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懐かしい人
三十二話
しおりを挟む「どんな生徒って言われてもねぇ。強いて言えば、成績はいつも上位。部活でキャプテンを勤め上げて、尚かつ人当たりもいい。あ、それに女子にもモテてた」
「なんですか、その模範少年…。俺、知らないですよ、そんな模範少年」
「確かに、模範少年だったわね」
先生は、俺が注いだビールに手を伸ばし、少しずつ飲んでいく。唇がだんだん湿って、いつのまにかグラスは空になっていた。俺がグラスにビールを注ぐと、ビール缶は空になった。早いですね、と俺は言うと、えへへ、と先生は笑った。
「だけど、桜庭君、後ろに影がちらついててね、そこが魅力的だった。私ね、ちょっとだけ君が好きだったんだよ」
「そんな冗談…」
「冗談じゃない」
先生が勢いよく、グラスに残っていたビールを飲み干す。少し緑がかった、そのグラスの縁を、先生は指先で撫でて、遊んでいた。目元はずっとグラスにあって、昔を思い出すような顔で言った。呂律があまり、回っていなかった。
「ほんとうに好きらった。昔のわらしとあなたは、せんせいと、せいとらったから…」
先生はグラスで遊ぶには飽き足りず、俺が開けた缶ビールが半分残っているのを見つけて、缶ビールを掴んだ。口に直接運んでいるように見えたので、俺は缶ビールを机を挟んでいる前から奪い取った。先生は、それが不満だったらしくて、手を伸ばした。俺は呆れて、あのグラスを無理矢理持たせ、ビールを自分で飲み干した。
「…あぁ」
あからさまにふてくされたので、もう少しだけ意地悪をすることにした。
「それなら俺も少しだけ、先生の事が好きでしたよ」
お酒に弱いのか、たった一本のビールで酔った先生は、顔をほんのり赤くし、首をかしげた。俺の言葉を理解しているのか分からない先生は、またグラスで遊びはじめた。それをいいことに、俺は先生に抱いていた、昔の、しまっていた感情を吐き出した。
「誰も理解してくれない考えに、寄り添ってくれる人がいたら、その人のことが好きなんじゃないかって勘違いしますよ」
「わらしがすきらったこと、かんちがいだったの?」
その様子では、自分が言った言葉もよく覚えていなかったんだと思う。自分が昔、俺の先生だったという事実も、忘れているのではないかというぐらい、自然と聞いてきた。
「えぇ、勘違いでしたけど…」
昔は、先生のこと“恋愛”の好きだと勘違いしていた。あの時は、必死だった。大切な人に置いてかれた、悲しさで、こころがいっぱいいっぱいだった。
「俺にそり反ってくれる人は、先生以外いないと思ってましたから」
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