閑却な日の思い出

雪莉月花

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雨の日の思い出

十四話

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 でも無理だ。私に、愛おしいものを壊す勇気なんてない。



 また、涙が出てきた。昨日から、どこかおかしくて、大切なパーツが欠けているようだった。なんでもない、ただの日常がたまらなく悲しい。だってこれが、この幸せが嘘かもしれないから。彼を、無意識に重なり合わせた嘘かもしれないから。




 彼という、紛れもない本物が突然目の前に現れて、心がもろくなっている。偽物で、作り替えた私は、本物を前に崩れ始める。







「ひろきぃ…」





 嘘かもしれない名は小さくて、旦那には聞こえなかったのかもしれない。光が充分にそそがれ、目が何度も眩む。小さな鏡に写った自分は、乱れに乱れていた。






ーーーーーーーーーーー




 彼と会ってから1ヶ月がたった。それきり彼の姿は見ていないし、徐々に私は体調を戻していった。




 実のところ、結婚記念日がすぎた日の明くる日、少し長い風邪を引いた。と言っても、一週間寝込む程度で、入院とかいう大事なことではなかった。熱を出した次の日に医者に見てもらうと、過労と診断された。そんな診断とは裏腹に、私は彼が原因なんだと薄々感じている。旦那の手前、本当の理由は言えず、最近忙しかったのでそうかもしれません、とよそ行きの声で医者に伝えた。





 旦那が作る日替わりのおかゆを食べ、一週間後にやっと会社に行けるようになった。風邪を引いて三キロ痩せたが、仕事や家事など日常に溶け込むとすぐに体重を戻していった。



 少し不満で、食事制限を始めようかと旦那に伝えると、旦那はもうちょっとお肉を付けた方がいいよ、と毎日のように心配されてしまった。それでも寝込んだ時についた脂肪が気になり、十分程早起きし、朝のランニングを増やすことにした。





 とにかく、元気になった私は、旦那のいとこでもあり私の友人でもある女性と会う約束をした。



 午後四時十五分過ぎ。コーヒーの香ばしい香りを楽しみながら、大きな木製の時計に目を移す。少し遅れるから、とほんの五分前に連絡が入ったので、カフェオススメのブレンドコーヒーを一杯頼み、丁度運ばれたところだった。






 
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