上 下
1 / 1

メンヘラちゃんの七つの悩み

しおりを挟む

「もうまぢ無理……筆折れる……」

 PCの前でそう呟くメンヘラちゃん。
 髪はボサボサで、お気に入りの地雷系の服ではなく白いTシャツワンピースを着用し、暗い自室で目の下に隈を浮かべている。
 彼女はワナビであった。
 人間関係が嫌になって学校を辞め、ネット上でSNSインフルエンサーや配信者を目指し__しかし、親に反対された為、SNSもその活動も止めた__親のスネをかじり、カウンセラーにメンタル回復のためにと勧められた接客業のバイトをする少女だった。
 しかし、自分を発露して認めてもらいたいという欲が強いメンヘラちゃん。
 そんな少女が始めたのが……小説を書くことだった。
 自分の要素を持ち合わせた、自分から生まれた世界観やキャラクター。
 それをブックマークや評価されるだけでも、その日は眠れずギンギンだった。
(メンヘラちゃんは自分の作品を見てもらう場を増やすためにマルチ投稿も行っている)
 承認欲。
 それを絞り作り出すインターネットとは罪なものだ。

 さて、そんなメンヘラちゃんが夜中に参っている主な理由は以下だ。
1.感想・評価がつかない
2.評価がついても低評価
3.自分に才能ない気がしてきた
4.次の展開が思いつかない
5.新しい話を思いついてそっちを書きたくなる
6.アクセス解析をずっと見てしまう
7.眠れない

「助けて、神様……」

 彼女には、メンタルがやばくなった時期から神の声が聞こえるようになった。

『やあ、呼んだ?』

「もうやだリスカしたい」

『駄目だよ。せっかく傷が治ってきたんだから。もったいない』

 リスカ痕は、「残っていると精神性を疑われてしまうので社会に出るとき不利だよ」と母に言われた。神様との対話で衝動性を抑えるのだ。

『さてさて、君が悩んでいるのは上記の七つだね。一つずつ解決していこう』



1.感想・評価がつかない

『そもそも、読者はサイレントマジョリティーだ』

「え……?」

『じゃあ、聞くけどメンヘラちゃんは小説を読んだ後わざわざコメントする? 評価つける?』

「しないよ。面倒くさいし」

『それが普通なんだ』

「そっか……」




2.評価がついても低評価

『やっとついた評価が低評価だったら、確かに悲しいね。でも、評価をつけたのは他人なんだから仕方ないよ。誰かの性癖は誰かの地雷だ』

「しんどい」

『知っているかい?ポジティブはネガティブに負けるんだ。だから、感想欄や評価が荒れてんなと思いながらそっとじしたり、それでも負けないでと、公の場で発言しなくても念じるファンがいるはずだよ』

「私にファンがいるとでも……?」

『いると信じよう。なんなら、将来できるから。筆を折らないかぎり』

「筆折りたい」

『じゃあ、二週間だけ筆を折ってみよう。そしたら書きたくなってくるはずだから』

「どんな確証があってそれを言ってんの?」

『小説を書こう! って思っている人は多少の差はあれど皆そうだからだよ』

「小説って結構書くのに力使うんだよ。今、実際苦痛に思っているし」

『じゃあ、次を解決しよう』




3.自分に才能ない気がしてきた

『なぜ、そう思っているんだい?』

「だって、絶賛されない理由としては私の文章が拙くて、ストーリーが面白くないからに決まってんじゃん」

『あちゃ~、そういうフィルターがかかちゃっているね』

「何? 実際は面白いの?」

『作品の面白さは読む人によって変わってくるけども……君は、この作品最初から書いていて苦痛だった?』

「………………ううん。」

『それは良かった』

「ねえ、作品は苦痛の末に仕上げるのがいいんじゃないの?」

『おおっと、作品を書くことに前向きになったのかい?』

「嫌、まだ休ませて。疑問に思っただけだし」

『そうだなあ。そこは人……運命によるしか。ただ、その苦痛の末に仕上げた人も、ちゃんと仕上げているんだ。書くことを諦めない事が大切だよ。メンヘラちゃんは苦痛だから筆を折りたいんだよね? だから、筆を延命させるために苦痛に思っていることから離れるのも大事なのさ』

