閑却な日の思い出

雪莉月花

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雨の日の思い出

二十話

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「なぁ、まこと。俺は今、ずっと泥沼にはまってるんだ。もがいても、もがいてもどんどん落ちていくばかり。お前は、俺を救えるか? お前なら俺を地獄から地へ救えるか」





「わから…ない」


 よく、わからない。




「わからないわけ、ないだろ。救えるか、救えないか。ぜんぶお前の意思で決まるんだから」



「わからないって…」



「そうやってっ…。お前はさ、ずっと現実から逃げていくんだ。過去にも未来にも、いまだって逃げている。お前はそんなに着飾ってるけど、心は乏しいままなんだ。結局俺もお前も変わらない」





「しらない、しらない、しらないっ。私はずっと忘れていたのに、あんたに捨てられたこと。なのに、軽々しくいわないでよっ」



 私は柄にもなく、短い悲鳴を難度も上げた。彼は一瞬で弱ってしまって、寂れた顔を老け込ませて、ごめんといった。




「…ずるい、そうやって私をなにもいえなくさせる。ぜんぶ、あんたが悪いのに。ほんとに、ずるい」




 一滴二滴と、くすんだ宝石が落ちてくる。大粒の、宝石だ。結局間に合わなかった。服も、タイツも汚染されるように暗くなる。




 彼は無言で、私のものだった傘を差し出すと、それきり二人は黙ってしまう。私は静かに泣き続け、ときおり思い出したかのように空を見上げる。緑がかった空が、ずっと睨んできて、私を飲み込もうとしていた。まるで、裏切りだ、裏切りだ、と訴えかけてきているようで耳が痛かった。




「まことっ…」





 ふいに、前から彼の声ではない、精力に満ちあふれた若い声がした。




「ひろ…、くん。なんで、こんなところに」




 白いタートルネックに、今年買ったばかりのキャラメルブラウンのコート。なにもかも新しくて、綺麗で、彼のものに私は責め立てられているような気がした。ふわり、と柔軟剤の匂いに包まれる。








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