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禁忌でも、愛さずにはいられない

四十五話

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「ずっと、待ってたのか…。家にいなくてごめん」



「ううん、いつも悠治ばっか待ってたからいいの」



「そうか…」




 俺は時雨の目に触発される。今日は一段と湿って、まとわりつくような目をしている。俺は家の外だというのに、キスを求めた。





「時雨、もう無理だ。キスしていい?」




 時雨がこくりと頷くと、俺は時雨の髪を撫でる。そうして唇を舌で遊ぶ。唇の柔らかさを確かめ、満足してから舌を口の中へ押し込む。














「おさまったらちゃんとベットで抱くから、ここでさせて…」










 時雨は壁に手をついて、いいよと耳元で囁いた。片手で下着類を押し出すと、既に濡れていた時雨のそこにゆっくりと入る。そこはいつもよりあったかくて、包まれているような感触だった。






 俺は徐々に律動を速くし、直に時雨に自身を注ぎ込む。時雨が小さく痙攣すると、首を舐めてやる。そしてそこに甘噛みし、時雨を持ち上げた。乱暴にベットに落とすと、息をも飲み込むような激しい口づけをした。どちらの唾液が自分のなのか、分からなくなった。




 今度は時雨も俺も生まれたときの姿になって、求めあうように抱き合う。俺が、床に寝転んで、その上に時雨が寝そべった。床は背中を容赦なく潰して、痛みが何度も走る。だけど時雨が悠治、悠治と名前を呼ぶ程、それを忘れて興奮が高まった。






「時雨、時雨……」





 俺の声が、玄関に消えていく。いつもなら響く声だが、玄関だからか、余韻は一切残らなかった。それがなんだか急に悲しくなって、同じように時雨が今にも消えそうで怖くなった。




 
 時雨も何故だかぽろぽろと涙を零していて、息をするのが苦しそうだった。涙が俺の首筋に落ちて、床に流れる。玄関のドアは閉めているのに、雨が横殴りに入り込んでいるようだった。俺は目の下を、吸い取るように舐めた。だけど、時雨が泣き止むことはなかった。









「お前はもう、俺のもんだ。誰にも渡したりしない。…だからもう泣くな」




 低い、唸るような声で囁いた。耳にかかった息をくすぐったそうにしながら、時雨は悲しそうに呟いた。



「それが、禁忌だとしても?」



 ためらわずに、力を込めて、その言葉を口にした。




「…あぁ。お前の正体が何であろうと、手放さない」




「ありがとう…」



 静かに告げられ、時雨は唇をよせてきた。俺もそれに応え、深い口づけを交わす。まだ震えていた唇は、柔らかかった。俺は目を閉じる。俺の体が、全身に時雨を感じる。






 たとえこいつの正体が、殺したい程憎んでいた相手でも、愛することを辞められないだろう。だってもう、こいつは俺のもので、俺はこいつのものなんだから。愛を知ってしまったやつは、愛がない悲しみに耐えられない。俺は、もうこいつしかいない。こいつがいなければ、死んでしまう。








「…………ん」





 時雨が、呟く。だけど、俺は聞こえないふりをして、時雨の首筋に優しく吸い付いた。赤い模様は、花のように広がって、印のように刻まれた。これが、永遠に消えなければいいのに。そうすれば、俺はこいつとずっとつながっていられる。そんな思いで、もう一度噛み付くようにこいつの首に跡を付けた。












 


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