「ねえ、私の作品っておもしろいの?」

『面白いよ。作者が一瞬でもそう思ったならね』

「え……?」

『人生も、作品も。良かったかどうか決めるのは他人じゃない。君自身なんだ。』

 神様はメンヘラちゃんに質問した。

『君は、世界の名作と言われている作品が全部面白いと思うことはできたかい?』

「ううん、くそつまんねえなって思った作品もある」

『だろう?』

「はは、そうだね。でも、世間の人は私の拙い文章を見て笑うと思うよ」

『文章なんて、伝わればいいんだよ。大半の人間は気取った文章よりも物語が好きさ。物語が主食、文章はトッピングだ。そもそも世間なんて幻想だよ』

「……もっと頑張ってみようかな」

『偉い! 流石だ』



4.次の展開が思いつかない

「でも、こうなんだ」

『メンヘラちゃん、真面目だねえ』

「え?」

『小説なんて、最初はセリフとト書きだけでいいんだよ』

「私、台本形式を書きたいんじゃないんだけど……」

『チッチッチ。これは骨組みだ。後から肉付けしたりする。絵だって、最初から色を塗り始めたりはしない。下書きを書くだろう』

 メンヘラちゃんは爪を弄った。

『さっきも言っただろう。最低、伝わればいいとね』

「怒られない……?」

『誰が怒るもんか。例え批判する者がいたとしても、それは怒るとはいえないよ』

 死にはしないんだからもっと無敵でいこうぜ、と神様は言う。

「危険思想だあ」

『違うよ、君の味方さ』

 神様は一拍置いて。

『とりあえずまあ、筆の乗るシーンや決まっているシーンを数行で表してみようよ』

「……やる」

 ……しかし、メンヘラちゃんは数分で燃え尽きた。




5.新しい話を思いついてそっちを書きたくなる

「もう無理……新作書きたいです……」

『ああ、そのパターンを繰り返すとエタになるよ』

「なんと」

『気を付けようね。我慢しよう』

「じゃあ、この想いは封印?」

『うーん、メモって残すぐらいなら良いかも。今書いている作品が完結したときに、次作のアイデアになるかもだから』

「らじゃ」



6.アクセス解析をずっと見てしまう

「ああ~、相変わらず書けなーい。」

 メンヘラちゃんはへへへ、と笑いながらアクセス解析ページを開いた。

「あ、私の作品また一人見てくれている。うれぴ」
 or
「ああ……誰も見てくれてない。クソが」

 こうやってアクセス解析画面で、手軽に承認要求を満たそうとするのであった。

「知ってるもん……本当は時間の無駄だって」

『そうだね、作品をみてくれるか、そしてその読者に刺さるかはまさに”ご縁”だ』

 メンヘラちゃんは、机に突っ伏した。



7.眠れない

「なんで書けないのぉ……私ってやっぱ生きてる価値無いんだ」

『もう! 生きている価値はこの世の誰にも計り知れないことだよ!』

「……つまり?」

『メンヘラちゃんが死んだら世界が滅亡するって思うことだ。メンヘラちゃんが生きていた世界が終わるんだよ』

「へん」

『そもそも、書けないのは眠れていないせいじゃないか?』

「んん?」

「脳が疲れている時は創造性が高まりアイデア出しに良いと科学的に証明されている。ぐぐってごらん。__でも、小説を書くのは確かに創造だけど、アイデア出しとはやっている作業が違う」

「つまり?」

『小説を書くのは、一つずつ積み重ねる職人作業なんだ。寝不足で出来るわけないじゃん』

「つまり、寝れば……」

『解決だ』

「無理。眠れないもん」

『何故?』

「眠れないから。強いて言えば明日が来るのが怖い」

『ああ~、思春期だねえ』

「朝がくる前に死んじゃうんじゃ、って考える。または世界が私に不利な世界になるんじゃっ、て」

『それはまあ、運だね。なんとでもなれって無敵になっちゃえ』

「もやだ」

『でもさ、君が幸せになるのが正史なんだ。困難は、人生という物語を盛り上げるハードルにすぎないんだよ』

「私……幸せになれるの?」

『なれる。だからまずは、自分にやさしくしなよ』

「??? 自分にやさしくって、意味わかんないよ。私は充分怠けてるのに」

『うーん、日本人だ』

 眠れるようになるには……。
①お風呂に肩まで使って入る
②ブルーライトを極力浴びない
③脳の切り替え力を育成するために、ベッドでは寝るとき以外ゴロゴロしない
④日中は可能な限り動く
⑤いざというときは病院で睡眠薬を処方してもらう

