上 下
50 / 74
二章

48

しおりを挟む
「遭遇したらすぐに逃げるからね、一角雷獣《ユニコーン》に」

ストレトが注意を促す。他の反応はない。
皆理解しているから反応しない……という感じだろう。
少なくともクロノアはそうだった。

降雪はいくらか弱まり、足取りが若干軽くなったように感じる。ほぼ誤差のようなものであるため、本当にほんの僅かだが。

一歩一歩、踏みしめる。彼らが現在歩いている場所は、いわゆる雪原。草原が雪に染まったイメージをしてもらえばわかりやすい。気もポツポツと立っている。

その中にぽつりと浮かぶ消えそうなほど薄い茶色の路を、彼らは辿っているのだ。


「――――――逃げましょう」

強い、強い気配。
今まで出てきた魔物の気配よりも、数段階上。
気配を感じた瞬間、体が凍ったように錯覚したほどだ。

(伏線回収すんの早すぎだろ! 悪寒の正体はこれだったのか……!)

強すぎる悪寒。気配が、オーラが強すぎて、遠くにいても感知できた、そういった結論を弾き出したクロノア。

「……そうだな、今すぐ逃げたほうがいい。真っ直ぐ進めば恐らく大丈夫だ」

「もしかして……一角雷獣《ユニコーン》なの?」

動き出さないパーティーメンバー。
ガウナが彼の言葉に乗っかると、その中の一人、ストレトが聞いた。

「あぁそうだ、じゃなきゃこんなこと言わねぇ。
いいから早く走れ――――」

気だるそうに言うガウナ。
その頭上に、電気の塊が出現する。

バチバチバチ――――――。

『コォォ――――――――――ッ!!』

甲高く鳴り響く咆哮。

固有種゛一角雷獣《ユニコーン》゛。 

そいつが使った能力であることに、疑いようがなかった。

「全員散らばれっ、ここから離れろ――――ッ!!」

膝を折り畳み跳び退ると、ガウナは迫真の表情で叫んだ。

――轟く雷鳴。
――輝く雷電。

まるで裁きを下すように――それは地に落ちる。

敵を痺れさせ、戦闘続行を許さないほどの威力を秘めた、雷の怒り。

一角雷獣《ユニコーン》の雄叫びがあがるとともに、頭部に生えた日本の角が光る。
それこそLED電球のように。強く、眩《まばゆ》い光を晒していた。

――――――――雷鎚《らいつい》。

「ファフ! ガード! 避け――――――――」

――――――――――。

ガウナが張り上げた音声を遮り、落下開始。
数秒という時間すら与えずに、それは炸裂する。

彼ら……ファフアルとガードに。

その傍ら、空中に浮かぶクロノアは、頭をフル回転させて考えた。

(やばい、やばい、やばい! このままじゃ二人が致命傷を負う!
どうにかして助けろ、そしてあの人の意思を継げ‼)

今の状況で二人を助けられる方法。魔法を飛ばすことはできるが、届くまでに時間がかかる。届くまでの間に二人はきっとやられるているだろう。

それなら…――と、クロノアは考えた。

前世での知識を、ふんだんに活かすことにした。

「ぅらっ!!」

魔法を発動する暇もない。風魔法で彼らを吹き飛ばすのも、時間の関係で不可能。

彼がとった手法は……グラディウスを投げ飛ばすと言うことだった。
しかしただ投げるじゃなくて、彼らの頭上ギリギリに目掛けて。
精確に投擲した。

避雷針――――。
建物などの設置された、人間や動物を落雷の直撃から守るためのもの。

原理で言えばそれと同じ。それを土壇場で思いついたのだ。

そして、グラディウスにエネルギーが集約する。本来なら地上まで絶対に着地するはずの雷が、一本の武器、グラディウスが道程にあるだけで妨げられてしまう。

「……どうなってるの、あれ」

「……なんで、落ちてねぇんだ?」

一足先に撤退していたストレトが、背面を向いて呟く。
ほぼ同時に、ガウナも目を点にして呟いた。

「……どうなっている」

「速くそこから離れてください! オレが投げた武器は絶対に触らないで!」

「あ、ちょっと!」

それだけ言い残すと、全力で疾駆。身体強化も施して、直線を描いて猛進する。

(武器は投げたから使えない。だから魔法、もしくは足と腕を使って倒すしかない……‼)

逃げることなど、もう念頭には置いていなかった。

降り注ぐあられで満足に視界を得られないながらも、漸く敵の姿が見えてくる。

最大火力――――。炎槍《グリムス》を両腕で握りしめて、右腕から左腕の順番で投擲。一つ目は現在地へ、二つ目は回避予測地点へ目掛けた。

『コァァ――――!』

角が光る。頭部に生えた、螺旋状の角が。

雷槌――――。

「コントロール良すぎるだろ……!」

それは、投射した二つ目の炎槍《グリプス》を、散り散りになるまで砕いた。
空中で移動しているはずの槍を、精確《・・》に射抜いて。

直後、一つ目の槍は普通に避けた。
華麗に身を翻して、空中に駆り出して。

そうしてまた――――雷槌を発動。
クロノアが走り込む直線の、真上に出現。

走行を続ければ、直撃は免れない。
そこで、彼は右足で強く踏みしめて左折。
雷撃により地面が破壊される音が聞こえると、周囲を見渡した。

(――――一つじゃ、ないのかよ)

視界に映ったのは……同時にいくつも出現する稲妻。それは遠い空からではなく、地上からかなり近い位置で発声していた。

雷槌は、上から下が絶対と言う訳ではなかった。

そして今まさに、その雷撃を食らおうとしている彼がいた。

(避けろ――――)

風圧を真下に与える。そこに敷かれていた大量の雪が吹き飛ぶ。

直後、雷鳴と共に電撃が過ぎる。もう真ん前だ、少しでも遅れていたら命中必至だった。

(よし、回避せいこ……)

――――――雷槌。

『コォォ――――――――ッ‼』

地を穿つ雷槍。
頭上――――それも決して遠いとは言えない場所からそれが落ちる。

咆哮から一秒と経たない時間の後、彼は雷に打たれた。



かと思われた。

「真似してみたぜ、クロノア」

真上で激しい明滅を放つ電。その中心には、ガウナが装備していたナックルがあった。

着地して、声の聞こえる方角へ目を向ける。

「ガウナさん‼」

口を突いて出たのは、彼女の名だった。

「もう、一人で行こうとしないでよ」

「まったくその通りだ。一人で勝てるほどあいつは弱くねぇんだよ」

走る二人は、笑顔だ。
少し焦点を変えて奥の方を見ると、荷物を置いて盾を構えるガードと、いつも通り杖を両手でぎゅっと握るファフアルがいる。

クロノアはその場から離脱し、落下した大量の剣を帯びるナックルを見る。

「三人で行くぞ」

すれ違いざまに耳元でささやき、突き進むガウナ。それからストレト。
彼らが地に脚を着ける、その度に軽快な音が鳴る。

――――そうだ、一人じゃない。

彼は思いを改め、戦闘に身を再度投じた。



――――――キ。
強い気配が、頭を刺した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...