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また呼び出された

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 休み時間。私は窓辺の一番奥の席__いわゆる主人公席に位置していた。

 少し開けた窓から風が入ってきて、私のポニーテールにされた黒髪をサラサラと揺らす。


「ねえ、ゆい。これ食べてみてよ」

 前の席に座る黒髪の幼なじみに差し出されたタケノコ型のチョコクッキーを手で受け取り、口に入れる。

「もごもご。悪くない味だ。甘いミルク重視」 

「こっちの方が美味しいだろ?」 

「は!? ゆい、こっちも食べてみろ!」

 対抗するように、今度は隣の席の茶髪の幼なじみが、私にキノコ型のチョコクッキーを差し出す。それも受け取って口に放り投げる。

「もごもご。これも悪くない。ちょっとさっきのと比べてビターかな」

「「判定は!?」」

「うーん、引き分け」
 
「白黒つけろよ!」

 祐吾(ゆうご)が勢いよく突っ込み、隼人(はやと)が苦笑いをする。

 私の名前は天至ゆい。天至で「てんじ」と読む。高校一年生。

 私は二人の男子のくだらないタケノコキノコ戦争に巻き込まれていた。

 二人の顔は、メイクに詳しくない私が見ても分かるぐらい整っている。

 祐吾は男前だが隼人に身長が5cm負けていて__本人が気にしていることなので、決していじってはいけない__、隼人は童顔だが185cmという高身長だ。

 この二人のイケメンは、私の幼なじみだ。

「そもそもさ、キノコってまず、フォルムが駄目だよね。チョコとクッキーの融合部分が少ないし。タケノコはそこら辺、ちゃんとサービスしているんだけどなあ。あとキノコは苦い」 

「何言ってんだ! タケノコなんておこちゃまな味じゃねえか!」

 二人は言い争う。

 すると、祐吾は私の右手をとった。

「ゆい。俺の(推し)を選べよ」 

 隼人も負けじと私の左手をとる。

「ゆいは、僕の(推しを選ぶん)だよね?」 

 私は呆れて言う。

「人それぞれの好みがあると思いまーす」

 うへ、クラス中から視線が刺さる刺さる。

 端からみたら、私は両手に花だ。

 二人は幼なじみなのもあって距離感が近いので、無意識にこれをやっているのだろう。

 まあ、”防波堤”として甘んじて受け入れよう。

 



 ん?

 私の下駄箱の中に白い折られた紙が斜めに立て掛かっている。

 手紙__果たし状が入っていた。

 またか。

 帰りのホームルームが終わった後、帰宅部で溢れかえる15時半の下駄箱で私は一応手紙を覗く。

『16時に、西校舎三階の突き当たりにある空き教室にひとりで来てください』

 仕方ない。

 呼び出しに応じるか。

 二人の防波堤をこなすと決めてから1ヶ月。これも週に一度はあることだった。

「どうしたんだ、ゆい」

 隼人が話しかけてくる。私はさっと手紙を隠す。

 防波堤をやっていることは二人には内緒なのだ。

 祐吾も後ろで靴を履き替えていたが、こちらを振り向く。
 

「ちょっと用事あるから先に帰ってて」

「「え……」」

 祐吾と隼人は顔を見合わせる。

 そして、ぶわあっと顔がみるみるうちに赤くなった。 

「か、帰るか……」

「うん……」

 とても初々しいが、実はこの二人は恋人として付き合って一年である。

 私は中学三年生のときにカミングアウトされて、二人がそういう関係だと知った。

 男同士というのは、最近は同性同士を認めよう!という動きは盛んになってきているが、偏見はまだまだ残っている。

 だから、二人のこの関係を知らされているのは私だけだ。

 二人は耳まで赤く染めて、手も繋がずに__だが甘酸っぱい雰囲気を残して__帰っていた。
 お熱いね。

 



 二人は、幼稚園時代から私の天至道場に通う門下生だ。

 10年以上の付き合いだったが、中学校時代は三人ともクラスが別々だった。

 イケメンに成長した祐吾と隼人は、それはそれはおモテになりあそばせた。

 そのせいか、後から知ったことなのだが、二人はストーカーや脅迫被害を受けることがあったらしい。

 私は「なんで言わなかったんだ」とめちゃくちゃ叱った。

 お互いがお互いを助け、大した被害はなかったらしいが、それは立派な犯罪だ。

 

 紆余曲折あり二人は中学三年生から付き合い始めたらしい。

 

 一緒の高校に通うことになり、今度は一緒のクラスになったので三人組で行動するようになった。

 すると、なんということでしょう。

 入学から二週間経たず、私は呼び出しを受けることになった。

 もちろん、イケメン二人と行動していることに対して100パー嫉妬の。

 でも、それでもいいかな、なんて思っている。

 だって、気づいたことがある。

 二人に向かっていくはずの歪んだ恋情による被害は、私がヘイトを受けることでかわされているということを。

 入学してから、二人とも一度もそんな被害は受けていないと言うから、もしかしたらそうなのかもしれない。

 祐吾と隼人__二人の友達のためだ。私は誇らしい。

 

 16時。

 西校舎三階の突き当たりの空き教室の扉に、手をかけた。

 

