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同じ匂いをさせる同僚

十五話

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「俺、そのコンビニの前のマンションに住んでんの。よく窓の外見てると、森島いるよ」



「へぇ」



 いちいち、コンビニに入る人のことを覚えているのか、暇な人だな、とこれ以上変人と関わりたくない一心で、素っ気ない返事で会話を止める。結局、そいつは何が言いたかったのか分からなかった。だが、あからさまに俺は興味がないと言っているようで、ほんの少しだけ申し分けなかった。思い切って、話題を振ってみた。




「桜庭って、普段何してるの」




 さ、く、ら、ば、と自分の口から聞き慣れない、響きを奏でた。甘えるような声だったから、すこし驚いた。桜庭は、一瞬躊躇したように見えたが、やけになったように、つまらない秘密を暴露した。





「俺は、ただ何かを探すように、窓の外から景色を見つめてる。…形のないものを探して、飽きずに、煙草をふかしながら見ているよ」



「つまらない男…」




「なんだよ、いいだろ別に。そういう嵐太はどうなんだ」



 いかにも不満そうな顔がそこにあり、そのもっと奥には孤独が隠れている気がした。だけど、どこか咎められても気にしない強いなにか、いや強がりがちらついていた。





「あ…」





 思い出したように、声を上げる。もったいなくもずっと、表情だけを観察していて、肝心の声はよく聞いていなかった。だけど今俺の名前を、その艶かしい低音で呼ばれたと思うと、こころが勝手に喜んだ。





「ん、お前嵐太だろ。何不思議そうな顔、してるんだ」





 前触れもなく、急に距離を詰めてきたこいつが少し怖かった、など言える筈なかった。人間と近い距離を保っていると、こころが壊れてしまう。だけど直に、冷たい壁を跨いだ一定の距離を心の奥でとられていることを知り、安堵のため息を零す。こいつも、同じだ。もしかしていると、つくっている顔すべてが作り物かもしれない。俺は無表情で、こいつは、つくりものの顔。そうでもしないと、こころが壊れてしまうから。多分もろいのだ、俺たちは。






「別に…。そんな顔、していない」





 無愛想に答えると、苦笑して俺の頭を乱暴に掻き回す。やっぱり冷たいこいつの手から離れようと、小声で、いたいって、と呟いた。声は聞こえる事なく、お祭り騒ぎが抜け切れていないオフィスに消えていった。桜庭は、歯をみせて笑う。口の端が、かすかだけど引きつって見えた。




 俺は、なんだかこいつに昔の境遇を知って欲しくなった。そしてあばよくば、慰めて欲しかった。焦った表情で、口走る。




「俺は、何もしていない。何もせずに、ただ時間が過ぎている」





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