50 / 62
色気の正体
五十一話
しおりを挟む私が五つになった時だった。母が、ガタイの良い知らない男の人をつれてきた。その人はなぜだがずっと家にいた。知らない男の、大きな声が毎日部屋中に響いていた。それに私は、少し怖かった。
気付けば弟ができ、私の居場所はなくなった。直接何かを言われた訳ではない。ただ私を見る目が、二人とも汚くて、同じ人間を見ている目ではなかった。それほどに、私の中にある半分の血が汚らわしいものだと知った。その血を死ぬ程呪った。だけど、居場所なんて戻ってくる筈なんてなかった。
苦痛だった。暗い毎日を耐えて耐えて、いつのまにか私はぼーっとしていることが多くなった。ふいに母が気まぐれでした、話を思い出す。私には、腹違いで九つ離れた兄がいることを知った。
頭の中で繰り返し、兄のことを考えた。兄も私と同じで、家の中でひとりぼっちなのかな、急に兄にあったら迷惑かな、と子どもながらに考えていた。だけど私には、兄に会う術がなくて時間だけが過ぎていった。
そんな時、転機が訪れた。私が、九つのときだった。雨が続いた六月中旬。じめじめとしていて、憂鬱だった。近くの頭がいいと有名な、公立高校を小さな青い傘を差して、通ったときが始まりだった。
名前も知らない兄を偶然みかけたのを。私は桜庭、と呼ばれたあの男が本当に兄だったかは分からない。だけど、私とよく似ている目をしていた。目が合った気がした。冷たい、この世なんてどうでもいい、という目立った。思わず、私は笑みがこぼれてしまった。あぁ、私はこの人しかいないんだ、と思い知らされた。
そこから私は自分の血に取り憑いたように、兄のことを考えた。兄の名前は、兄の好きなものは。私は、桜庭という苗字しかしらない。もう他のことなんて、どうでも良かった。ぎくしゃくしていた家も、母も、父の繫がっていない義父も、可愛がられている弟も、私の世界にはいなかった。
来る年も、来る年も兄のことを考え続けた。いつかの先生に言われた。「お前は、中学生に妙に色っぽいよな」と。その先生は、ひと回り年を取った偉い人に怒られていたけど、私は知っていた。
兄という存在が、どうしようもなく私を女にしたのだと。男の人を誘う甘い声も、髪を掻き分けるときに使う艶かしい仕草も、兄のことを考えていたらいつのまにか自分のものになっていた。
人に興味を向けるなんて初めてだった。いくら皆と同じように過ごしていても、見透かした大人たちに影があると言われ、色っぽいと言われた。時折、下品に言われたことも合った。だけど、それでもよかった。それで、兄に気を魅くことができれば本能だった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる