雨の日が来たら、君を思い出すだろう。

雪莉月花

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色気の正体

五十一話

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 私が五つになった時だった。母が、ガタイの良い知らない男の人をつれてきた。その人はなぜだがずっと家にいた。知らない男の、大きな声が毎日部屋中に響いていた。それに私は、少し怖かった。






 気付けば弟ができ、私の居場所はなくなった。直接何かを言われた訳ではない。ただ私を見る目が、二人とも汚くて、同じ人間を見ている目ではなかった。それほどに、私の中にある半分の血が汚らわしいものだと知った。その血を死ぬ程呪った。だけど、居場所なんて戻ってくる筈なんてなかった。





 苦痛だった。暗い毎日を耐えて耐えて、いつのまにか私はぼーっとしていることが多くなった。ふいに母が気まぐれでした、話を思い出す。私には、腹違いで九つ離れた兄がいることを知った。






 頭の中で繰り返し、兄のことを考えた。兄も私と同じで、家の中でひとりぼっちなのかな、急に兄にあったら迷惑かな、と子どもながらに考えていた。だけど私には、兄に会う術がなくて時間だけが過ぎていった。






 そんな時、転機が訪れた。私が、九つのときだった。雨が続いた六月中旬。じめじめとしていて、憂鬱だった。近くの頭がいいと有名な、公立高校を小さな青い傘を差して、通ったときが始まりだった。






 名前も知らない兄を偶然みかけたのを。私は桜庭、と呼ばれたあの男が本当に兄だったかは分からない。だけど、私とよく似ている目をしていた。目が合った気がした。冷たい、この世なんてどうでもいい、という目立った。思わず、私は笑みがこぼれてしまった。あぁ、私はこの人しかいないんだ、と思い知らされた。




 そこから私は自分の血に取り憑いたように、兄のことを考えた。兄の名前は、兄の好きなものは。私は、桜庭という苗字しかしらない。もう他のことなんて、どうでも良かった。ぎくしゃくしていた家も、母も、父の繫がっていない義父も、可愛がられている弟も、私の世界にはいなかった。









 来る年も、来る年も兄のことを考え続けた。いつかの先生に言われた。「お前は、中学生に妙に色っぽいよな」と。その先生は、ひと回り年を取った偉い人に怒られていたけど、私は知っていた。






 兄という存在が、どうしようもなく私を女にしたのだと。男の人を誘う甘い声も、髪を掻き分けるときに使う艶かしい仕草も、兄のことを考えていたらいつのまにか自分のものになっていた。






 人に興味を向けるなんて初めてだった。いくら皆と同じように過ごしていても、見透かした大人たちに影があると言われ、色っぽいと言われた。時折、下品に言われたことも合った。だけど、それでもよかった。それで、兄に気を魅くことができれば本能だった。
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