこういう機会が必要なのかもしれない。不安はあるが。
理代『それが未知の世界へ行くわたしに向けて告げる言葉か!?』
多久『未知の世界って……日本国内なのは確定してるから大丈夫だろ』
理代『陽キャの世界はわたしにとって外国みたいなものなんだよ!』
理代は友達が欲しいのか、欲しくないのか。
欲しいけれど、そのためのハードルが高く、恐れているというところだろうか。
一種の自己矛盾に近いものを感じる。
多久『けど、その壁乗り越えないと仲の良い友達は作れないと思うぞ。何か困ったことがあればLILIで助けるからさ』
理代『うぅ……放課後、がんばっていってきます……』
多久『いってらっしゃい!』(魔法使いが手を振るスタンプ)
チャットを終えると、ちょうど久須美と椎川が理代に話しかけるところだった。
そんな光景を横目に、微かな不安を押しのけて、俺は一人帰路についた。
『話の途中に割って入るのは申し訳ないし』
『でも、キーホルダー拾ってもらったお礼をちゃんと言わないのも悪いし……』
『どどどどうしよう!』
ポケット内のスマホがやたら振動するなと思っていたら、理代から何通もLILIが来ていた。
だいぶ焦っている様子。
教室では平然と座っているように見えるが。
多久『まあまあ、一旦落ち着けって』
理代『落ち着いていられないよ! 次、六時間目だよ!』
多久『まずは深呼吸だ』
理代『すーはー』(深呼吸するくまのスタンプ)
『その次は?』
多久『ちょうど久須美さんが理代の近くにいる。今がチャンスだ』
理代『いきなり急展開!?』
多久『うじうじ悩むより、早く言ったほうが楽になると思うぞ』
『おまけに今ならラッキーなことに一人だ』
『行って来い』
長い間悩むよりも思いきって実行したほうがすっきりして気が晴れるものだ。
勢いでいったって案外となんとかなる。
理代『昨日の件なのですが、キーホルダー拾ってくれてありがとうございます。でいいんだよね?』
多久『ちょっと硬すぎるけど、だいたいそんな感じ』
『同級生相手なんだから、もっと気楽に』
理代『わかった。気楽な感じ、だね? いってくる……』
文面から不安感を露わにしながらも、理代は静かに席を立った。
そして近くにいる久須美へと声をかける。
「あ……、あのっ……」
「ん? 橘チャンだよね、どしたの?」
久須美は理代がいきなり話しかけてもスムーズに言葉を返す。会話慣れしているのだろう。
「き、昨日……の」
「昨日……? あー、くまのキーホルダーの件?」
久須美のその返答に、しきりに頷く理代。
「あ、あああありがとうっ!」
声量をミスったのか、思ったよりも大声で礼を言う。
いきなり礼を言われて、久須美は戸惑ったりしないのだろうかと俺は疑問に思ったが、
「あ! お礼言い忘れちゃったからってことね。いえいえ、こちらこそー」
さすがは人気者の久須美だ。
理代の少ない台詞から何を伝えたいのかを的確に読み取っていた。
俺は無事伝えられて良かったなという意味合いを込めて理代に視線を送る。
理代はホッとしたような、まだ緊張が抜けきれていないような曖昧な表情を浮かべていた。
「え、と。それで、その……」
「ん?」
理代が再び久須美に向き直る。
あれ、まだ会話が続くのか……?
「こ、このキーホルダーは、く、くましおっていう……キャラクター、で……」
「そうなんだ! 塩でできてるって設定なの?」
理代はこくこくとロボットのように頷く。
「面白いクマチャンだねー!」
「あ、あの、これは、ガチャで手に入れて……」
俺はその言葉で思い出す。
昨日、久須美がどこで買ったのー?と質問したのに答えられなかったことを。
そうか。
昨日言えなかった答えを今伝えようとしているんだな。
理代が一歩前に踏み出して頑張っている。
俺はそっと背中を押したい気持ちに駆られた。
「ガチャかあ! ガチャといえば近くのショッピングモールにいーっぱいあるよね! あ、放課後暇だったりしない? 見に行こうよ!」
「え、あ、はいっ」
早業すぎて一瞬何が起こったのかわからなかった。
流れるように理代のことを誘ったように見えた。というか誘った。間違いなく誘っていた。
そして、肝心の理代。
あっさり了承している。が、理解しているのだろうか。パニックでなんとなく返事しているだけにも見える。
「茜のことも誘っていいー?」
「え、あ、はいっ」
さっきと全く同じ返答をしている。
大丈夫だろうか。
その後すぐに鐘が鳴り、LILIをする時間がなかった。
六時間目が終わったあとに連絡をとる。
理代『たーくん、久須美さんとの会話聞こえてた?』
多久『ああ。放課後誘われてなかったか?』
理代『そうなんだよ。放課後に遊ぶなんて、ちょっと心の準備ががが』
『でも、せっかく誘ってくれたのに断るのは悪いし……』
『どうしよう。これから、わたし史上一番のピンチはじまる?』
多久『頑張って!』(魔法使いの応援スタンプ)
理代『見捨てないで! たーくん!!』
多久『まあ、楽しんでおいで』
授業中に色々考えてみたが、理代が前進するにはこういう機会が必要なのかもしれない。不安はあるが。
理代『それが未知の世界へ行くわたしに向けて告げる言葉か!?』
多久『未知の世界って……日本国内なのは確定してるから大丈夫だろ』
理代『陽キャの世界はわたしにとって外国みたいなものなんだよ!』
理代は友達が欲しいのか、欲しくないのか。
欲しいけれど、そのためのハードルが高く、恐れているというところだろうか。
一種の自己矛盾に近いものを感じる。
多久『けど、その壁乗り越えないと仲の良い友達は作れないと思うぞ。何か困ったことがあればLILIで助けるからさ』
理代『うぅ……放課後、がんばっていってきます……』
多久『いってらっしゃい!』(魔法使いが手を振るスタンプ)
チャットを終えると、ちょうど久須美と椎川が理代に話しかけるところだった。
そんな光景を横目に、微かな不安を押しのけて、俺は一人帰路についた。
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