「おい」

 声をかけられる。

 ”ヒト女子”目”二人に恋している”科”それでいて怖い恋情を持つ”属”ヤンキー”種の方々だ。

 おそらく先輩。

 この髪や服装が自由な校風のこの学校なのもあり、全員赤や黄など派手な色に髪を染めている。

 胸元にあるリボンやネクタイは緩められているか、無くて第一ボタンが外され胸元が露わになっている。五人。多いぞ。

「あんたさあ、藤堂と榊原について回ってんの、うぜえんだけど」

 藤堂は祐吾、榊原は隼人の苗字だ。

 私の予想通り、先輩方は私に苦言を呈しに来たようだった。 

「あんま近づくなし」

「そーだそーだ」

 私は「早く終わんないかなあ」と思いながら__もちろん表情には出さない__先輩方を見た。

「ごめんなさい」 

「これからはアイツらに近づくなよ?」

「それはできないです」

「は? うざ」

「やっちゃおうぜ」

 とたたたっと、一人が助走をつけて殴りかかってくる。野蛮だなあ。

 私は避ける。

 殴りかかってきた人の手首を抑え、逆方向に曲げる。 

「いたたたっ」 

 そしたら、女子ヤンキー集団の一人がナイフを差し出した。

 刃物は聞いていない!

 すぐさまその人の手首を蹴り上げ、ナイフを手放させる。 

「この事は、今お帰りになられたら、誰にも言わないで差し上げますよ」 

 ナイフはからんと音をたてて床に落ちる。

 二人の自分の手首を抑えたヤンキー女子を見て、ボス格の先輩はこう言った。

「つっよ……」

 「帰ろうぜ」とそそくさとその人達は退散した。

 私も帰るか。

 すると、パチパチと拍手が後ろから響いた。

 振り返ると、少し開いた空き教室の扉から一人の女の子が顔を除かせながら、「ほお~!?」と目を輝かせ拍手をしていた。
* 

「さっき、ゆいちゃんすごかった! パシッパシッて!」

 顔を紅潮させぶんぶんと腕を振り回し、体全体でその少女は感動を露わにする。

「如月さん……?」

 如月(きさらぎ)杏奈(あんな)。

 私のクラスメートで、一言で言うとふわふわした不思議ちゃんだ。

 プラチナブロンドのフワフワのショートヘアに、黒薔薇色のリボンカチューシャをつけている。

 私よりも身長は低く、ハーフなのかぼーっとしているときはお人形さんみたいだ。

 私はいつも幼なじみとつるんでいるが故に、女子の友達はクラスにおらずぼっちだ。

 そんな私は、男女別々の体育のときなどに、如月さんにペアをやってもらっている。

「どうしてここにいるの?」

「え?……手紙、読んでなかったの?」

 手紙? あの果たし状が?

 如月さんが書いたやつだったの?

 どうやら、あの先輩方は一人でいるムカつく後輩を見て絡んできただけらしい。

 私は鞄からそれを出し、「これ?」と訊く。

「そー! それ!……私、ゆいちゃんに伝えたい事があるんだ」

 まさか、如月さんも幼なじみに恋をしていたのだろうか。

 二人はお互い愛し合っているため、私には紹介できないし、防波堤をやり遂げる以上離れることもできない。

 如月さんは、すーはーと深呼吸をする。

 どう断ろうかと、身構えていると。

「す、すしです!」
 

 そう言われた。



 ……寿司?

 

「あっ、噛んじゃった……」

 



 廊下から降り注ぐ夕日が、私たちを赤く照らす。 

「私、ゆいちゃんに憧れているんだ。いつも凛としていてかっこいい」

 如月さんは、自分の両手の人差し指をくっつけて弄りながらそう言った。

 こう褒められると照れる。

「教室でも、よくあなたのことじっと見てた」

 私は、気恥ずかしさを誤魔化すため自分の後れ毛をくるくると弄ぶ。

「好き……なの」

 

 ドストレートな好意。つまり……。

 

「これからよろしく、杏奈」

「えっ、いいの!? 嬉しい……」

 如月さん__杏奈は、青い瞳を潤ませた。

 

 これから私たちは、友達だ!

 

 二人で一緒に下校した。

 手を繋ぐのは、杏奈が嬉しそうなのでいいかなって思う。

 


 次の日。学校の教室に着いたら。

 
「おはよ♪ ゆい」
 と、杏奈に腕を組まれた。

 距離感近いけど、__祐吾と隼人はさすがに肩組んだり手を握ったりするぐらいだ__まあ、いいか。

 すると、遅れて入ってきた祐吾と隼人が目を丸くする。

「おま、女子の友達いたのか」

「失礼だな。てか、小中学校時代の友達なら今も繋がってるし」

 だんだん疎遠になって、一人しか残っていないのは秘密。

「ちょっとぉ、私のぴっぴに馴れ馴れしすぎませんか~?」

 杏奈は私の腕にさらにぐいっと近づき、唇を尖らせて男子二人を見た。

 ぴっぴって何?

「そうか、ゆい。君もか」 

 と、隼人が微笑ましそうにこちらを見た。

 祐吾も「マジか。これが類友ってやつ」と呟く。 

 ???どゆこと?
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