48 / 62
禁忌でも、愛さずにはいられない
四十九話
しおりを挟む
わざとらしく聞いた先生は、泣いてるようだった。携帯を通して、鼻をすする音が聞こえてきた。なんで、泣いてるんですか、なんて軽口を叩ける仲では、もうなかった。
先生が、ごめんね、と呟いた。意味が分からなかった。先生らしくなかった。
「ごめんね、私、違うの…。私、あなたのことが好きで、間違った道に進んで欲しくなくて。ずっと、ずっと見てきたのに、やっぱりダメね。あなたに嫌われたくなくて、学生時代、ずっと肯定してきた。だけど、それだと私は、ダメな先生だっていうことに気付いた」
「先生、もう、昔のことです。昔、寄り添ってくれる先生が好きでした。だけど、今はもう必要ない。必要ないくらいの人、悠花が現れたから。だから、さようなら」
静かに電話を切る。そして流れるように、先生の電話番号を消した。通話履歴も綺麗さっぱり消した。通話拒否にもした。もうこれで、先生と繫がらない。
我ながら酷い人間だと思う。必要あるものは利用して、必要ないものは捨ててきた。昔から、その方法でなんとか生きてきた。いつのまにか感情が死んでいる筈だった。だけど、なんでこんなに胸が苦しいんだ。
俺は、完全には冷たいに人間には慣れてなかったんだ。その証拠に、息をするだけで苦しい。あぁ、いっそ冷たい人間になれてしまえばいいのに。
「泣かないで、悠治。私、嫌よ、その顔」
母性に満ちた声で、冷たい手で、俺の髪を撫でる。ガキの頃だって、滅多に泣かなかった。親父がいなくなったときも、絶望だけで泣きなどしなかった。なのに、消していたスイッチが強制的にオンになるようにいろんな感情が溢れてきた。洪水のようだった。
「私の胸、ぎゅううってする?」
俺は無言で抱きついた。柔らかい胸が、唇にひっつく。この感触、懐かしい。
事実は、儚かった。覚悟はしているつもりだったが、俺の心はもろかった。欠片が崩れ落ちれば、あとは早かった。浸食される、心。いつのまにか、真っ黒な穴がぽっかりと空いていた。
黒い影が、俺を覆う。この女さえいなければ、親父の血を独り占めできたのに。親父の血を引いていることが、甚だしかった。嫌悪、嫌悪、嫌悪。一呼吸して、嫌悪。こいつの胸の中で、目元が大きく開く感覚がした。暗くて、見えないが、しっかりと伝わるこいつの脈。ゆっくり聞くと、弱いのに力強い生命を感じた。
両手で、こいつの首を締める。より強くなる、脈動。こいつが呼吸するたび、喉が上から下へと揺られる。歯がかちかちと鳴る音が、聞こえた。俺だと思って噛み締めたが、鳴り止まない。あぁ、そうか。こいつ、怯えてるんだ。かわいそうに。
…かわいそうに。
「…あ」
手に入れた力を強くする。こいつが、ひゅうひゅうと息をする。目元が揺れている。苦しそうに、あえぐ。顔を紅潮させて、シーツを思いっきり掴んだ。
「あ、あ、ああああああああああああああ」
先生が、ごめんね、と呟いた。意味が分からなかった。先生らしくなかった。
「ごめんね、私、違うの…。私、あなたのことが好きで、間違った道に進んで欲しくなくて。ずっと、ずっと見てきたのに、やっぱりダメね。あなたに嫌われたくなくて、学生時代、ずっと肯定してきた。だけど、それだと私は、ダメな先生だっていうことに気付いた」
「先生、もう、昔のことです。昔、寄り添ってくれる先生が好きでした。だけど、今はもう必要ない。必要ないくらいの人、悠花が現れたから。だから、さようなら」
静かに電話を切る。そして流れるように、先生の電話番号を消した。通話履歴も綺麗さっぱり消した。通話拒否にもした。もうこれで、先生と繫がらない。
我ながら酷い人間だと思う。必要あるものは利用して、必要ないものは捨ててきた。昔から、その方法でなんとか生きてきた。いつのまにか感情が死んでいる筈だった。だけど、なんでこんなに胸が苦しいんだ。
俺は、完全には冷たいに人間には慣れてなかったんだ。その証拠に、息をするだけで苦しい。あぁ、いっそ冷たい人間になれてしまえばいいのに。
「泣かないで、悠治。私、嫌よ、その顔」
母性に満ちた声で、冷たい手で、俺の髪を撫でる。ガキの頃だって、滅多に泣かなかった。親父がいなくなったときも、絶望だけで泣きなどしなかった。なのに、消していたスイッチが強制的にオンになるようにいろんな感情が溢れてきた。洪水のようだった。
「私の胸、ぎゅううってする?」
俺は無言で抱きついた。柔らかい胸が、唇にひっつく。この感触、懐かしい。
事実は、儚かった。覚悟はしているつもりだったが、俺の心はもろかった。欠片が崩れ落ちれば、あとは早かった。浸食される、心。いつのまにか、真っ黒な穴がぽっかりと空いていた。
黒い影が、俺を覆う。この女さえいなければ、親父の血を独り占めできたのに。親父の血を引いていることが、甚だしかった。嫌悪、嫌悪、嫌悪。一呼吸して、嫌悪。こいつの胸の中で、目元が大きく開く感覚がした。暗くて、見えないが、しっかりと伝わるこいつの脈。ゆっくり聞くと、弱いのに力強い生命を感じた。
両手で、こいつの首を締める。より強くなる、脈動。こいつが呼吸するたび、喉が上から下へと揺られる。歯がかちかちと鳴る音が、聞こえた。俺だと思って噛み締めたが、鳴り止まない。あぁ、そうか。こいつ、怯えてるんだ。かわいそうに。
…かわいそうに。
「…あ」
手に入れた力を強くする。こいつが、ひゅうひゅうと息をする。目元が揺れている。苦しそうに、あえぐ。顔を紅潮させて、シーツを思いっきり掴んだ。
「あ、あ、ああああああああああああああ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる