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第二章「思い入れがない家」
付かずに済んだ嘘
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「思ったよりも寒いですね。マフラーを巻いてきて、正解でした。
はにかんだ顔で、百瀬は笑う。
美空にとって寒さは敵ではないので、着込んだ彼を見るにこう言った。
「雪だるま‥」
「誰がですか。俺とは言わせませんよ」
別段、百瀬が極端に寒がりというわけではない。
美空の適応能力が、人並み外れているだけなのだ。
一つ間違えないで欲しい。
暑がりという話ではない。「適応能力」が、化け物級なのだ。
その証拠に、氷のように手が冷たい。
ふとした沈黙に、何かを思い出したような身振りで俺は言ってみせた。
「先輩そういえば‥、よいっしょっと。この資料と地図、見てください」
先輩に渡した重い資料は、東雲家‥。つまり美空の実家。その、ある事件たちの資料だった。
「使用人、М氏の失踪」
「豪邸家族、そして使用人たちの虐殺。犯人は、謎に包まれた黒い影か」
随分面白おかしく書いてある。
「先輩、一応確認のため聞きます。先輩は、何処まで自分がしたことを憶えていますか」
禁断の質問を問いかけた。
俺は、それがパンドラの箱だとずっと勘違いしていた。
だけどこれを聞かないと、付けられたはずの嘘もばれてしまう。
最近ではそう思うようになった。
「私が‥。私が憶えていることは。私があいつらを殺したこと。ゆきが、伊時雪美が、私の誕生日の日に自殺したこと。この二つで、使用人の失踪は知らない。そもそも、その使用人が私と面識がなかったかもしれない」
一瞬驚いた。
俺は家族を殺したことは、まったく憶えてないと勘違いしていた。
その事実を知らなければ、また美空と読者に嘘を付くところだった。
「先輩は、虐殺事件の唯一の生き残り。
その結果は、先輩にとってどうなのだろう。独りになるくらいだったら、いっそ自分も殺されたかった、か。
それとも、死んでいた家族たちの分まで生きようと、強く決心した、か。
どちらにせよ俺は先輩の意思が、どう傾いているのかは分からない。
ただ、先輩が不幸なのか、幸運なのか。そう考えると、それは幸運だったのかもしれない。」
と、こんな風に。
はにかんだ顔で、百瀬は笑う。
美空にとって寒さは敵ではないので、着込んだ彼を見るにこう言った。
「雪だるま‥」
「誰がですか。俺とは言わせませんよ」
別段、百瀬が極端に寒がりというわけではない。
美空の適応能力が、人並み外れているだけなのだ。
一つ間違えないで欲しい。
暑がりという話ではない。「適応能力」が、化け物級なのだ。
その証拠に、氷のように手が冷たい。
ふとした沈黙に、何かを思い出したような身振りで俺は言ってみせた。
「先輩そういえば‥、よいっしょっと。この資料と地図、見てください」
先輩に渡した重い資料は、東雲家‥。つまり美空の実家。その、ある事件たちの資料だった。
「使用人、М氏の失踪」
「豪邸家族、そして使用人たちの虐殺。犯人は、謎に包まれた黒い影か」
随分面白おかしく書いてある。
「先輩、一応確認のため聞きます。先輩は、何処まで自分がしたことを憶えていますか」
禁断の質問を問いかけた。
俺は、それがパンドラの箱だとずっと勘違いしていた。
だけどこれを聞かないと、付けられたはずの嘘もばれてしまう。
最近ではそう思うようになった。
「私が‥。私が憶えていることは。私があいつらを殺したこと。ゆきが、伊時雪美が、私の誕生日の日に自殺したこと。この二つで、使用人の失踪は知らない。そもそも、その使用人が私と面識がなかったかもしれない」
一瞬驚いた。
俺は家族を殺したことは、まったく憶えてないと勘違いしていた。
その事実を知らなければ、また美空と読者に嘘を付くところだった。
「先輩は、虐殺事件の唯一の生き残り。
その結果は、先輩にとってどうなのだろう。独りになるくらいだったら、いっそ自分も殺されたかった、か。
それとも、死んでいた家族たちの分まで生きようと、強く決心した、か。
どちらにせよ俺は先輩の意思が、どう傾いているのかは分からない。
ただ、先輩が不幸なのか、幸運なのか。そう考えると、それは幸運だったのかもしれない。」
と、こんな風に。
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