「眠薬、飲んでくる」

『そうだね、あの名作家もその名作家も、早朝に執筆していたらしいし。日光には、メンタル回復効果が期待できるし、朝型早寝早起きが得だね』

「……本当?」

『実際には人に寄るけど。大半の人間は日光を好むし君には夜より朝が向いているよ』

「そか。おやすみ」

『おやすみ』
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい

どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。 記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。 ◆登場人物 ・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。 ・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。 ・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。

望月何某の憂鬱(完結)

有住葉月
キャラ文芸
今連載中の夢は職業婦人のスピンオフです。望月が執筆と戦う姿を描く、大正ロマンのお話です。少し、個性派の小説家を遊ばせてみます。

押しが強いよ先輩女神

神野オキナ
キャラ文芸
チビデブの「僕」は妙に押しの強い先輩に気に入られている。何もかも完璧な彼女に引け目を感じつつ、好きな映画や漫画の話が出来る日々を気に入っていたが、唐突に彼女が「君が好きだ」と告白してきた。「なんで僕なんかと?」と引いてしまう「僕」だが、先輩はグイグイと押してくる。オマケに自分が「女神」だと言い出した。

おきつねさまと私の奇妙な生活

美汐
キャラ文芸
妖怪、物の怪、あやかし――。 普通の人には見えないはずのものが見える結月は、自分だけに訪れる奇々怪々な日々にうんざりしていた。 そんな彼女が出会ったのは、三千年の時を生きてきた空孤と呼ばれる白い狐の大妖怪。 これは、結月と空孤――おきつねさまが繰り広げる少し不思議でおかしな日常の物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ブラック企業を辞めたら悪の組織の癒やし係になりました~命の危機も感じるけど私は元気にやっています!!~

琴葉悠
キャラ文芸
ブラック企業で働いてた美咲という女性はついにブラック企業で働き続けることに限界を感じキレて辞職届けをだす。 辞職し、やけ酒をあおっているところにたまに見かける美丈夫が声をかけ、自分の働いている会社にこないかと言われる。 提示された待遇が良かった為、了承し、そのまま眠ってしまう。 そして目覚めて発覚する、その会社は会社ではなく、悪の組織だったことに──

エースはまだ自分の限界を知らない

草野猫彦
キャラ文芸
中学最後の試合、直史は強豪校を二安打に抑えながらも、味方の援護なく敗戦投手となった。 野球部には期待せずに選んだ、公立の進学校。だがそこで直史は、同じ中学出身でシニアに入っていた椎名美雪から、入学直後に野球部に誘われる。 全国区のシニアメンバーの大半が入部した野球部は、ごく普通の公立校ながら、春季大会で勝ち進んでいく。 偶然早めに見学に来たもう一人の小さなスラッガーと共に、直史は春の大会で背番号を貰って出場することになる。 速すぎるストレートも、曲がりすぎる変化球も、キャッチャーの能力不足で封印していた直史は、己の力を発揮する場所を得る。 これは研究する凡人と、天才や奇才が集まって、甲子園までは特に目指さないお話、かも。

カフェぱんどらの逝けない面々

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
キャラ文芸
 奄美の霊媒師であるユタの血筋の小春。霊が見え、話も出来たりするのだが、周囲には胡散臭いと思われるのが嫌で言っていない。ごく普通に生きて行きたいし、母と結託して親族には素質がないアピールで一般企業への就職が叶うことになった。  大学の卒業を間近に控え、就職のため田舎から東京に越し、念願の都会での一人暮らしを始めた小春だが、昨今の不況で就職予定の会社があっさり倒産してしまう。大学時代のバイトの貯金で数カ月は食いつなげるものの、早急に別の就職先を探さなければ詰む。だが、不況は根深いのか別の理由なのか、新卒でも簡単には見つからない。  就活中のある日、コーヒーの香りに誘われて入ったカフェ。おっそろしく美形なオネエ言葉を話すオーナーがいる店の隅に、地縛霊がたむろしているのが見えた。目の保養と、疲れた体に美味しいコーヒーが飲めてリラックスさせて貰ったお礼に、ちょっとした親切心で「悪意はないので大丈夫だと思うが、店の中に霊が複数いるので一応除霊してもらった方がいいですよ」と帰り際に告げたら何故か捕獲され、バイトとして働いて欲しいと懇願される。正社員の仕事が決まるまで、と念押しして働くことになるのだが……。  ジバティーと呼んでくれと言う思ったより明るい地縛霊たちと、彼らが度々店に連れ込む他の霊が巻き起こす騒動に、虎雄と小春もいつしか巻き込まれる羽目になる。ほんのりラブコメ、たまにシリアス。

処理中です...