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禁忌でも、愛さずにはいられない

四十九話

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 わざとらしく聞いた先生は、泣いてるようだった。携帯を通して、鼻をすする音が聞こえてきた。なんで、泣いてるんですか、なんて軽口を叩ける仲では、もうなかった。





 先生が、ごめんね、と呟いた。意味が分からなかった。先生らしくなかった。





「ごめんね、私、違うの…。私、あなたのことが好きで、間違った道に進んで欲しくなくて。ずっと、ずっと見てきたのに、やっぱりダメね。あなたに嫌われたくなくて、学生時代、ずっと肯定してきた。だけど、それだと私は、ダメな先生だっていうことに気付いた」





「先生、もう、昔のことです。昔、寄り添ってくれる先生が好きでした。だけど、今はもう必要ない。必要ないくらいの人、悠花が現れたから。だから、さようなら」







 静かに電話を切る。そして流れるように、先生の電話番号を消した。通話履歴も綺麗さっぱり消した。通話拒否にもした。もうこれで、先生と繫がらない。




 我ながら酷い人間だと思う。必要あるものは利用して、必要ないものは捨ててきた。昔から、その方法でなんとか生きてきた。いつのまにか感情が死んでいる筈だった。だけど、なんでこんなに胸が苦しいんだ。







俺は、完全には冷たいに人間には慣れてなかったんだ。その証拠に、息をするだけで苦しい。あぁ、いっそ冷たい人間になれてしまえばいいのに。
 






「泣かないで、悠治。私、嫌よ、その顔」




 母性に満ちた声で、冷たい手で、俺の髪を撫でる。ガキの頃だって、滅多に泣かなかった。親父がいなくなったときも、絶望だけで泣きなどしなかった。なのに、消していたスイッチが強制的にオンになるようにいろんな感情が溢れてきた。洪水のようだった。





「私の胸、ぎゅううってする?」





 俺は無言で抱きついた。柔らかい胸が、唇にひっつく。この感触、懐かしい。






 事実は、儚かった。覚悟はしているつもりだったが、俺の心はもろかった。欠片が崩れ落ちれば、あとは早かった。浸食される、心。いつのまにか、真っ黒な穴がぽっかりと空いていた。






 黒い影が、俺を覆う。この女さえいなければ、親父の血を独り占めできたのに。親父の血を引いていることが、甚だしかった。嫌悪、嫌悪、嫌悪。一呼吸して、嫌悪。こいつの胸の中で、目元が大きく開く感覚がした。暗くて、見えないが、しっかりと伝わるこいつの脈。ゆっくり聞くと、弱いのに力強い生命を感じた。





 両手で、こいつの首を締める。より強くなる、脈動。こいつが呼吸するたび、喉が上から下へと揺られる。歯がかちかちと鳴る音が、聞こえた。俺だと思って噛み締めたが、鳴り止まない。あぁ、そうか。こいつ、怯えてるんだ。かわいそうに。






 …かわいそうに。






「…あ」




 手に入れた力を強くする。こいつが、ひゅうひゅうと息をする。目元が揺れている。苦しそうに、あえぐ。顔を紅潮させて、シーツを思いっきり掴んだ。





「あ、あ、ああああああああああああああ」
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